三菱UFJ銀行で“17億円窃盗”の元行員が裁判所で涙…「UFJを悪く思わないで」と語った“闇深い理由”

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2025年10月30日 09:30  日刊SPA!

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東京都内の同行支店の出張所(被告人が勤務していた支店とは異なる)/筆者撮影
「お客様100名ほどから17億〜18億円分を盗んだ」
 前代未聞の国内最大手「三菱UFJ銀行」で起きた巨額窃盗事件。今年10月、同行支店の貸金庫から顧客の金塊計約26キロなどの金品(計約3億9,000万円相当)を盗んだとして、窃盗の罪に問われた元行員・山崎由香理被告人(47)に対し、東京地裁(小野裕信裁判官)は実刑判決を言い渡した。

 その約2ヶ月前の今年8月、被告人は法廷で自らの過ちと古巣への想いを口にしていた——。

◆被告人質問で明らかになった“闇の姿”

 今年8月25日、東京地裁で被告人質問が行われた。被告人が法廷で発言をするのは、今年4月の初公判で「全部認めさせていただきます」と述べて以来のこと。自ら事件の詳細を述べるのは、この裁判ではじめてのことだった。

 判決によると、被告人は2023年3月から翌24年10月までの間、練馬支店(東京都練馬区)と玉川支店(世田谷区)で、顧客の金塊29個(時価総額計約3億3,000万円相当)や、現金約6,100万円、旅行券50枚(計25万円分)を盗んだ。

 勾留中の被告人は、職員らに連れられて黒色のジャケット姿で法廷に現れた。被告人席に座ると、傍聴人を一瞥することなく、終始やや下を向いて開廷を待っていた。表情は長い勾留生活からだろうか、やや疲弊しているようにも見えた。頭は白髪が目立ち、何度も深呼吸をしていたのが印象的だった。

 この日の裁判では、被告人質問に先行して証人尋問が行われた。弁護側の証人として元夫と母親の2名が出廷。証人尋問などから被告人の深刻なギャンブル依存症に陥っていた“闇の姿”が見えてきた。

◆順調な銀行員人生からの転落…

 被告人は短大を卒業後、就職氷河期まっただ中の1999年に入行。不遇の時代とはいえ、営業課長を務めるなど順調に出世していった。

 そんな被告人だが、転機は十数年前。当時同居していた元夫がFXで儲けていた姿を見て、次第に興味が湧いたという。はじめはFXのみだったが、競馬やスロットといったギャンブルを繰り返すようになっていった。

「FXは休日は閉場していましたが、当時の精神状態では、何かしていないととても不安な状況にあったので、休日でも開催していた競馬をやるようになりました」(被告人質問から。以下同)

 その結果、2013年には1,200万円の借金を抱えてしまった。これを解消するために、被告人は裁判所に個人再生手続きの申立てもした。個人再生手続きは自己破産に準ずるものであるが、職業制限はないため、被告人は行員として勤務し続けられたという。

 その後は、元夫が口座を管理するなどして、個人再生手続きから3年ほどで借金を完済。元夫の徹底的な管理の下、小遣い制にするなどした結果、600万円の貯蓄までできたという。

 だが、そんな元夫の努力はむなしく、被告人は隠れてFXやギャンブルを再開してしまった。当初は3万円だった小遣いが、月15万円にまで上がっても、被告人の金銭感覚では足りなかったとのこと。

「一度はFXや競馬はやめましたが、少しでも小遣い稼ぎのためにとやってしまいました」

 被告人には、FXや競馬によって損失が増える一方だった。そんなときに目をつけたのが、自身の職場にあった「貸金庫」だった。

◆元行員が超えてしまった“禁断の一線”

 被告人は当時、営業課長や支店長代理などの役職に就いており、貸金庫の予備鍵を管理する立場にあった。当然のことだが、被告人には顧客の金品に手をつけないという強いポリシーがあったという。

 しかし、検察側の証拠によると、犯行をはじめた2020年以降、FXによる損失は計11億円にのぼり、もはや自力で返済することができないまでに膨れ上がってしまった。そんな損失だけが積もり上がっていく状況に、被告人の“強いポリシー”は崩れ去ることに——。顧客の貸金庫から数百万円ずつ現金を持ち出しはじめたのだ。

◆被告人が陥った「卑劣すぎる自転車操業」の実態

 一方で、被告人には行員らしさが垣間見れる一面もあったようだ。被告人は、顧客の貸金庫から金品を盗み出した後、エクセルを使って金額などを記載した一覧表を作成していた。被告人の携帯電話には、盗み出した現金などの写真が1,000枚ほど保存されていたという。

「とにかく絶対に返すという思いから、原状回復をするために詳細なメモを最後の最後の一人まで記録していました」

 被告人は犯行後、一部の顧客の貸金庫に現金を戻した。しかしその現金は、他の貸金庫から金塊を盗み出し、それを質入れしたことで補てんされたもので、まさに自転車操業の状態だったのだ。

◆営業時間外を狙った巧妙な手口と隠ぺい工作

 一連の供述から、計画性の乏しい短絡的な犯行にも見える。ただ、被告人の犯行の態様は、立場を利用した悪質と言わざるを得ないものだった。

 被告人が貸金庫に入る時間は、決まって営業終了後の午後3時以降だったという。その理由について、被告人は貸金庫へつながる自動ドアの開閉時間が記録されていたためだと説明。営業中のみ記録されていたことから、営業時間外を狙ったとのことだった。

 さらに検察側の質問では、貸金庫の開閉された履歴を記録するパソコンの電源を切ったこともあったことが明らかとなった。ときには、金品を盗み出した貸金庫の顧客が支店に来ることもあったが、被告人はこのように伝えていたという。

「(防犯カメラの)モニターを見て、お客様が来店するかを確認したりしました。来店してしまったときには『貸金庫が故障していて』と言ったこともありました」

 2024年10月、被告人は約2年間勤務した練馬支店から玉川支店へと異動。異動先の玉川支店でも貸金庫の予備鍵の管理を任されていたことから、同様の犯行に及んだ。また、補てんできなかった練馬支店の貸金庫の予備鍵を持ち出し、ダミーの鍵を保管していた封筒に入れて隠ぺい工作まで及んでいたという。

 そして、弁護側から公判請求されている事件以外も含めた被害額について質問され、被告人から記事冒頭の発言がなされた。

「金額は約100名ほどから、17億円から18億円になります」

◆「懲役9年」の実刑判決が言い渡される

 今年10月6日、東京地裁は被告人に対して懲役9年(求刑:懲役12年)の実刑判決を言い渡した。小野裕信裁判官は判決で、被告人は業務として貸金庫の予備鍵を管理しており、「限られた者にしかできない手口で犯行を繰り返した」と指摘。

 また、被告人は借金を穴埋めするための「短絡的な犯行」とした上で、「犯情はまれにみる悪いもので、刑も見合ったものにならざるを得ない。厳しい非難を免れない」と断じた。

 これに対して、被告人側はこの判決を不服として、今年10月16日付けで東京高裁へ控訴している。

◆「私のためだけにUFJを悪く思わないで」と供述

 被告人は被告人質問で、被害者と古巣への“想い”を涙ながらに口にしていた。

「お客様が一生懸命働いてきたお金であったり、大切なご子息のためのお品物であったり、大変なご迷惑をかけたと思います。お詫び申し上げます。25年間勤めた銀行の方に対しても、UFJ銀行の名前とブランドに傷をつけてしまいました。私は、本当にこの銀行に感謝していて、本当にいい会社だと思っています。この悪人……私のためだけにUFJ銀行を悪く思わないでください。本当に申し訳ございません」

 閉廷後、被告人は傍聴席にいた関係者に深く一礼をして退廷していった。

取材・文/学生傍聴人

【学生傍聴人】
傍聴歴7年、傍聴総数1000件超。 都内某私立大の大学院に在籍中の現役大学院生。趣味は御神輿を担ぐこと。高校生の頃から裁判傍聴をはじめ、有名事件から万引き事件など幅広く傍聴している。その他、裁判記録の閲覧や行政文書の開示請求も行なっている。

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