
彼氏と別れたことを機に同棲を解消し、新しい賃貸物件に引っ越した女性会社員・マナちゃん。Xに投稿された『マナちゃんの大脱走』では元彼氏との生活を懐かしみ、同棲していた家を賃貸情報サイトで眺める日々を過ごすマナちゃんが描かれる。
時間が流れていくなか、マナちゃんは同棲していた物件に新たな入居者が住んでいることを知る。少しのショックを受ける彼女が選んだ行動とはーー。本作の作者・宮子玲子さん(@015_3625)に創作の背景、マナちゃんについてなど、作品に関する話を聞いた。(あんどうまこと)
ーー本作を創作したきっかけを教えてください。
宮子玲子(以下、宮子):本作は「コミティア」(一次創作物の即売会)で漫画を頒布しようと思い、2022年に描いた作品です。結婚を機に1年ほど住んだ賃貸物件から引っ越すこととなったのですが、当時その家のことがすごく気に入っていて。引っ越してからも賃貸情報サイトで住んでいた物件を見て、家の中をちょっと見たいなとか思っていました。
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自分は夫と一緒に別の新居に移りましたが、たとえば同棲の解消とかで家を出ることになったら本当につらいんだろうなと思って。そんなことを考えながら本作を描きました。
ーー賃貸の契約と恋人の関係は似ていると感じました。
宮子:友達だと明確に別れるみたいなのってあまりないじゃないですか。恋人との関係は契約とまではいかなくても、別れたら会えないことが多いと思います。友達とは違う、別れたら簡単には会えないといった切なさは、賃貸物件にも言えるかもしれません。
ーー本作を描くなかで印象に残っているシーンは?
宮子:物語の中盤、1人でいるときに元カレ・ふくね君との思い出を思い出して、マナちゃんが机を殴って叫ぶシーンですね。ネームを描いているときに思いついたシーンであり、元カレが忘れられなくて、ちょっとおかしくなりかけてる……そんな様子を描けたのかなと思っています。
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ーーこのシーンを一言で表すとするならば?
宮子:「狂う」ですかね。自分の部屋で叫んじゃうみたいなのって、意外とみんなやっていると思うんです。狂っているように見えてしまうことをしちゃう精神状態になる、といいますか。
ーー宮子さんの作品には、一見すると普通とは違うかもしれない、おかしいと思われるかもしれない登場人物が描かれることが多いかと思います。
宮子:周りからはおかしいと思われるかもしれないけど、本人は真剣で切実、という人を描きたいと思っています。社会の中で生活する際には、みんなで協力することが求められると思います。仕事へ行くのはだるいけれど、出勤しなかったら他の人が困るから、会社へ行くとか。
みんなで協力して社会やコミュニティを形成することは大切だと思う反面、我慢したり、無視している自我が誰にでもあるのかなと思っていて。せめて漫画では自我に正直すぎる人みたいなのを描きたいなと思いますし、一読者としてちょっと社会から外れてしまう人を描いた漫画が好きなんです。
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ーーマナちゃんが家に忍び込む前に発した「…助かりたい」というセリフは世の中の普通・常識とのズレに悩む葛藤も含まれた言葉だと感じました。
宮子:このシーンは例えば「(家に忍び込むことを)バレませんように」といった、他のセリフでも物語として成立するかもしれません。
マナちゃんは、自分が今からすることの異常さに気づいてるんですよね。でも、そうせずにはいられない、その状態からの「助かりたい」なのかなと思います。
ーー最後のシーンは余韻を感じる幕引きでした。
宮子:マナちゃんはいろいろあったけれど、その後も彼女の日常や生活が続いていくといった終わり方にしたいと思い、最後のシーンを描きました。
他人の家に忍び込んだマナちゃんは本作の後、もしかしたら警察に捕まったりしたのかもしれません。ただ本作においては一旦、普通の日常に戻っていく物語にしたかったです。
ーー本作のような、一見すると世の中の普通とは異なる、もしくは過ちを犯した人物に関する物語をSNS等で発表することには、もしかしたら勇気が必要なのかもしれないと感じました。
宮子:表現したいことがあっても「漫画で描いたら、周りから叩かれるのかな」みたいな思いは、正直に言うとあります。でもやっぱり、自分がちゃんと面白いと思えるものや人を漫画として描くことに意味があると思っています。
ーー今後の活動について教えてください。
宮子:本作は数年前に描いた作品ですが、漫画を通じて表現したいことは、今もそんなに変わっていないかと思います。コミティア等の同人活動や商業媒体での創作など、漫画を通じて自分が面白いと思う事を正直に描いていきたいです。
(文・取材=あんどうまこと)
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