
KDDIは10月28日、都内で「KDDI SUMMIT 2025」を開催した。松田浩路社長は基調講演で、Google Cloudとの戦略的提携を発表した。
前日の27日に契約を結んでおり、コンテンツプロバイダーの著作権を保護しながら生成AIを使える新サービスを来春から始める。大阪堺データセンターは2026年1月下旬に動き出す。
●「Gemini」や「NotebookLM」を使って記事検索 コンテンツの無断利用から保護
松田氏は「コンテンツプロバイダーのコンテンツを守るのは、携帯電話事業者にとって黎明(れいめい)期から取り組んできた使命だ」と述べる。今の生成AI検索サービスだと、利用者は情報の正確性を判断しにくい。コンテンツプロバイダーにとっては、無断利用が懸念される。
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新サービスは、参加したメディアのコンテンツに、利用者がAIで質問できる。例えば「最近の半導体業界はどうなっているか」と聞けば、参加メディアの記事や専門情報から答えが返ってくる。
使うのはKDDIのソブリン性を持つクラウド環境で動くGoogleの「Gemini」や「NotebookLM」だ。ソブリン性とは、データの保管場所や管理権限を国内に置き、データ主権を守る考え方を指す。
メディア側には、コンテンツの著作権を守りながら新しい収益の道が開ける。これまでの生成AIサービスだと、メディアのコンテンツが勝手に学習に使われてしまう恐れがあった。
新サービスでは参加メディアが出したコンテンツだけをAIが見て、使われた分だけメディアにお金が入る。最初に参加するのはNewsPicks Select、ナタリー、価格.com、LDK、マンションノート、mamariだ。
Google CloudのMatt Renner氏(プレジデント グローバル営業担当)はビデオメッセージで「KDDIの長期的なテクノロジーパートナーとして、日本の社会的価値構築に取り組む」と語った。
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●シャープ工場を活用したデータセンター
大阪堺データセンターは、シャープから買ったパネル工場跡地を使う。延床面積は約5万7000平方メートルで、再生可能エネルギー由来の電力を100%使う。
松田氏は「データセンター運営の技術と通信局舎の技術を組み合わせ、時間を短縮して提供できた。何とかAI時代に間に合った」と話した。
NVIDIA GB200 NVL72をはじめとする最新世代のAIサーバを載せ、直接液体冷却方式の水冷技術で冷やす。日本国内にデータを置いてソブリン性を守り、広帯域・高品質なネットワークでデータをかき集める。
松田氏は、これまでのテクノロジーへの投資が今の社会を支えていると指摘し、「次の循環に向けてAIへの投資を進めている」と話した。
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●OpenSignalの通信品質評価で3連覇を達成
KDDIは基調講演で通信品質の評価も報告した。OpenSignal社がこの日に発表した国内の「モバイル・ネットワーク・ユーザー体感レポート」で、全18部門中11部門で1位を取った。国内MNOでは最多で、3期連続の最多受賞となり3連覇となった。松田氏は「今朝、うれしいニュースが入ってきた」と、当日の発表を報告した。
●「テクノロジー」「リアル」「循環」で地域課題に向き合う
松田氏は基調講演で、「誰もが思いを実現できる社会を作る」というビジョンを掲げ、人口減少や少子高齢化といった社会課題の解決に向けて3つの力で貢献していくと話した。
1つ目は「テクノロジー」だ。通信を一丁目一番地と位置付け、通信品質にこだわってきた。その成果として、OpenSignalの評価で3連覇したと報告した。
2つ目は「リアル」だ。全国津々浦々に足を運んで通信インフラを整え、当たり前のインフラとしてどの地域でも使えるようにしてきた。auショップ2000店舗、au PAY会員3800万人、子会社化したローソンの店舗網といったネットワークを持つ。
松田氏は「テクノロジーは社会実装して価値が出る。そのときリアルが心地よく、心温まるものになるかが大事だ」と話した。
3つ目は「循環」だ。局所的な取り組みを広域へ広げ、社会貢献から事業へとつなげて続けられるようにする。松田氏は「循環が一番重要だ」と話した。
●ドローンと衛星通信で災害対応
「循環」の具体例として、ドローンと衛星通信の取り組みを紹介した。
ドローンは、古くなった社会インフラの点検や災害時の初動対応に使っている。石川県に4カ所のドローンポートを常設し、橋りょうや鉄塔の点検、増水時の避難勧告などに使う。ドローン子会社は黒字になった。今後、ドローンポートを1000カ所まで増やす。松田氏は「循環し始めている」と手応えを話した。
衛星通信は、災害時だけでなく地域イベントでも使う。音楽フェスなど何万人も集まるイベントで、通信が混む場所にピンポイントで衛星通信を当て、モバイルオーダーやグッズ販売の混雑を解く。
先日の台風22号では、基地局がダウンしたとき、携帯電話が自動で衛星通信へ切り替わった。八丈島では「au Starlink Direct」の通信量が増えた。松田氏は「準備万端にして先手を打つことで、日本のお客さまに今使える環境を提供している」と述べた。
これまでのテクノロジーへの投資が今の社会を支えているとし、「次の循環に向けてAIへの投資を進めている」と、データセンター稼働の意義を話した。
●地域活性化の取り組み 交通や産業を支援する
松田氏は、地域の課題を「暮らし」「産業」「人」の3つに分けて説明した。
暮らしでは、地域交通の支援を挙げた。つくば市の乗り合いタクシー「つくタク」や、港区高輪ゲートウェイ周辺のオンデマンドモビリティ「みなのり」を動かしている。松田氏は「免許を返すと足がなくなる。都会であっても基幹交通を補う形での交通が重要だ」と話した。
「産業」では、1次産業支援に取り組む。米作りの水管理(豊岡市)、万願寺甘とうの環境データ管理(京都府舞鶴市)、あまべ牡蠣の養殖管理(徳島県海陽町)など、デジタル技術で生産量を安定させたり品質を上げたりしている。
松田氏は「局所的な取り組みを広域へ、社会貢献から事業へと循環させることが重要だ」と述べ、循環させなければあまねく広がっていかないと話した。
●良品計画との対談で「土着化」の重要性を議論
イベント後半では、良品計画の堂前宣夫会長とのトークセッションがあった。両社長は山口県岩国市出身で、小学校から高校まで同じ学校に通った縁がある。
堂前会長は、無印良品が取り組む「土着化」を説明した。地域活性化を企業の定款にも書き込み、各地域の活性化に貢献したい人を支える形で事業を回している。奈良県橿原(かしはら)市の2400坪の大規模店では、地元の産品を売る「つながる市」を開き、生産者に場所を無償で貸している。
経営面では「店長が社長の代わりに何でもすぐ決められるよう、力も付けさせるし権限も渡す」と、店舗への権限委譲を進めてきた。「人が第一で、ビジネスは次で必ず付いてくる」という方針を2年間徹底し、ここ2年で結果が出始めたという。
松田氏は「地域の方々が経済的にも回っていくというのは見落としていた」と応じた。KDDIはローソンを子会社にしており、地域密着型の経営やスタッフへの権限委譲は共通の課題だ。両社は、テクノロジーで裏方の仕事を効率化し、人が接客に力を入れられる環境を作る大切さを話し合った。
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高速バス「携帯充電器は手元で」(写真:ITmedia NEWS)55

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