
MLBのナ・リーグ優勝決定シリーズ第一試合で、その珍事は起こりました。
現地時間10月13日のブルワーズvsドジャース。4回1死満塁、ドジャースのマンシー選手はセンターへ大きなフライを放ちました。それを相手のセンターがフェンス際まで追いかけ、一度はグラブに収めながらもファンブル。打球はフェンスに当たってインプレーになります。
1死なので、ランナーはタッチアップに備えるわけですが、3塁ランナーはスタートのタイミングを逸してしまい本塁でフォースアウト。そして、2塁ランナーは帰塁したまま進塁せず、これまた3塁でフォースアウトとなってしまいます。
「8-6-2のダブルプレーが成立」という世にも珍しいプレーになりました。3塁ランナーは、なぜ瞬時に本塁を狙わなかったのでしょうか。そして、なぜ2塁ランナーは帰塁したまま走らなかったのでしょう。
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そもそもタッチアップとはどんなプレーなのか、おさらいしましょう(間違いなどありましたらご指摘ください)。
タッチアップとは、野手がフライを捕球するか触れた瞬間に、塁上にいるランナーが次の塁へ進塁すること。似たようなプレーでいうと、バッターに記録がつく犠牲フライがありますね。それは野手がフライを捕球した際に、3塁ランナーがタッチアップしてホームに生還することです。
タッチアップをする際は、野手がフライを捕球するか触れたタイミングで、ランナーは元の塁に触れていなければなりません。そして、野手がボールに触れた時点でスタートを切ることが許されます。ランナー3塁で外野フライが上がった時、外野からの矢のような送球と、キャッチャーとランナーによる本塁クロスプレーは野球の見どころのひとつですよね。
では、先ほど紹介したドジャースのミスはなぜ起こったのか。その答えは、実は上の文章の中にあります。「タッチアップをする際は、野手がフライを捕球するか触れたタイミングで......」という箇所ですね。
よく見るタッチアップは、野手がフライを捕球した瞬間にアウトがひとつカウントされ、同時に打者がスタートする、というもの。しかし、実は守備選手が打球に触れた時点で、ランナーはスタートしていいのです。
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例えば、守備選手がフライを捕球しそこねて、お手玉して慌てていてもスタートして問題ありません。つまり、ドジャースの3塁ランナーは、センターがファンブルした時点でスタートを切ってよかったんです。それでもスタートが遅れてしまったのは、キャッチしてから走る、という練習を続けてきたからでしょう。また、優勝決定戦という極限の緊張状態の中だからこそ、判断ミスを犯してしまったのかもしれません。
そして2塁ランナーは、フライアウトだと思った&レフト寄りの飛球だったので、タッチアップは危険だと判断して走塁を諦めたのでしょう。それが、まさかのファンブル。満塁だったため、ランナーは次の塁への進塁する義務が生まれましたが、混乱したのか進塁することなくアウトになりました。
この出来事は、MLB公式がSNSで「One of the most remarkable double plays you will EVER see」とポストするくらい珍しいプレーでしたが、野球のルールがいかに難しいかということもわかります。そして、これまで長く野球を見てきたけど、まだまだ知らないルールがあるのかもしれないなと思いました。
これまで私が見た中で特に印象的なタッチアップといえば、2024年のプロ野球の開幕戦で、ヤクルトの並木秀尊選手がかなり浅い外野フライで本塁を狙ったシーンでしょうか。普通だったらアウトのタイミングで、一度はアウトと判定されましたが、リクエストでセーフとなり大いに盛り上がったことを覚えています。
タッチアップは、ランナーの足の速さ、守備選手の肩の強さや送球の正確さなどが問われるプレーです。そんなハラハラするシーンはなかなかありません。浅いフライでスタートを切る勇気は相当でしょうが、慌てた守備選手の送球が逸れるかもしれない。ランナーにとっても守備選手にとっても見せ場なのです。
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2021年のセ・リーグCSファイナルステージでは、内野フライでタッチアップというシーンもありましたね。
巨人vsヤクルトの第一戦、初回に村上宗隆選手がショート後方にフライを打ち上げました。すると3塁ランナーだった塩見泰隆選手は、坂本勇人選手が捕球体勢を崩したのを見て、すかさず本塁を陥れました。
しかし、これは犠牲フライの記録にはならず、村上選手に打点のみがつきました。犠牲フライは、外野手か外野のほうまで回り込んだ内野手がフライを捕球した場合に成立するのですが、この時は坂本選手が、外野の位置まで回り込んでいなかったと判断されたようです。
うーん......やっぱり野球のルールって難しい!
それでも、タッチアップのルールはあらためて確認できましたかね? 次に観戦に行く時は、守備選手がフライに触れた瞬間に「いけ!」と大きな声で叫びたいと思います。
それでは、また来週。
構成/キンマサタカ 撮影/栗山秀作
