飼い主の死後、ペットは……(画像提供:ブルークリーン)「特殊清掃」と一口に言っても孤独死後の体液の掃除だけではなく、様々なトラブルなどに対応しなくてはいけない。清掃が簡単そうな現場でも、予想外の困難が待ち受けていることも。
都内を中心にさまざまな現場で特殊清掃を手がけるブルークリーン株式会社で働きながら、特殊清掃の実態を伝える登録者5万3000人以上のYouTubeチャンネル「特殊清掃チャンネル」を運営している鈴木亮太さんに、特殊清掃業者の作業内容について話を聞いた。
◆火災や水害からの復旧作業なども含まれる
特殊清掃と聞けば、孤独死が起こった現場の清掃というイメージがあるが、実際は様々な業務があるという。
「日本では特殊清掃という名前で認知されていますが、我々はサービスの名前を“バイオリカバリー”と呼んでいます。アメリカではこの名前で定着しているんです。意味としては室内や建物の衛生を回復させる作業です。火災現場のすすの臭いを消すとか、水害からの復旧もこの作業に入ります。
9月は雨季のような大雨が多かったと思うのですが、1日20〜30件くらいの依頼が入ったので、なかなか大変でした。床下点検工を開けたら水が溜まってたとか、玄関や窓の前が冠水して外から水が入ってくるのでなんとかしてくださいとか。こういう作業もバイオリカバリーの範疇です」
◆微生物や細菌、害虫との戦いも
地名に谷がつく地域は水害被害が多いという。
「ハザードマップ上で危険とされているところからの依頼はかなり多かったです。また、地下の駐車場の清掃も多かったですね。『今すぐ埼玉まで来てくれ』といった依頼がやたら増えました。でも集中豪雨の地域からの依頼だと、件数は多くてドタバタするのですが、現場がすべて近いので、うまくローテーションで作業ができるんです。
水害だと床の上に溜まった水を排水ポンプとかバキュームレーターで抜いて、その部分を清掃クリーニングをして除菌や消毒をします。でもまだ湿気は残っているので、乾燥機をかけます。乾燥の際の注意点としては、見た目は乾燥しているように見えてもコンクリートとか床下に水を含んでる場合が多いんです。湿気があると、一定期間経つと微生物や細菌が増殖して、数日後からカビが床下に発生してしまうんです」
カビが生えてしまうと、そこから二次被害につながることも。
「カビの後は、高確率で虫が発生するようになるんです。そういった事態はなんとしても避けたい。こういう水害は毎回同じ家で起きたりするんです。そこが持ち家だと悲惨ですよね。水害が原因で家を買い換える方もいらっしゃいます。水害が起きる度に保険屋さんを呼んだり、業者さんを呼んだりするのも大変です。今までで一番酷かった現場は、一階に置いてある家具が濡れて全滅していました。冷蔵庫も漏電してしまって、電気工事をしなきゃいけない部分もありました」
水害だけではなく、害虫駆除やペットなどの対応もバイオリカバリー作業の範疇になる。
「害虫駆除の依頼もちょくちょくあります。ネズミやゴキブリといったわかりやすい害虫の駆除や、ダニや南京虫のような厄介な虫を相手にすることもあります。ここ数年、インバウンドで外国人観光客が増えたせいか、日本にはいなかったはずの南京虫が増えてきています。奴らの駆除はけっこう骨が折れます」
◆飼い主の死後、ペットは……
「あと変わった現場ですと、ペットを飼っている現場での孤独死です。動物たちが生きているパターンも多く、そういう場合は保護します。
本来、警察が現場検証をした時に犬などのペットが生きている場合は見つかるはずなのですが、猫などの警戒心が強い動物だと隠れていて見つからない場合があります。その際は特殊清掃に入った時にベッドの下から突然現れたりして驚くことがあります」
孤独死の現場でペットが飼い主と一緒に死んでいる現場も何度か経験したようだ。
「孤独死が起きて、飼い主が亡くなっている部屋以外でペットが死んでいる現場もありました。ペットは死んでしまうと、一般廃棄物、すなわちゴミとして分類されるんです。なので、不動産屋さんや自治体などに頼んで、遺族の方に連絡してもらわなくてはいけません。見積もりの段階だと遺体のある部屋だけの清掃だったのですが、他の部屋でペットが死んでいたとなると、そこの清掃も必要になるので、費用が割高になってしまうこともありました。人間の孤独死による特殊清掃と、ペットの死体による特殊清掃では手段が若干異なり、使う薬剤が若干違うので、金額も高くなりがちです」
ペットの場合は人間とは違いアンモニア臭がするため、作業工程が変わるようだ。
「腐敗臭やアンモニア臭、糞尿臭を落とすというときの薬剤が違うんです。段階を分けることによって一緒に効くような薬剤もあるんですが、順序立てて対応していかなくてはいけないので、その分作業がややこしくなります」
◆“バイオリカバリー”たる所以
他にもバイオリカバリーという観点での変わった作業もある。
「外国人の方が住んでいた家で、退去した後もスパイスの臭いが取れないといった現場もありますね。他にも香水の臭いが取れないとか、臭いに関する問題は多いです。基本的にはオーナーさんが試行錯誤して臭いを取ろうとしたが無理だったという現場ばかりなので、一癖ある臭いの染み込み方なのです。薬剤を天井、壁、床全体に噴射して浸透させて、化学反応を起こして効果を待ったり、ひどい場合は壁紙を剥がさないといけない時もあります」
前に住んでいた人の病気による臭いがこびりついてることも。
「住人の足が壊死して膿が出ていて、その膿をフローリングが吸ってしまって臭いがきついのでなんとかしてくれ、とかもあります。他にも住んでいる人からの依頼で、体臭が染み込んでしまって臭いが取れないのでなんとかしてくれといった現場です。汗や皮脂が原因なのですが、過剰な分泌は何かしらの病気ですね。このように、遺体清掃のような作業だけではなく様々な現場があるので、我々の業務としては特殊清掃というよりはバイオリカバリーの方がしっくりくるのです」
<取材・文/山崎尚哉>
【特殊清掃王すーさん】
(公社)日本ペストコントロール協会認証技能師。1992年、東京都大田区生まれ。地元の進学校を卒業後、様々な業種を経験し、孤独死・災害現場復旧のリーディングカンパニーである「ブルークリーン」の創業に参画。これまで官公庁から五つ星ホテルまで、さまざまな取引先から依頼を受け、現場作業を実施した経験を基に、YouTubeチャンネル「BLUE CLEAN【公式】」にて特殊清掃現場のリアルを配信中!趣味はプロレス観戦