
どうしても一人でいたいわけではなく、友達といるのも好きだが、わざわざ誘って時間を合わせて……というのが煩わしいという人も少なくない。
一人で野球観戦に
あるプロ野球チームのファンであるマリさん(52歳)。「息子がそのチームのファンで、連れて行っているうちに私もファンになったんです。息子が大きくなってからも、シーズン中は時々一緒に行っていました。彼は就職して、この春から家を離れました。
同い年の夫は忙しいし、もともとファンというわけでもない。大学生の娘は野球を見ない。今年はどうしようかなと思っていたんですが、ええい、一人で行っちゃおうと」
最初は少しドキドキした。だが周りを見れば、一人で見ている人もいるし、誰も自分に注意を払ってはいない、みんな試合を見にきているのだからとすぐに分かった。それ以来、今年は月に3、4回は一人で出かけたという。
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その若い女性も一人で来ていた。その場では親しく話したが、互いに一人が気に入っているのだろう、連絡先の交換などはしなかった。
「ひとり行動」のメリットは大きい
「だけどまた会ったんですよ。最後のホームの試合のとき、ようやく連絡先を交換しました。でも互いにプライベートを聞きあうようなことはしていない。あくまでそのチームのファンとして、ファン感謝祭のこととか来シーズンのことなどをたまに報告しあう程度の関係。その距離感でいいんです」娘に話したら、「いいね、お母さん。私もひとりカラオケとかひとり遊園地とか、好きだよ」と言われた。娘が一人でカラオケや遊園地に行っているとは知らなかったので、「あら、それも楽しそう。私も行ってみようかな」と盛り上がった。
「気の合う友達と時間が合えば一緒に行くのもいいけど、自分が行きたいと思ったときに行けて帰りたいと思ったときに帰れるのが、気楽でいいんですよ。
野球の試合だって、途中まで見て、ああ、今日はもう逆転できそうにないわというときは電車が混まないよう、早めに引き上げることもできる。一人で行くメリット、大きいですよ」
今後も「ひとり行動」を楽しむつもりだとマリさんは言う。
プロレスにボクシングに
格闘技系が好きだというヨシエさん(58歳)もまた、ほとんど一人で観戦すると話してくれた。|
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私はこういうスポーツが実は好きだったんだと初めて気付きました。子どもの頃、父親がプロレスとかボクシングをテレビで見ていたけど、私はまったく興味をもてなかったのに」
その後、息子はボクシングをやめてしまい、ヨシエさんも仕事や家庭が忙しく、しばらくの間は観戦に出かけることはなかった。
だが、娘が就職して一人暮らしを始め、息子も大学を卒業して同居はしているが手が離れた2年前から、ヨシエさんは再びボクシングを見に行くようになった。今は雑誌を読みあさり、一人でプロ選手の試合を観戦している。
「ボクシングだけではすまなくなって、プロレスも最近、よく見に行っています。楽しいんですよ、一人でも。もう大人だけの家族だから、私は平日はほとんど夕飯も作らなくてすむし、プロレスを見た帰りにひとり焼肉とかひとりラーメンをして帰宅することもあります。誰がどこで何をしようが、他人は何も言いませんから」
親も自立することが必要
余裕の笑みを浮かべるヨシエさん。娘が「久々に今日の夜、帰っていい?」と連絡してきたときも、「今日はプロレス観戦だから、終わったころどこかで夕飯食べない?」と返事をした。「お母さんも変わってるよねと娘に言われましたが、『親がそうやって一人で遊んでくれているのはうれしい。私の友達は休日にどこかへ行こうとすると、お母さんがついてきちゃうって嘆いている』と。
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だからヨシエさんは、夫にも「一人で遊ぶ術を身につけて」と言っている。2歳年上の夫はあと5年で定年を迎える。そのときに妻を頼りにされたら「たまらないから」だ。
互いに一人で遊び、ときに二人で遊ぶ。それが理想なのだが、「夫は無趣味だから心配で」とヨシエさんは苦笑した。
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。(文:亀山 早苗(フリーライター))
