画像提供:マイナビニュース●18年連続で売上高が増加中 住宅設備や建材のEC事業を中心に展開する、ミラタップ(miratap inc.)。国内外の選び抜かれた商品を取り扱うだけでなく、自社開発した商品がグッドデザイン賞を受賞するなど、「高級感があるのに価格を抑えられる」と高く評価、支持されているメーカーだ。2014年にサンワカンパニー(旧社名、2024年10月に現在のミラタップへと変更)に入社し、創業者である父の遺志を継いで、同社の代表取締役社長に就任した山根太郎氏は、業界内においてさまざまなチャレンジを続ける経営者だ。
今回は、ミラタップのこれまでの実績をはじめ、社長就任時に30歳という若さでリーダーとして会社を引き継ぎ、エネルギッシュに改革を続ける山根氏の源とも言える経歴を含めて伺うとともに、業界への思いや、現在の若手ビジネスパーソンに向けてのメッセージなどを語ってもらった。
―― ミラタップは18年連続で売上高増加を続けています。自社の強みや商品、市場動向など、どのような要因が成長を後押ししていると考えていらっしゃいますか?
山根氏:明確に分かりやすく、これで伸びたという要因は実はあまり思い浮かばないんですよね。この18年間、着実にすべてが良くなったというのが大前提としてあります。その中で、弊社が秀でていたと言えるのは、商品力やデザイン力だとは思っています。
―― キッチン、洗面台、洗面ボウル、バス、タイル、フローリング、建具など、業界内においてもミラタップは多くの商材を扱われていますが、幅広い商品展開というのも強みのひとつでしょうか。
山根氏:商材に関しては、徐々に増やしていっています。弊社の売上のほとんどはリピーターさんなのですが、弊社がカテゴリーとして持ってない商材は買っていただけません。そういう商材をカテゴリーとして追加していって、まとめてミラタップから買おうというふうにすると、顧客単価が上がっていきます。我々はマーケティングでリピーターやロイヤルカスタマーを増やす作業をしつつ、他方で商品のカテゴリーを増やすことによって客単価を上げていく――。この二軸で成長してきたという感じですね。
―― ECへの参入も業界としては早期から取り組まれていますが、それも強みだと思われますか?
山根氏:おそらく、弊社が最初にいわゆる耐久消費財と言われる、本来であればB2B商材をインターネットでB2Cで売る――ということを始めたのかなと思っています。
今、我々のインスタグラムのフォロワー数も20万人近くになりました。我々のような住宅設備や建材メーカーでは断トツの数です。住設機器は毎日のように買うものではありません。そんな中で20万人のフォロワーというのは多いほうだと思っています。
でも、SNSで物が売れる時代が来ることを先読みして、2017年から力を入れているだけの話なんです。当時はまずSEO対策の風潮があって、SEO対策さえやっておけば知名度が上がって勝てると。もちろんSEOも一定の効果はあるのですが、デイリーでお客さまと接点を持てるのはどちらかというとSNSです。
お客さまにフォロワーになってもらって、新商品であったりとか、施工事例を定期的にこちらからプッシュで見せていける媒体を早くから持っていました。これは先駆けてやりたいというより、社員の中にデジタルネイティブ世代が多いので、当たり前と思える文化だった印象ですね。
―― 山根社長自身もお若い経営者ですが、社員もお若い人が多いのでしょうか?
山根氏:私が社長に就任したとき、社員の平均年齢がだいたい43歳。今は36歳か37歳ぐらいで、12年経って6歳か7歳若返りました。これくらいがちょうどいいかなと思っています。
お客さまの年代と社員の平均年齢が近いと、今まさに自分が家を買うなら、リフォームをするなら、どういうメディアを見るのか、どういうところが気になるのか。これをいわば一次情報として、私たち自身が知ることができます。
もし介護ビジネスをやるのであれば、経営層はもっと高齢でもいいと思います。社員の平均年齢ももっと高く、例えば社員の平均が40歳〜50歳で「親の介護が始まってきたんです」みたいな人たちがマジョリティでもいいと思うんですよ。
現在のミラタップは住宅の一次取得層、だいたい20代〜30代をターゲットにした会社です。社内の平均年齢や組織の状態もそれに近いほうが、お客さまの気持ちが分かりやすいだろうと思っています。
私は1983年生まれの42歳ですが、社長に就任した当時は30歳でしたので、ちょっと若かったですね。例えば、30歳で第一子が生まれたとしたら、その子が小学生になるとき自分は36歳か37歳。ライフイベントが重なって「居を構える」タイミングなので、そこに社員の平均年齢を合わせておくのは合理的だと考えています。私自身、家を建てたのは37歳のときでした。
―― 2000年にワンプライス制を導入して、業界が大変驚いたと伺っています。ワンプライス制は現在、業界内でどのような存在感とインパクトを与えているでしょうか?
山根氏:「ワンプライス制」は、2000年にインターネット通信販売業を始めたときから導入しました。これは通信販売法で決められているんです。明確に販売価格と表示価格を一本化しないといけないというルールがあるので、ECでやる以上はまずワンプライスでないと無理なんです。一般的に住宅業界では、例えばメーカーの希望小売価格が100万円のキッチンなら、いわゆる仕入れ値(卸値)で工務店に卸しているのですが、ECの世界では通用しません。
弊社も2000年までは卸売をしていて、年間の売上が10億円くらいでした。2000年に売り方を変えて、2006年からはEC100%の売上になりました。話が戻りますが、弊社の18年間連続増収というのは、そこから一度も落としてないという意味なんですね。ただB2B自体がゼロというわけではなく、お客さまが家を建てるときに依頼する設計士や工務店の人たちが代理で購買してくれるというB2Bが大部分です。そういう意味では、業界に新しい商習慣を持ち込んだインパクトは今でもあると思っています。●満足できる家を建てるには、買うには ―― 2024年10月に旧社名の「サンワカンパニー」から、「未来(mirai)」と「タップ(tap)」を組み合わせた造語「ミラタップ」という社名に生まれ変わりました。どのような思いが込められているのでしょうか?
山根氏:サンワカンパニーという社名のロゴは全部で15文字あって、視認性が悪い点がありました。また、海外ではすでに商標が押さえられていて、使えない国があったことも大きいですね。日本国内でも4文字や5文字の社名がいいだろうとは考えていましたが、ECで勝負する以上、ドメインも空いていなければなりません。4文字か5文字で言いやすくて、商標もURLも空いている名前っていうのは「miratap」しかなかったんです。
「未来をタップする=ミラタップ」は日本語と英語の造語ですよね。記憶に残りやすい言葉というのは造語なんです。もともとある言葉というのは違和感がないのでサラッと入っていくのですが、違和感があるから記憶に残ります。ほかにも記憶に残りやすい音は半濁音という研究もあったので、パピプペポをどこかに入れようと。そういう要素を詰め込んで、ストーリーがあって勝てる名前は、もはや「miratap」一択という感じでした。
―― 近年、建築コストが上昇して住宅価格が全体的に上がり、エンドユーザーにとって住宅をめぐる状況が厳しくなっています。いち早くECへ参入し、価格改革などを進めてきたミラタップとして、顧客や市場にどのような価値を提供していきたいと考えていらっしゃいますか?
山根氏:社内でいつも言ってるのは「デザインは設計そのものである」ということ。デザインはいいけど価格が高いから売れないというのは、そもそも価格設計が間違っています。弊社にとって、デザインはものづくりの段階で設計にあたるソリューションなんです。
例えば、キッチンで全部オーダーができる商品は以前の弊社にもありませんでした。それに気づいたのは、建築家さんの建てた家に行ったとき。メーカーのキッチンが入っていることはほとんどなく、その建築家さんがデザインしたオーダーキッチンでした。つまり建築家が建てる家になると、我々の競合は他メーカーではなく、オリジナルのキッチンになるわけです。
そこに対して我々がどう差別化するかというと、ひとつは保証です。オーダーキッチンというシステムで、部材をある程度は共通化してコストを下げて、なおかつメーカー保証が付くことを訴求します。デザインも選べて保証も付く。そこに価値の差が生まれます。それも含めての「デザイン」でありソリューションなんです。
弊社の場合、マーケティング、お客さまに対する付加価値、営業のしやすさ――みたいなところまで含めて設計して、モノを作っているところが一番の差かなと思っていますね。インターネットで売るにしても、それを前提に品番が増えすぎないようにする設計にしています。
―― ユーザーが新築住宅を建てるときや、リフォームやリノベーションをするときに、どんなところに気を付ければよいか、ポイントやアドバイスをお願いします。
山根氏:私も自宅を建ててみて思ったんですが、疑問に思う部分は建築家やデザイナーに聞くか、聞きづらければ知り合いや友人にセカンドオピニオン的に聞いてみてください。あくまで一般論を言うと、建築家や工務店のデザイン料というのは、総工費に対する一定の割合なので、総工費が高いほど報酬が高くなります。だから費用を下げようというバイアスはあまり働かないわけです。
そして自分が絶対に実現したいことに優先順位を付けていく。基本として予算がある以上、家のすべてが自分の思い通りにはなりません。ですから、自分たちが建てる家で「絶対ここは譲れない」という優先順位を決めるのは重要です。
あともう1つ、今の生活に最適な家を建てるのか、10年後、15年後に最適な家を建てるのか。例えば子どもはすぐに大きくなります。子どもが大きくなれば必要なくなる設備もありますし、必要になる設備も出てくる。だから長く住む前提で考えてください。●根性を出せれば最強 ―― ご自身のキャリアは、大学卒業後は商社マン。そこからまったく異なる業界への転身、しかも社長。就任して戸惑うことはありませんでしたか? また、2代目の社長として家業を継ぐことになりましたが、そうした心づもりや意識は子どものころからあったのでしょうか?
山根氏:私自身のファーストキャリアは商社マンで、アパレルを担当していました。超大手企業の平社員か、上場企業の社長しかやったことないんですよ……。課長も部長もない、非常勤の取締役もない。マネジメント経験がないところからいきなり50人の社員、というところからスタートしているんです。
だから今でも1つの意思決定をするとき、成功する要素を限りなく詰め込んで、失敗する要素を限りなく省くというスタイルなんですよ。新しい社名を決めるときも同じやり方でしたね。
先代の父からは亡くなる直前に“継ぐ”ことを言われただけでした。もし昔から言われていたら、商社に就職するにしろアパレルではなく、建築や不動産のほうに行っていたと思います。だから、今でもそれほど建築に詳しくないです。もちろん必要な知識はありますが、マニア的になってしまうとおそらく一般消費者に響かない商品を作ってしまいそうです。できる限り、「消費者の気持ちが分かるちょっと詳しい人」で留めていますね。
―― 社長就任後に、気づいたことや学んだこと、仕事に対して考え方が変わったことはありますか?
山根氏:現場の社員と同じ考え方では社長はできないですよね。自分より上には人がいないので、意思決定に関して最後はすべて自分のところで決まることが一番大きな違いですよね。
社長に就任した当初は、社内ですべての会議に出席していました。マーケティングの予算から広告の内容など細かいところまで全部意見していたのですが、そうするとスタッフが育たなくなるんですよね。うまく行かなかったときも「社長の言った通りにやりました」で終わってしまう。
逆に裁量を与えて結果で評価するようになると、自分たちで考えるようになります。ビジネス書などではよく書かれていることですが、経営者がすべて自分でやると責任もすべて自分に返ってくるので、スタッフが成長しなくなるということを実感しましたね。以降は細かいことには口を出さなくなりました。
私には担当業務も所管部署もないので、新しい社名を決めるときも四六時中、集中して考えられました。社名は3年に1回変えるようなものではなくて、何十年もそれで戦っていくものです。こういう緊急性は低いけれども重要度が高いことだけに取り組めたのは、組織がしっかりしてきて、既存の業務は既存の組織で回せるところまで来たことが一番の武器でした。
―― 山根社長はテニスプレイヤーとしての顔もお持ちで、学生時代は海外派遣選手として世界各国でご活躍され、プロを目指されていたとのこと。テニスは現在も続けられていますね。
山根氏:はい、今も続けています。ケガの影響で今年(2025年)1年間は試合に出ていないのですが、年明け(2026年)から出場しようと思っています。昨年(2024年)は40歳以上の部で日本代表になれて、仕事を1カ月休ませていただいてポルトガルの世界選手権に出場しました。
―― テニスと経営。共通することや、競技経験が経営に活かされていることはありますか?
山根氏:テニスと経営で通じるもの……、あまりないですね(笑)。活かされていることを強いて言うなら、海外に対する抵抗のなさではないでしょうか。今、会社として海外の事業に力を入れていて、「明日この国に来てくれ」と言われてもすぐ行けます。
このバイタリティと海外に対する抵抗感のなさは、テニス選手時代と商社マン時代で身についたかなと思います。その経緯で外国語は英語とイタリア語、中国語が話せますし、海外に行くことに対して語学的なストレスはほぼないですね。
19歳から海外派遣選手として海外遠征をするようになったのですが、テニスのダブルスのパートナーって、現地で自分から声をかけてペアを作るんです。特定の目的で集まって即解散みたいなチーム。即座の判断が必要なところは、経営と共通しているかもしれませんね。
―― 社会情勢が大きく変化する中で、20代〜30代の若手ビジネスパーソンや新卒社員の考え方、行動様式の特徴をどのように感じていらっしゃいますか?
山根氏:皆さんすごく優秀だと思います。デジタルネイティブ、SNSネイティブですし、さらにこれからの世代はおそらくAIネイティブでしょう。僕たちの時代より、選択肢がとても多い。
だからなのか、何か壁に当たったときに乗り越える力が足りないかも? と感じるところはあります。「環境を変える」方向へ行きがちというか。それで解決すればいいんですが、また壁に当たって環境を変えることを繰り返していると、ブレイクスルーせずに終わってしまうんじゃないかなと。環境を変えるにしても、壁を乗り越えてからのほうが今後にも生きると思いますよ。
―― そんな若手のビジネスパーソンに向けて、メッセージをお願いします。
山根氏:僕は「安定した人生はない」という考えでして、自分の人生を楽しむには自分をアップデートし続けるしかない。乱暴な言い方になりますが、もうちょっと根性を出して、それがあれば最強です。
僕がテニスをやれたのは、今の自分が成功体験を積めるものはこれしかないと、自分でマインドチェンジできたから。また、建築がやりたくて社会人になったわけじゃないけど、経営者として会社の代表をやるチャンスをもらったと思ったとき、「この会社で社会にインパクトを与えることを自分事にしていくんだ」とマインドを変えたわけです。
最初は建材屋と言われても、建材メーカーをブランドにするんだと。次は選ばれる会社になろうと。そうやって少しずつ進んでこられました。環境のせいにせず、そこで結果を出す意識を持てばうまくいくんじゃないかと思います。色々なものを吸収してから自分の色を出せばいいんです。
これだけメディアが多様化してる時代だからこそ、信じられるものはやっぱり一次情報ではないでしょうか。だから海外へ行ったり、多くの人に会ったり、自分で見て食べて判断するという経験が大切だと思います。
―― これからミラタップが目指す世界や展開、ユーザーへ伝えたいメッセージをお願いいたします。
山根氏:日本では、ライフステージごとに家を建てようとか、家を移ろうという考えになかなかならないと思います。理由は、新築で買った家、建てた家が高く売れないから。戦後の日本と日本人が住宅に投資した金額と今の評価額を比べると、マイナス500兆円という試算があります。
一方でアメリカだと、今の評価額のほうが高いんですよ。これは流動性の問題で、一生に引っ越す回数がアメリカは日本の3倍と言われていて、なおかつ人口も多いからです。需給バランスで評価額が高くなりやすい。
日本の場合、人口はともかく、業界を透明にして流動性を高めることによって、マイナス500兆円をイーブンくらい持っていけたら、住宅の戸数は増えなくても業界の市場規模として、もう1回国を動かせるぐらいの中心産業になれるのではないか――。そういった思いが根幹にあって、弊社は透明性とか選択肢にこだわってビジネスをやっています。(神野恵美)