災害時の通信対策は非効率だった? 4キャリアが連携強化で無駄を解消、「事業者間ローミング」実現へ加速

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2025年10月25日 06:11  ITmedia Mobile

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NTT、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの4社は、大規模災害時の避難所設置に関する協力体制を強化した

 NTT、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの4社は、大規模災害時の避難所支援でエリア分担などの連携を強化していく。避難所への充電、Wi-Fi環境の整備や、災害対策用の電話設置などは、もともと4社が個別に実施しており、重複があった。効率が悪いことに加え、場所によっては支援の遅れにもつながることがある。4社は連携を強化していくことで、こうした無駄を解消していく方針だ。


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 非常時での連携は、能登半島地震の復旧作業以降、大きく進展した経緯があり、KDDIがNTTの用意した船舶に相乗りして、海上からエリア復旧を行った他、KDDIとソフトバンクで給油拠点の共同利用を行った。こうした動きを踏まえ、平時から連携を強化していく取り組みを進めている。今回の避難所支援の分担も、その一環だ。協力体制は、年度内のスタートが予定されている事業者間ローミングにもつなげていく。その中身を見ていこう。


●連携を強化するキャリア4社、避難所設置では役割を分担


 普段は料金、サービス、ネットワークなどで競争を繰り広げている通信大手4社だが、大規模災害時には、一丸となって協力する体制を構築しようとしている。特に、2024年に発生した能登半島地震以降、その反省を踏まえて動きが加速している。冒頭で挙げた船舶の共同利用はもともとNTTとKDDIが協定を結んでいたが、この枠組みにソフトバンクと楽天モバイルも参画。復旧資材を置くためのアセットの共有などにも取り組んでいる。


 また、給油拠点の共同利用や、船舶への資材搬入、設置は、ある日突然やれるようになるわけではなく、オペレーションも事前に確立しておく必要がある。そのため、2025年1月には給油拠点で、3月には船舶で共同訓練を実施しており、4社がスムーズに協力するための準備も進んでいる。


 一方で、被災地に設置される避難所支援は、各社が個別に動いており、その内容が重複することもあったという。NTTの技術企画部門 災害対策室長の倉内努氏は「どうしても重複が出てしまい、結果的に1社が入っていて(既に)通信環境ができていた」こともあったと話す。


 同じ場所に複数のキャリアがリソースを割くことで、結果的に「本来ならもっと早く行けた避難所に行くのが遅れるということもあった」(同)。確かに、設置された充電器やWi-Fiなどの設備は、他社のユーザーであっても利用は可能。充電器がキャリアを選ばないのはもちろん、Wi-Fiも「00000JAPAN(ファイブゼロジャパン)」として提供されるため、契約しているキャリアは問わない。


 そこで4社は協力体制を強化し、「どの会社がどこのエリアに行くかを事前に協議する」という。このエリアはNTT、このエリアはKDDIという形で、担当を分担することで避難所の環境構築を実現するというわけだ。


 手順としては、まず4社の連絡係(リエゾン)が自治体の災害対策本部に入り、そのメンバー間で「どの分担をするのか、被災の状況も含めて調整」(同)する。それに基づき、各社が担当に被災地に出向き、避難所で4社分のユーザーに充電器やWi-Fiなどの通信環境を提供する。


●情報発信も共同で実施、リソース差をどう埋めるかは課題か


 各社が分担して避難所の支援にあたるとなると、その情報も一元化しなければならない。各社のユーザーは、他社のサイトまでチェックしないためだ。各社が分担した場所しか記載していないようだと、必要な情報が行き渡りづらくなる。これまでは、それが分散しているのも課題だった。


 そのため、協力体制を強化したのに伴い、「情報発信の仕方も変えていく」(倉内氏)。具体的には、これまで各社が発信していた情報を、「通信事業者全体で行う取り組みと位置付け、各社のWebサイトから一覧表示する」(同)。ドコモのユーザーがドコモのサイトに行っても、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの避難所情報を見ることができる形になるというわけだ。


 さらに、それぞれの自分が契約していないキャリアの支援設備を使えることをより明確化するため、共通のロゴを作成。「本来はどの会社のものを使ってもいいが、自分のキャリアではないので使っていいのかと感じてしまったというお声をいただいていた」(同)課題に応えた格好だ。


 ロゴは、4本の手が手を取り合うデザインで、それぞれがNTT、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルのコーポレートカラーで塗られている。NTTとKDDIが同系色で少々分かりづらい上に、ドコモやauといったサービスブランドのものではないため玄人向けになっている感はあるものの、各社のロゴを個別で掲載するより、共同利用できることが分かりやすくなった印象を受ける。


 しかし、各社で災害対策に割けるリソースには偏りがある。各社が保有する機材にも差があるため、避難所によって通信環境に差が出てくることもありそうだ。実際、会見で展示されていた機材を見ると、特にWi-Fiルーターは業務用の高性能なものから、コンシューマーに販売しているモバイルWi-Fiルーターまで、大きな幅があった。この凸凹をどうならしていくは、今後の課題になりそうだ。


 現状では、割いている人員や機材が多い会社がより広いエリアを分担するのではなく、「まずは均等にやろうとしている」(同)。その後、「ここにはKDDIがいるが、ソフトバンクが入った方がいいといった形で、足りないところは他から支援するなど、やり方を模索していく」(同)形になる。枠組みを決めて対応に当たるが、実際の運用にはある程度柔軟性を持たせていることがうかがえる。


●強化した協力体制は事業者間ローミングにも生かせるか


 こうした事業者同士の連携を強化していくことで、年度内に開始される予定の「非常時事業者間ローミング」をスムーズに運用できるようになる可能性もある。同サービスの詳細な開始日はまだアナウンスされていないが、現状の制度検討や開発、周知体制などはおおむねスケジュール通りに進んでいるため、遅くとも2026年3月にはサービスが始まる。次の検討に進むタイミングが、近づいてきているといえる。


 NTTの倉内氏は、「(この取り組みは)ローミングのためにやっているわけではない」と前置きしつつ、「ローミングをやっていく中では事業者間がしっかり連携して、どういうところで、どこのローミングをするかの密な連携が必要になる」と語る。「災害対策メンバーがそれを活用できるよう、連携方法や仕組みも含めて検討していくのが次に考えていくこと」(同)だ。


 特に災害時には、基地局が倒壊や停電などで停止する一方、被災地から離れた場所で通信を制御するコアネットワークには影響がないことが多い。そのため、国際ローミングや楽天モバイルとKDDIのローミングに近いフルローミング方式が適用されるケースもあり、災害対策としての期待も高い。倉内氏が、「ローミングは来年度(2026年度)からの大きなポイントになる」と述べていたのは、そのためだ。


 事業間ローミングは、現在、サービス名称が「JAPANローミング」に決まり、その方式が「フルローミング」と「緊急通報のみ」の2つに定められた。その発動条件や実際の運用フロー、ユーザーへの周知方法、さらには端末の設定方法や実際の接続方法など、さまざまな要素が固まりつつある。


 中でも運用フローについては、キャリア同士が災害などによって事前に発動が予想される場合に備え、連絡体制の事前構築を行う必要性が指摘されている。事業者間ローミングは、発動要件の確認や、依頼書の作成、さらにはネットワークの設定などで、実際に開始されるまでには数時間を要する。


 この時間を短縮するためには、事業者間連携や事前の共同訓練などが必要になる。また、端末によっては設定の変更などを行わなければならないが、避難所での協力体制をその周知に生かしていくこともできそうだ。事業者同士の連携体制を強化してきたことが、事業者間ローミングのスムーズな導入の一助になることを期待したい。



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