【高校野球】高川学園躍進のワケ 全面人工芝、LED照明、ウエイトルーム...プロ顔負けの設備の全貌

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2025年10月25日 09:20  webスポルティーバ

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令和の強豪校・高川学園〜躍進の理由(後編)

 山口県の高川学園高野球部は、今夏の甲子園で過去最高の16強、今秋の国民スポーツ大会では準優勝と躍進を遂げた。

 1911年創部と歴史は古いが、前身の多々良学園時代、甲子園出場は1984年春の選抜の1度のみ。2005年、徳島県を拠点に学習塾経営などを手がける株式会社タカガワに経営を譲渡し、翌2006年に現校名となると、2016年夏、2021年夏、そして今夏と10年で3度、山口の頂点に立った。

【全面人工芝の専用グラウンド】

 驚くのはプロ並みの設備面だ。2020年、専用グラウンドを全面人工芝へとリニューアル。バックネット裏の本部席上に約130席の観覧席を設置し、電光掲示板へと生まれ変わったバックスクリーンには球速も表示される。ウエイトルームも近く2000万円ほどをかけて新設する予定だという。

 野球以外でのケアや食育にも力を入れている。週に一度、ピラティスのインストラクターを招き、ケガ予防とパフォーマンス向上のためのエクササイズを取り入れたことで、腰痛などのケガが激減した。

 寮生活では、ひとり1日7合(朝2合、昼2合、夜3合)の白飯を食べることがノルマ。メインのおかず以外はバイキング形式になっており、自分自身で自由に選ぶことができる。米などの食料品の価格が高騰を続けるなか、学校の援助や、地域の差し入れなど、多くの協力もあり、思う存分お腹を満たすことが可能だ。

 2019年冬からチームの指揮を執る松本祐一郎監督は、3学年79名の選手たちに「この環境は当たり前じゃないで!」と口癖のように伝えることを忘れない。

「なにか目指したいものがあればとことん頑張ることができる場所なので、羨ましい限りです。LEDのナイター照明も完備されているので、選手たちは自由に自主練習を行なうことができます、(引退した)3年生も出てきてくれるんです。そこがひとつの強さにつながっているのではないでしょうか。学校側の援助や先生方の応援、周囲の協力など、さまざまな要素がかみ合って、選手たちは成長しやすい環境下にいるのだと思っています」

【2019年から部署制度を導入】

 人間形成において重要な期間である高校3年間を野球だけで終わらせない取り組みも行なっている。全国的に強豪で知られるサッカー部を参考に、2019年から「部署制度」を導入。農業部、企画部、食事部、用具・グラウンド部、寮統括部、集計管理部、組織管理部、おもてなし部、地域・学校貢献部、分析強化部の10部署を設置し、選手それぞれに役割と責任を与える。

 今秋ドラフトで阪神から1位指名を受けた右の強打者・立石正広(創価大)は食事部の部長として補食やプロテインの管理などを行なっていた。導入当時の監督だった西岡大輔部長が経緯を説明する。

「サッカー部の部署に少しアレンジを加える形で導入しました。食事部に関しては、部員は毎日3食必ず行なうことなので、ブレずにやってくれる子でないと任せられません。なかには、今日ご飯はいいや、という子もいます。指導者が1から10まで見張る部分ではありません。立石は部長として、きちんと責任感を持ってやってくれたと思います」

 企画部は月に1回、小中学生を対象にスポーツスクールを開催。甲子園出場の効果もあり、9月には過去最多の35人が集まった。昨年末には山野太一投手(ヤクルト)、椋木蓮投手(オリックス)、そして立石ら名だたるOBが講師役を務めた野球教室に訪れた150人をしっかりと誘導し、スムーズな進行をアシストした。

 ほかにも農業部がジャガイモやキュウリなどを栽培。育てた農産物を地域・学校貢献部が地元住民に配ったり、駅周辺の掃除なども行なう。来客の際にはおもてなし部が対応するなど、ユニークな部署を通して支えてくれる地域に恩返しを図っている。

 松本監督は「僕は甲子園がすべてではないと思っています」と力説する。

「高校野球はプロではなく、教育の現場です。次のステップへと進んだ時、そして野球を終えた時に何か残るものがひとつでもあればいいなと思っています。それが高校野球、そしてスポーツをやる理由ではないでしょうか」

【中国大会でまさかの兄弟対決】

 歴代の先輩たちが一つひとつ丁寧に積み上げてきたことが伝統となり、今夏甲子園の16強、そして国スポ準優勝の好結果へとつながった。今秋の新チームは山口4位ながら、中国大会開催地ということもあり、4枠目での出場が決定。夏春連続甲子園出場の可能性を残している。

「2年生で国スポに連れて行った選手は、秋季山口大会の準々決勝から12日間で6試合を戦いました。言い訳にはできませんが、やっぱりきつかったと思います。ただ、準決勝、3位決定戦の2日間は元気がなかったから、体の中から元気を出してよ、とお米を送ってくださった方がいて、本当にうれしくて......。選手たちと、頑張らないといけんよね、と気持ちを新たにしました」

 来春センバツ出場の重要な参考資料となる中国大会は10月24日に開幕した。高川学園は2日目に広島1位の広陵と1回戦で激突する。なんの運命のいたずらか、松本監督の母校であり、今秋から指揮を執る松本健吾監督は実の弟だ。

「広陵は中国地方では避けては通れない相手。いつかは当たると思っていましたが、やりたくないというのが本音です。弟とも『今年は当たりそうやな』と話していました。ただ、ひとまず私情は二の次で、ウチは勝つために必死でやることに変わりはありません。結果は後からついてくるものなので、今は(センバツ出場の可能性がある)そういう土俵にいることができるということは、すごくうれしいことだと思っています」

 母校の高い壁を乗り越え、中国覇者として神宮大会出場となれば「とんでもない1年になりますね」と笑顔を浮かべる。飛躍の2025年を最高の形で締めくくり、高川学園の歴史に新たな1ページを刻む。

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