AIだけでは足りない、外食業界を支える人の技と共創の力

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2025年10月25日 18:00  BCN+R

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外食業界のクリエイティブとは?
【外食業界のリアル・25】生成AIが業務やフロー、ビジネスの在り方までを変えつつあるが、外食業界にもその波は押し寄せている。誰もが簡単に画像や動画、文章が作れてしまう便利さがある一方、実際の店舗やメニューとの乖離はクレームやトラブルにもつながりかねない危険性を孕んでいる。今回は、生成AIと外食業界のクリエイティブについて語りたい。

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●外食業界と生成AIの今

 コロナ禍を経て、飲食業界は活気を取り戻し、新規集客やリピーター施策などの拡販に力を入れるようになっている。それに伴い、新メニューや季節フェア、キャンペーンも増加し、オウンドメディアやグルメ媒体、広告、LINE、XやインスタなどのSNSでの情報発信も活発となっている。その中で画像作成や文章作成などに生成AIを活用することは当たり前になりつつあり、クリエイティブ作成から投稿までを安価にできるサービスも出てきている。

 生成AIは、登場したときから広告文や記事、配信メッセージの作成に活用されており、たたき台となる案を作成して壁打ちしながら品質を高めていくのが通常の制作工程になっている会社も多い。画像においてもデザイナーが全てを自分で手を動かして作成すると、どうしても工数がかかってしまい、スピード感が出ない。

 しかし、AIを活用することで、時間を従来の半分以下に短縮できたという実績がある。画像に最適化された生成AIを活用することで、料理写真やさまざまなシチュエーションを再現したものを高い精度で生成できるようになっている。

 一方、生成AIの画像は「理論的には正しいが、実在感・物語性に乏しい」という指摘も業界から出ている。特にチェーン店では実際の店舗・料理との乖離がトラブルへとつながるために活用シーンが限られてしまう。

 例えば、焼鳥をガスグリルで焼いているのに、炭火で焼いている画像を掲載してしまうと誤認を与えてしまう。そのため生成AIへの指示出しとなるプロンプトは考慮が必要となるし、そのチェックにもそれなりの時間がかかることもあり、カメラマンによる撮影というニーズは根強くある。特にプロのカメラマンには色褪せない付加価値がある。

●プロカメラマンにしかできないこと

 生成AIが手軽に“料理風画像”を作れるようになったとしても、プロカメラマンが店舗撮影や料理写真などで果たしてきた役割は決して色褪せるわけではない。むしろ、AIとの違いを際立たせる力がその存在価値になっているともいえる。

 まず挙げたいのは 物語性(ストーリー性)の再現がある。プロのカメラマンは、料理を出す瞬間、湯気が立ち上るタイミング、照明と影の陰影、器の質感やテーブル小物の配置までを緻密に設計して撮影を行う。そうして生まれた「意味ある1枚」は、単なる料理写真を超えて「この料理が誰のためにあるのか」「この店が伝えたい世界観は何か」を観る人に語りかけるほどの力を持つ。

 また、業態(ブランド)の世界観の表現も重要だ。大衆的な居酒屋や高級店、モダンなカフェ、和食割烹など、それぞれの業態には特有の“空気感”がある。AIが生成する画像は、どうしても“平均的で無難な美しさ”に落ち着きやすいが、プロのカメラマンはその業態の世界観はもちろんのこと、その空間や雰囲気を理解して撮るため、“その店らしさ”を撮ることができるのである。

 もちろん実際の店舗で撮影時に多少のレイアウトを変更したり、掃除をしたりと、多少の脚色はゼロではないが、あくまで現実の延長線上である。一方、撮影ではディレクターやカメラマンがいないと成り立たないし、内容によってモデルなどの人物も必要となり、それなりにコストがかかってしまうのがネックとなる。

●生成AIと人の共創とは

 生成AIと人(プロカメラマン)はそれぞれメリット・デメリットがあるが、どちらが外食業界に適しているのかというゼロヒャクの話ではない。これからの現場で求められてくるのはいかに共創していくのかである。

 AIの最大の利点は各種クリエイティブでたたき台となるようなラフやコピー案を短時間に膨大な量を生成できることである。それを担当者が選定し、必要に応じて調整をしながら仕上げていく。広告であればコピーや画像作成、バリエーション展開に有効であるし、デザイン・撮影においても方向性や構図など、具体的なすり合わせをしていくことが可能となる。

 撮影においては生成AIで作成したものをイメージとして使うのか、プロカメラマンに依頼をして撮影をするのかは予算次第となるであろう。全てをプロカメラマンと実施するよりは生成AIを活用することで工数を圧縮でき、クオリティを高めつつ、費用の削減も可能になるだろう。

 また集客においては全ての施策やデザインが成功するわけではないが、生成AIを活用することで短期間にPDCAサイクルを回していくことができる。ABテストの実施と効果検証をAI活用によって実現し、短期間で成果を上げる、つまりコスト最適化を質の担保を両立できる。

 もちろん、それを組織的に実施していくためにはプロンプトを含めたフローとマニュアルの整備が必要となる。しかし、すでに多くの企業が取り組んでおり、一定の成果を出しているのが実情である。専門性を持った人員でしかできないとされていた領域も生成AIによって垣根がなくなってきている。

●「AI+人」の時代は始まっている

 生成AIは、飲食業界の集客全般において「初動を速め、仮説を試す力」を劇的に強化したといえる。一方で、プロのカメラマンやクリエーターが持つ“世界観”や“空気感”が撮る技術は依然として業態を支える核でもある。だからこそ、これからは「AI対人」ではなく「AI+人」の共創をどのように実現していくのかが、成功を左右するポイントになるだろう。その時代はすでに始まっている。(イデア・レコード・左川裕規)

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