
「天災は忘れた頃にやってくる」と昔から言われる。災害が繰り返されるたびに“備え”の意識は高まるが、すぐにその気持ちは薄れ、備蓄品の管理はおっくうになり、さらには備えていたことすら忘れてしまう。
そのような観点から、非常食などでは備蓄品を消費し、不足分を補充する「ローリングストック」という防災の考え方が生まれたが、これはエネルギーの備蓄には適用しづらい。
しかし、普段から充電しているものを災害時に使えるようになればどうだろうか。エネルギーの手頃なローリングストックが実現するのではないだろうか。
そこで、普段から充電されている電動アシスト自転車用バッテリーをいざというときのポータブル電源として使えるようにしてしまうというアイデア商品が、美容家電などを手掛けているAretiのキャンプギアブランド「キャンキャンパー」から登場した「チャリパワー」だ。
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●電動アシスト自転車のバッテリーで小型家電を動かす
チャリパワーは、電動アシスト自転車用バッテリーを取り付けることで100V/500W出力可能なAC電源として利用できるインバーター(電力変換装置)だ。つまり、電動アシスト自転車用バッテリーをポータブル電源として使えるようになる。
本体にはACコンセントの他、最大10W出力のUSB Standard-A×2基、USB Power Delivery(60W)対応のUSB Type-C×1基を搭載する。
対応する電動アシスト自転車用バッテリーメーカーはヤマハ発動機、ブリヂストンサイクル、パナソニック サイクルテックで、定格電圧が25.2V〜25.9Vの純正バッテリーに限定される。
ACでの出力波形は正弦波となっているので、デスクトップPCや医療機器といった精密機器でも利用できるだろう。
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本体を詳しく見ていこう。正面には左からUSB Standard-Aポート、USB Type-Cポート、ACコンセントがあり、バッテリーからの入力電圧と消費電力(AC出力時のみ)を左3桁、右3桁で表示するディスプレイ、AC出力をオンにするメインスイッチがある。
なお、メインスイッチがオフの状態でもUSBからの出力を行える。
背面には35Aのヒューズと冷却ファンを備える。ヒューズが切れた場合に備え、予備のヒューズが1つ付属する。汎用(はんよう)品のため、別途入手も容易だろう。
サイズは実測値で156(幅)×221(奥行き)×95(高さ)mm、重さは1.28kgだ。本体のみであれば軽くコンパクトという印象だ。
では、早速使ってみよう。
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●停電しても温かいコーヒーを飲める!
レビューで使った電動アシスト自転車用バッテリーはパナソニック製のNKY580B02(16Ah)だ。バッテリーホルダー内の3本の端子にバッテリーの差込口がピッタリ合うように差し込む。差し込み後にぐらつかなければ準備完了だ。
まず試したのは、USB PDでのノートPCの充電だ。充電したい端末は2020年製のMacBook Proで、バッテリー残量がほぼゼロ状態であった。こちらは最大52Wで充電をしていた。これなら緊急事態でも仕事できそうだ。
USBポート類の出力テストはひとまず置いておいて、次はいよいよAC電源としての実力を見てみたい。なお、ACでの出力が500W以上になり負荷がかかると赤色ランプが点灯した後に警告音が鳴り、次いで出力がストップするよう安全装置が搭載されているとのことだ。
安全のため、500W以下で稼働する小型家電で試すことにした。
最初に試したのは、扇風機(YUASA YT-3016Y)だ。万が一、台風や集中豪雨などで暑い時期に停電して空調設備を使えなくなった場合、体調を崩してしまいかねない。扇風機を使えれば、少しでも涼を取れるだろう。
最大消費電力が37Wのため、「強」レベルでも問題なく運転した。
次に試したのは、豆から入れられるコーヒーメーカー(Toffy 全自動ミル付きアロマコーヒーメーカー)だ。コーヒー豆と水を所定の位置に入れてボタンを押すだけで、豆を挽き、水を沸騰させてコーヒーを抽出してくれるというスグレモノだ。停電している最中であっても、心を落ち着かせるのにきっと役に立つに違いない。
豆と水を入れて、「BEAN」ボタンを押すと、ガガガッという強烈な音とともにミルが作動し、止まったところで水がお湯になる音が聞こえてきた。その後、コーヒー液が抽出され、最大抽出量である200mlを出し切った。
こちらの製品の定格消費電力は500Wである。2回試したが、どちらも問題なく作動した。
停電しているときこそ、普段通りに生活したい。ゲームをするのであればゲーム機の充電もしたい。というわけで、Nintendo Switch 2を専用ドックに入れたまま充電したが、こちらも問題なく充電できた。もっとも、本体にUSB Type-Cケーブルを接続して充電する方法もあるのだが。
非常事態に使うかどうかはさておき、一般的な機器が動くかどうかも試してみた。例えば、PFUのドキュメントスキャナー「ScanSnap iX2500」の電源ケーブルをACコンセントに差し込み、スキャンボタンを押したところ、問題なくスキャンしていた。
続いて消費電力150Wのパネルヒーター「北国のこたつ」をつなげてみたところ、しっかりと動作した。
●AC電源とUSB電源の併用できる
チャリパワーが優れていると感じたのは、AC電源を使いながらUSB充電ポートも併用できる点だ。例えば、今回のようにパーソナル暖房機で体を温めながらノートPCをUSB PDで充電しつつ、連絡用のスマートフォンのバッテリーも切らさないようにするといった運用を行える。
今回、扇風機を回し、コーヒーを2回入れ、スキャナーでスキャンし、パーソナル暖房機で暖を取るといった使い方で1時間10分ほどチャリパワーを利用したところ、電動アシスト自転車用バッテリーの減少は1メモリだけであった。パーソナル暖房機の温度設定を1(40度)にしておけば、もう少し消費電力を減らせられるだろう。これなら送電が復旧するまでの間、寒さに震える時間を短縮できそうだ。
我が家にある電気ケトルの消費電力が1300Wだったため、残念ながら試せなかったのだが、メーカーさえ選ばなければ500W以下の低消費電力でお湯を沸かせるケトルも存在する。チャリパワーがあれば、災害時でも乳飲み子のミルクを作ることができるし、カップ麺用のお湯を沸かすこともできる。
●安全性は?
現在、国内でリチウムイオン電池を搭載した製品の発火事故などが相次いでいる。バッテリーを扱う製品の安全性が気になるところだ。
チャリパワーが対応している大手3社の電動アシスト自転車用バッテリーは、そもそもバッテリーマネジメントシステム(BMS)が搭載されており、充電中や使用中の温度管理や過充電/過放電防止機能が備わっている。
Aretiにおいても、第三者検査機関と共に各メーカーの純正バッテリーを用いた機能性テストを行っており、詳細は商品ページでも確認できる。
ただし、電動アシスト自転車用バッテリー本体には「この機器以外で使用しないでください」と記載されている場合も多く、あくまでサードパーティー製品での使用は自己責任となり、万が一の際にメーカー保証が受けられなくなるリスクはある。
とはいえ「非常時に備えたい」「メーカー保証期間は切れているが、まだまだ現役な電動アシスト自転車用バッテリーをいざというときに活用したい」「専用のポータブル電源を手元に置いておくことに抵抗がある」といった状況であれば、検討するに値する製品だと思う。
また、「年に1回行くかどうかのキャンプで、ポータブル電源的な何かを使ってみたい。電動アシスト自転車も所有している」なんて“ゆるキャンパー”にもマッチするかもしれない。
何より、日常的に使っており、そのために充電を欠かすことのない電動アシスト自転車用バッテリーをポータブル電源として使えるということは、備えのリスク分散にもつながる。家族で電動アシスト自転車を複数台所有しているならなおさらだ。
既に電動アシスト自転車ユーザーなら、持っておいて損はないガジェットだと感じた。
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