現場に聞く PFUのイメージスキャナーならではの強みが生まれる理由

0

2025年10月29日 15:11  ITmedia PC USER

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ITmedia PC USER

PFU ドキュメントイメージング事業本部シニアディレクター兼スキャナー開発統括部SS/KB-HW開発部長の若浦具視さん

 PFUのイメージスキャナーは、2009年12月には世界累計販売台数が100万台を突破したのに続き、2023年2月には1500万台を越えて現在では1600万台に到達しており、世界No.1のシェアを持つ。そのうち、ScanSnapシリーズの世界累計出荷台数は、2024年で730万台に達しているという。


【その他の画像】


●現場にこだわり品質にもこだわる


 PFUのイメージスキャナーが、世界の市場から受け入れられている理由は何だろうか。


 PFU ドキュメントイメージング事業本部シニアディレクター兼スキャナー開発統括部SS/KB-HW開発部長の若浦具視さんは、「PFUは、より多くの人が快適に使えるように世界をリードする技術を提供してきた。常に挑戦し続ける技術開発の積み重ねが、世界の市場からPFUのイメージスキャナーが評価されている理由である」と語る。


 そして、PFUならではの開発に対する特徴的な姿勢をいくつか挙げる。


 1つ目は、「現場を知り、設計に生かす」という姿勢だ。


 若浦さんはこんなエピソードを披露する。


 「ある地域に向けて出荷した製品だけトラブルが多いため、実際に現場に出向いてみた。すると、日本では想定できないような砂ぼこりの中で使っていた。また、高温高湿の環境で使われたり、海抜4000mという環境でも使われたりもしている。開発者が現場を訪れ、現場を知り、それを元に技術に改良を加えてきた」と語る。


 ユーザーの利用環境を見ることで、気が付かない困りごとを解決するというのが、PFUの開発手法だ。


 左右どちらの利き腕でも使いやすいようにスキャナーのADF(自動給紙機構)を回転させる構造を採用したのも、その一例だ。さらに「Uターンパス機構」では、片面機でありながら両面原稿の読み取りをスムーズに行えるようにし、「エレベータスタッカー」では大量に排出された原稿が取り出しにくく、それが作業効率を下げてしまうことに着目し、原稿排出部の高さを自動的に制御している。


 このように、実際に使う人を意識した工夫が随所に盛り込まれているわけだ。


 2つ目は、「圧倒的な評価量から生まれる、確かな品質」だ。


 PFUでは、高温高湿や低温低湿の環境をそれぞれに再現する環境試験室を本社エリアに設置し、長期的な評価試験を実施することで、環境や紙の状態に変化が生じても変わらない性能で利用できるようにしている。これも現場の過酷な利用状況を知るからこそ、実施している取り組みの1つだ。


 実は、イメージスキャナーに搭載されている給紙や紙送りといった機構は特別なものだ。構造を考えると、コピー機やプリンタと似ているが、それらの製品で使われている技術とは求められる水準が大きく異なる。


 というのも、コピー機やプリンタで使用されている紙の多くは新品であり、コピー用紙などの一定の品質を持ったものだ。給紙や搬送も、コピー用紙を前提に考えればいい。だが、スキャナーで給紙/搬送し、読み取る紙は既に印刷されているものであり、中には長期間に渡って管理状況が悪い中で保管されてきたものも含まれる。


 また、紙質にも大きな差があり、名刺のような厚みを持ったものから、学校でよく使われていた“わら半紙”といった薄いものまで千差万別だ。海外に行けば、さらに多様な種類の紙が対象になる。中国では極めて薄い紙が使われていることも多いという。これらの重要な書類や原稿を傷つけてしまうことは許されない。


 PFU ドキュメントイメージング事業本部グローバル戦略統括部の轡田大介さんは、「DXの進展に伴い、アナログのデータを電子化するといったプロジェクトが、企業や官公庁、学校などでも増加しているが、これらのプロシェクトでは、模造紙やわら半紙など、紙質が悪い昔の紙が少なからず出てくる。また紙は生き物であり、環境によって紙質が大きく異なる。これらを安全にスキャンする必要がある」と前置きした。


 そして「スキャナーメーカーに求められるのは、コピー機やプリンタとは水準が異なる給紙および搬送時の信頼性と安心感である。PFUが持つイメージスキャナーのコア技術は、それを追求したものといえる」と語る。


 PFUでは、40年以上に渡るスキャナー事業の経験の積み重ねの中で、世界中のさまざまな種類の紙を収集しており、これを正しくスキャンするためのノウハウを、ハードウェアとソフトウェアの両面から蓄積している。


 具体的には、ハードウェア面では、紙づまりを引き起こしやすいカールやシワ、折り目の付いた原稿など、種類やサイズ、厚さを問わず安定した給紙を可能する一方で、ソフトウェア面では、折り目の部分をそのままスキャンすると影の線が出てしまうが、それを解決できる画像処理技術を持つ。


 「トルコでは身分証明書としてカードを携行しているが、これをポケットに入れているためシワができたり、テープで補正して厚みが増えたりする。中には、色紙以上の厚みになっていたりするケースもある。だが、利用現場ではこれらの全てを読み取りたいという要望がある。そうした紙でも搬送できる構造を持っているのがPFUのスキャナーの特徴だ」(若浦さん)と胸を張る。


 給紙および紙送りにおいて、同社独自の技術といえるのが「音検知(iSOP)」機能だ。


 前回の記事でも触れたように、大きく傾いて搬送された原稿や、ステープル留めされた原稿の紙詰まりの際に、発生する異常音を検知し、搬送を停止する。


 原稿を保護する機能はこれだけではない。移動量を監視する機能により、原稿が用紙センサーにたどり着かなければ紙詰まりと判断し、搬送を停止。原稿へのダメージや、破れるリスクを低減しているという。


 また、同社のスキャナーに搭載されているブレーキローラーは、異なる紙質のものでも2枚目以降の原稿を分離し、万が一複数枚の紙が重なった状態で紙送りが行われると、ローラーが逆回転をかけて次の紙を押し戻す。


 また、業界で初めて超音波方式を採用したマルチフィードセンサーにより、さまざまな原稿を混載した場合に、読み飛ばしを防ぎ、1枚1枚を確実にスキャンすることができる。


●独自SoCも開発し開発手法にもこだわり


 一方、次世代SoCと位置づける「iiGA」(イーガ)も特徴の1つだ。


 同社が12年ぶりに刷新したSoCで、最新のScanSnap iX2500に採用しており、高速スキャンおよび高速起動を実現すると共に、省電力化も果たす。iX2500では大型タッチパネルを通じたスマホのような操作性や、無線LANのWi-Fi 6(WPA3/TLS 1.3対応)のサポートなどを実現している。


 「スキャナーを開発するのに、SoCの企画からスタートするメーカーは他にはない。当社の祖業は、コンピュータメーカーであり、そのDNAが流れている。だからこそ、自前でSoCを開発することにもこだわる」(PFUの轡田さん)とする。


 ちなみに、iiGAの名称は「いい画質を実現する」という意味を持たせると同時に、石川県で「いい感じにやって」の意味で使われる「いいがにして」を語源にしているとのことだ。


 さらに、独自のスキャナードライバである「PaperStream IP」により、自動で最適な画像処理を実現し、不要な地紋やノイズを除去したり、文字の太さや濃さを補正したりすることができる。


 また、並べた複数の名刺を一度にスキャンした場合でも、名刺ごとに切り出して保管することが可能な「マルチクロップ機能」も特徴だ。加えて、ScanSnap Cloudにより、スキャンした文書/名刺/領収書/写真を自動的に分類し、クラウドサービスに振り分けて保存も行える。これにより、読み取り作業を行う前の仕分け作業や、読み取り後の整理にかかる手間を省くことができる。


 これらのハードウェアおよびソフトウェアの製品開発の手法は、同社に蓄積された長年のノウハウによって構築されている。


 例えばハードウェアの開発においては、現物を作り上げる前にシミュレーションだけでかなりのところまで追い込むことができているという。


 轡田さんは「論理を積み上げてシミュレーションを行い、テストフェーズで詰めていくという手法を採用している。紙送りを始めとして紙の挙動に関するデータを数値化しており、これが当社ならではの大きなノウハウになっている。モデルとパラメーターを組み合わせて、さまざまな種類の紙を、正確に安心して搬送するというアナログの動作を、いろいろな形でシミュレーションするノウハウがある。これだけのノウハウを蓄積しているメーカーは他にない」と断言する。


 PFUでは、顧客から得た要望や情報を元に製品開発を進めている。


 スキャナーの販売は全世界の販売パートナーを通じたものになっているが、サポートは同社が直接対応しており、サポートセンタに集約した情報は開発部門にフィードバックするだけでなく、トラブル発生時には製品に精通したエンジニアが現場へ駆けつけて迅速に対応し、そこで得られた情報を開発部門と共有する。


 他にも、Amazonのレビューを始めとした顧客から得られた声を分析し、そこから新たなニーズや改善に対する仮説を立て、企画/開発/営業部門の3つが1組となって世界中の現場を訪問し、情報や仮説の検証を行い、その成果を次期製品の開発に反映することも行っている。


 昨今では、蓄積した情報をAIによって分析するといったことにも取り組んでいる。


 どんな場所で、どのような使われ方をしているのかといった現場を見て、それをベースに製品につなげるのが同社の開発手法であり、その繰り返しが40年間に渡って続けられてきた。PFUの強みの源泉はここにあるといっていい。


 現在、イメージスキャナー市場は一定数の需要で推移はしているものの、緩やかな減少傾向にあるのは確かだ。


 しかし、アナログの情報資産をデジタル化するといったニーズは健在であり、AI時代の到来と共にデータ化が重視され、スキャナーの存在価値を高めることもできるだろう。


 轡田さんは「企業の中には、紙で蓄積された『秘伝のたれ』とも称される情報が大量に蓄積されており、これをデジタル化して構造化、活用するといったことが、AI時代において重要視されている。当社では小型機から大型機までラインアップがそろっており、それをグローバルに展開している。今後は、国ごとの事情の違いを捉えながら、最小のポートフォリオで、最大の価値を出すことを目指す」とする。


 次回は、製品の品質を支える試験設備を見ていく。



    ランキングIT・インターネット

    前日のランキングへ

    ニュース設定