 タイのパタヤ
タイのパタヤ日本各地で報道される“外国人観光客のマナーの悪さ”。その一方で日本人は海外で本当に行儀がいいといえるのだろうか。10月下旬、タイ中部の観光都市パタヤで、複数の日本人男性が美容室の女性店主に対してセクハラ行為をした疑いで、現地警察の取り調べを受けたことが明らかになった。
        
    
        SNSで拡散された店内の防犯カメラの映像では、男性が女性のスカートをめくる様子が映っており、タイだけでなく日本国内でも批判が殺到している。男性の一人は「酒に酔っていて正気ではなかった」と釈明しているが、「日本人=マナーが良い」というイメージは大きく揺らいだ。
        
    
        ◆“微笑みの国”を勘違いする日本人たち
タイは“微笑みの国”として知られ、旅行者の多くがタイ人に対して「笑顔」と「穏やかな対応」という印象を持つ。ホテルやレストラン、美容室など、接客業の現場ではスタッフが常にフレンドリーに接してくれる。
        
    
        しかし、その笑顔を「自分に好意がある」「誘っている」と勘違いする日本人男性も少なくない。特に60代前後の中高年世代にその傾向が強く、「日本では冗談で済む」「嫌なら断るはずだ」といった古い感覚が、海外でも通用すると思い込んでいる様子。
        
    
        だが、その笑顔はあくまでサービスの一環であり、性的な同意とはまったく別物である。その区別がつかないままボディタッチをしたり、下品な冗談を口にしたりすれば、相手に恐怖や不快感を与える結果になる。
        
        
        
    
        ◆パタヤ滞在中の筆者が見た「日本人の昭和的おじさんノリ」
筆者は現在、タイのリゾート地として知られるパタヤに滞在中だが、こうした“誤解から生まれる迷惑行為”を日常的に目にする。パタヤはナイトライフ(夜遊びスポット)が盛んで、観光客にとっては開放的な街だ。
        
    
        タイ人は実際おおらかな性格であるものの、その「ゆるさ」が、時に日本人男性のモラルを甘くさせる。
        
    
        それはタイ人女性に対してだけではない。日本人同士が集まる飲み会で女性にお酌を強要したり、セクハラまがいの発言をする中年男性も少なくない。現地の日本人コミュニティでも、タイトなウェアを着た女性が盗撮されたという話も聞いた。目撃した人が注意できなかった理由は「逆恨みされるのが怖いから」だったとか。もちろん、個人同士の関係性もあるが、セクハラや盗撮は当たり前・仕方ないという空気になってしまっているのだ。
        
    
         ◆類似事件はバンコクでも
さらに、同じタイ国内でも2024年、バンコク市内のクラブで在住日本人の男性が泥酔状態のタイ人女性にわいせつ行為を働き、無理やりタクシーに乗せようとした疑いで逮捕される事件が起きている。
        
    
        こちらはパタヤの事件より若い世代によるケースだが、どちらも日本人による文化・マナーの誤解や認識の甘さが引き金になっている点で共通している。
        
        
        
    
        海外に出ると、日本では厳しく律していたはずの“自分”を解放してしまう。特に東南アジア旅行では「夜遊び」「自由」「非日常」といったイメージが強く、中高年男性の一部は“第二の青春”を求めて行動してしまうこともある。SNS上でも「タイ=夜遊びの街」「男の楽園」といった投稿が散見され、下品な行動のハードルを下げる一因となっている。
        
    
        現地で働く日本人によれば、じつはタイではセクハラ行為に対する社会的な許容度は非常に厳しくなっており、公共の場での不適切な行為や言動には、即座に警察が介入するケースが多く、観光客や在住者であっても例外ではないという。今やSNSでの情報拡散も早く、社会的制裁を受ける可能性も高い。
        
    
        たまにタイで日本人旅行者が夜の武勇伝を大声で話しているのを見かけることがある。タイ人同士であれば、身内で冗談交じりにシモネタを話すことはあっても、公共の場では決して口にしない。そのため、日本人旅行者が下品な会話をしている横では、日本語がわかるタイ人が失笑していたりする。
        
    
        ◆敬意を持って楽しいタイ旅行を
郷に入っては郷に従えという言葉があるように、異国の地ではその土地の文化やルールに従うのは当然のことだ。それでも、同じ日本人同士であっても相手を不快にさせる行為を平然と行うのは、いかがなものかと考えさせられる。
        
    
        今回の事件は単なる“旅行者や在住者の悪ふざけ”では済まされない。文化の違いを理解せず、過去の価値観を引きずったまま海外に出た結果であり、改めて自分たちの振る舞いを考えるきっかけとなるべきだ。
        
        
        
    
        タイは人々の温かさはもちろん、歴史ある文化や自然など、魅力にあふれた素晴らしい国だ。筆者自身もタイの夜遊びの楽しさは十分に知っている。だからこそ、現地の文化やルールを理解し、敬意を持って行動することが求められるだろう。
        
    
        <文/カワノアユミ>
【カワノアユミ】
東京都出身。20代を歌舞伎町で過ごす、元キャバ嬢ライター。現在はタイと日本を往復し、夜の街やタイに住む人を取材する海外短期滞在ライターとしても活動中。アジアの日本人キャバクラに潜入就職した著書『底辺キャバ嬢、アジアでナンバー1になる』(イーストプレス)が発売中。X(旧Twitter):@ayumikawano