
年利6〜7%という高い利回りをうたい、個人投資家から巨額の資金を集めた不動産小口化商品「みんなで大家さん」。運営会社である都市綜研インベストファンドなどが2024年6月、不動産特定共同事業法(不特法)違反で行政処分を受けると、投資家の表情は一変した。
【画像】公式サイトに掲載している、「元本保証はされていますか?」という質問への回答
同社がうたった「15年間元本割れなし」という安全神話は崩壊し、配当停止や元本返還の遅延が続出。全国で集団訴訟が起きる事態に発展している。
なぜ、これほど多くの個人投資家が、市場金利とかけ離れた高利回りの「罠」にはまったのか。本件は、個人の資産形成が叫ばれる現代において、金融リテラシーの欠如がもたらす深刻なリスクを浮き彫りにしている。
●異常な高利回りと「安全」の幻想
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まず、「みんなで大家さん」が投資家に提示した年6〜7%という想定利回りは、「安全性の高い投資」にしては極めて高い数値であることを認識しておきたい。
日本銀行のマイナス金利政策がようやく解除されたとはいえ、市中の金利はいまだ1.6%程度だ。国債のようなリスクの低い安全な資産で大きなリターンを得ることはいまだ困難である。
投資の鉄則として、「ハイリスク・ハイリターン」「ローリスク・ローリターン」という原則がある。
高いリターンを期待するならば、それ相応の高いリスク(元本割れの可能性)を受け入れなければならない。しかし「みんなで大家さん」は「元本割れなし」や「不動産評価額が下落しても、まず事業者の出資分が損失を吸収する」といった言葉で安全性を強くアピールしていた。
この「ローリスク・ハイリターン」をうたうかのような矛盾したメッセージこそ、投資家が最初に疑うべき危険信号であった。
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年7%のリターンがもし安全に達成できるのであれば、名だたる金融機関がこぞってその事業に融資するはずであり、わざわざ個人投資家に向けて広告やCMに巨額の費用を投じて資金集めに頼る必要はない。
この単純な経済原則の見落としが、罠の入り口であった。
●2022年から「自転車操業」状態とHPで開示され続けていた
では、なぜ「みんなで大家さん」は過去15年間、高配当と元本割れなしを維持できたのか。その答えは、事業の収益構造ではなく、資金調達の構造にある。都市綜研インベストファンドのデューデリジェンスレポートや財務分析によれば、そのスキームは新規投資家からの資金を既存投資家への配当に充てる、いわゆる「タコ足配当」と酷似した特徴をもっていた。
営業者である都市綜研インベストファンドの財務諸表は、その脆弱性を明確に示している。
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2022年3月期の決算では、手元の現預金が約45億円に対し、年間配当の予想支払額は、当時の出資金869億円に年利7%を掛けると約60億円に達すると試算され、手元資金だけでは到底配当をまかなえない状態だったのだ。
健全な不動産投資であれば、配当の原資は対象不動産から得られる「賃料収入」であるはずだ。
しかし、同社は事業から十分なキャッシュフローを生み出せていなかった。にもかかわらず高配当を継続できた唯一の方法は、新たに出資を募った別のファンドの資金を流用することであった。
この構造的欠陥は、2024年6月の行政処分によって新規の資金流入が停止したことで、即座に露呈した。
最大の資金源であった「ゲートウェイ成田」関連ファンドの問題が、無関係であるはずの鹿児島や三重のファンドを含む合計27商品にまで波及し、配当遅延が「伝染」したのだ。
これは、各ファンドの資金が分別管理されておらず、単一の巨大な資金プールで「ドンブリ勘定」されていたことの動かぬ証拠となった。
財務健全性の目安とされる自己資本比率は、一般的に30%以上を安定企業の基準とし、50%以上で優良企業とされる中、同社はわずか7.9%だった。これは会社の資産のほとんどが投資家からの預かり金や出資金、つまり「負債」で構成されていることを意味し、極めて脆弱な財務基盤であった。
個人投資家が専門的な財務分析を行うことは困難かもしれない。しかし、同社は2022年から構造的に持続不可能であることが予見できる財務指標を開示し続けており、少しでも注意を払って開示資料を読み込めば、異常性に気づけるレベルの明らかな危険信号が点灯していたのである。
●金融リテラシー向上が唯一の防衛策
「元本割れなし」という宣伝文句の裏で、運営母体は常に破たんと隣り合わせの経営状態にあった。この情報は長年公開されていたにもかかわらず、多くの投資家は高利回りの魅力に目を奪われ、足元のリスクを検証することを怠ったと言わざるを得ない。
なぜ個人投資家は、これほど多くの危険信号を見逃したのか。
そこには、ゼロ金利政策の長期化による利回りへの渇望があるのではないか。物価上昇により預金や賃金の実質的な価値が目減りする中、銀行に預けても資産が増えない焦りが、高利回り商品への過度な期待を生み出し、冷静な判断力を鈍らせたと考えられる。
また本件は、2012〜13年にも同社が資産過大評価という不適切な会計処理で行政処分を受けていたという過去があった点も見逃せない。一度ならず繰り返される法令違反は、組織の体質そのものに問題があったことを示唆している。
「みんなで大家さん」の破たんは、個人投資家にとって痛烈な教訓となる。大きなリターンを「安全」に提供するようなうまい話は存在しないし、存在したとしてもWEB広告やCMで誰でも知ることができる状態で放置されることは起きない。投資にあたっては、「あなたは特別な存在である」という宣伝文句に足をすくわれないよう、常に自身の置かれた立場を再考するといった姿勢が必要なのだ。
個人の資産形成において、自らの資産を守る唯一の武器は金融リテラシーだ。投資とは、事業のリスクを理解し、その対価としてリターンを得る行為に他ならない。
「市場金利とかけ離れた高利回り」には必ず裏があると疑う健全な懐疑心こそが、第二、第三の「みんなで大家さん」から身を守る最良の防衛策となる。
筆者プロフィール:古田拓也 株式会社X Capital 1級FP技能士
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックスタートアップにて金融商品取引業者の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、広告DX会社を創業。サム・アルトマン氏創立のWorld財団における日本コミュニティスペシャリストを経て株式会社X Capitalへ参画。
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