「Los Angeles Dodgers」公式Xポストより引用  メジャーリーグのワールドシリーズ(以下、WS)は、第5戦を終えて、ブルージェイズが3勝、ドジャースが2勝。1勝2敗から敵地で2連勝したブルージェイズが王手をかけて地元に戻る。
        
    
         移動日を1日挟み、第6戦は日本時間11月1日にトロントで行われる。先発マウンドに上がるのは、第2戦と同じケビン・ガウスマンと山本由伸のマッチアップ。もう負けられないドジャースは、再び山本頼みの状況に直面している。
        
    
         シーソーゲームの様相を呈している今年のWSだが、ドジャースのデーブ・ロバーツ監督の采配に対して批判の声も上がっている。大谷翔平が先発登板した第4戦、そして第5戦ともに、終盤の継投策が失敗。2試合連続で、先発投手がマウンドを降りた7回に複数失点を喫しており、レギュラーシーズンと同様、ロバーツ監督が特定選手に固執する采配が裏目に出ている印象だ。
        
    
        ◆両チームの明暗を分けた“2つの要素”
 そして、本シリーズで、ブルージェイズとドジャースの明暗を分けている要素が2つある。それが「監督の采配力」と「捕手力」である。
        
    
         シリーズを通して投打ともにブルージェイズが圧倒している印象もあるが、第4〜5戦を2連勝した要因の一つが、第3戦の選手起用にあった。
        
        
        
    
         フレディ・フリーマンが延長18回にサヨナラ弾を放ち、ドジャースが勝利したが、その後の2試合を見ると、真の勝者はブルージェイズと言えるかもしれない。
        
    
         というのも、6時間半超えの熱戦となった第3戦において、延長突入後、両指揮官は対照的な采配を振るった。具体的には野手の交代である。
        
    
         ロバーツ監督は延長13回にミゲル・ロハスとアレックス・コールを続けざまに代打起用したが、野手の交代はこの2人だけ。DHを務めた大谷を含む他の7人は“2試合分”となる18イニングをフル出場した。
        
    
         一方で、ブルージェイズのジョン・シュナイダー監督は、スイングで負傷交代したジョージ・スプリンガーへの代打を含めて、5人の控え野手を途中出場させた。
        
    
        ◆カークの体力を“温存”させる結果に
 特にシュナイダー監督のファインプレーとなったのが、延長12回に捕手のアレハンドロ・カークに代走を送ったこと。チームの要を交代させてまで勝負に出たが、結局、得点にはつながらなかった。しかし、カークは残る6イニングで費やすはずだった体力を温存できたともいえるだろう。
        
        
        
    
         捕手は守備の際にフィールド全体を見渡すことができるため、“第二の監督”や“フィールド内の監督”と呼ばれることがある。短期決戦においては、攻守でより躍動する捕手がいるチームが流れをつかむことも珍しくない。
        
    
         本シリーズにおいて、カークは打率.333、2本塁打、6打点と打撃は絶好調。それに対して、スミスは打率.238、1本塁打、4打点とレギュラーシーズン中のような打棒を披露できていない。
        
    
         ◆カークとスミス、守備でも明暗…
 さらに両選手を大きく隔てているのが、守備での貢献度だ。
        
    
         近年よく耳にするフレーミングという捕手の技術がある。際どいコースに投じられたボール球をミットの動きなどでストライクに見せるものだが、カークの今季レギュラーシーズンのフレーミングは、規定を満たした57人の捕手の中で堂々の2位。WSでも際どいボール球を何度もストライクとコールさせている。
        
    
         一方、ドジャースのスミスはというと、フレーミングの順位は57人中なんと56位。ことフレーミングに関しては、リーグ屈指のカークと最悪レベルのスミスが明暗を分けている。
        
        
        
    
         さらにブロックの技術力を示す指標でも、カークはメジャー全体1位を記録。規定に達した65人中48位のスミスに、この指標でも大きな差をつけている。
        
    
         実際、WSでの暴投数はブルージェイズの1つに対して、ドジャースは5つ記録。第5戦の“魔の7回”にバッテリーミスが重なったのは、決して偶然ではないだろう。
        
    
        ◆“ラッキーボーイ”起用の可能性は?
 第5戦で大谷の直後の2番打者を任されたスミスだが、直近2試合は攻守ともにやや精彩を欠いている。やはり、第3戦で2試合分を守り抜いたこともその一因となっているのではないか。
        
    
         そんな中、一部のドジャースファンから聞こえてくるのが、控え捕手のベン・ロートベットを思い切って起用すべきだという声。本シリーズはいまだ出番がないロートベットだが、レギュラーシーズン終盤からポストシーズン序盤にかけて、強気なリードで投手陣を引っ張っていたことは記憶に新しい。
        
    
         もちろん打撃力はスミスに遠く及ばないが、疲労度合などを鑑みれば、2連敗中の嫌な流れを断ち切るためにも、“ラッキーボーイ”にチャンスを与えてもいいのではないだろうか。
        
    
         ドジャースファンのロートベット待望論は、果たしてロバーツ監督の耳に届くのか。いずれにしても、第6戦を前にドジャースは何かしらの策を打ちたいところ。それができなければ、WS連覇の夢は、はかなく散ってしまうかもしれない。
        
    
        文/八木遊(やぎ・ゆう)
【八木遊】
1976年、和歌山県で生まれる。地元の高校を卒業後、野茂英雄と同じ1995年に渡米。ヤンキース全盛期をアメリカで過ごした。米国で大学を卒業後、某スポーツデータ会社に就職。プロ野球、MLB、NFLの業務などに携わる。現在は、MLBを中心とした野球記事、および競馬情報サイトにて競馬記事を執筆中。