楽天モバイルの現状と課題 「年内1000万契約」の高い壁、基地局増設の遅れでネットワークに不安要素も

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2025年11月15日 06:10  ITmedia Mobile

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楽天モバイルが、目標としていた1000万回線達成に向け、リーチをかけた。第3四半期の決算から、同社の現状を読み解いていく。写真は9月に開催された発表会での三木谷氏

 楽天グループは、11月13日に第3四半期(7月〜9月)の決算を発表した。年内の1000万契約突破を目指す楽天モバイルが、どこまで伸びているかが焦点の1つだ。同時に、EBIDA通期黒字化を目指す楽天モバイルのARPU(1ユーザーあたりの平均収入)がどこまで伸びてきたのかも注目しておきたいポイントだ。10月には、ARPUを向上させる一助になる新料金プランの「Rakuten最強U-NEXT」もスタートした。


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 一方で、KDDIと結んだローミング協定のタイムリミットまで1年を切った。その後のエリアをどう補っていくかは未知数だ。また、東京など、一部の人口密集地域では通信品質の低下も課題になっており、目下、改善にも取り組んでいる。決算には、設備投資という形でそれが表れる。ここでは、楽天グループの決算を元にしながら、同社の“今の実力”を読み解いていきたい。


●黒字幅が拡大、回線数とARPUの伸長が業績をけん引


 年内のEBITDA黒字化の目標を掲げる楽天モバイルだが、第3四半期の業績は、これまで以上に好調だったと総括できる。楽天モバイルの売上高は950億円、基地局建設などの減価償却費を加えたEBITDAは80億円と黒字で着地している。EBITDAは、第1四半期が0円、第2四半期が60億円と徐々に拡大しており、このペースが続けば目標は達成できる。大幅な獲得コスト増加などがなければ、ほぼ達成は確実といえそうだ。


 売上高の拡大を支えたのが、回線数の伸びとARPUの上昇だ。契約数は第3四半期末の9月30日時点で933万に到達、11月7日時点では950万契約に届いている。楽天グループの会長兼社長、三木谷浩史氏によると、「7月から9月は通常だと閑散期だが、楽天カードとのコラボ施策が引き続き好調」で、第3四半期だけで40万5000回線の純増を記録した。


 純増数の中でも比率が高かったのが、他社からの転入であるMNP純増数だ。第3四半期には、この数字が9万5000回線まで拡大。第1四半期の3万8000回線、第2四半期の5万6000回線を上回っている。大きな要因として考えられるのが、他社の料金プラン改定だ。中でも、ドコモは前回の連載でも言及したように、irumoの廃止などによって第2四半期(7月から9月)は契約者全体が純減している。その一部が、料金の安い楽天モバイルに移ったという見方ができる。


 メイン回線として楽天モバイルを利用する可能性が高いMNPが増えたことで、ARPUも拡大した。データARPUは1781円、音声ARPUは92円まで増加しており、これも売上高や利益増に貢献している。実際、コンシューマーのデータ利用量は継続的に増加しており、第2四半期までは30GB台で停滞していた数値が、第3四半期には33.5GBと一気に増加している。


 楽天モバイルのRakuten最強プランは、データ利用量に応じた段階制を採用しているため、この平均値とARPUの上昇は連動しやすい。各種指標を見ると、ユーザー数を増やしながらARPUを上げていくという、キャリアにとって王道を進んでいることが分かる。


 また、法人事業も拡大しており、9月末時点での契約社数は2万3281社まで増加した。法人契約は、「年末に向けてパイプライン(潜在的な契約)が積み上がっている」(同)といい、これを契約に変えていくことが契約者数増加に寄与することになる。黒字化と並んで掲げられていた年度末の1000万回線達成にリーチがかかった格好だ。


●ARPU拡大に貢献するRakuten最強U-NEXT、一方でハードルが高い1000万契約達成


 10月に開始した「Rakuten最強U-NEXT」も、契約者獲得やARPU上昇にはプラス材料になりそうだ。特に、同料金プランはRakuten最強プランとは違い、データ使用量に応じた料金の変動がない。契約したユーザーには、一律で4378円が課金される。「最強家族プログラム」などの割引はあるが、データ使用量に応じた金額の差に比べれば微々たるもの。ユーザーを獲得するだけで、ARPUの向上が見込める。


 三木谷氏も、「Rakuten最強U-NEXTは、今後、データARPUの向上に効いてくる」と語る。同料金プランは、2026年1月まで3168円で利用できるキャンペーンが展開されているため、実際にARPUにその効果が反映されるのは、2026年2月以降になるが、9月に開催された説明会では、先行キャンペーンに10万件の申し込みがあったことが明かされている。サービスイン後に、この数字がさらに積み上がっていれば、ARPUは確実に上がることになりそうだ。


 ただし、年末までの約1カ月半で50万回線積み上げるハードルは、かなり高いように見える。ここ2年ほどの純増数は、3カ月(四半期)で多くて55万、少ないと24万程度にとどまっているからだ。これは、2024年第2四半期で記録していた55万1000と並ぶ純増を、その半分の期間で達成することを意味する。十万の位を四捨五入で約1000万回線などに条件を緩和するのでなければ、獲得にブーストをかける必要が出てくる。


 他社の値上げを伴う料金プラン改定も一巡し、流動性が低くなっているのも、楽天モバイルにとっては向かい風だ。実際、ドコモは純減を記録した第2四半期も解約率は0.69%を死守。KDDIも、第2四半期は前年同期より、解約率は0.12ポイント縮小。1.21%に落ち着いている。ソフトバンクは第2四半期で解約率が1.41%まで増加した一方で、同社は「優良顧客重視」に方針を転換。代表取締役社長執行役員兼CEOの宮川潤一氏は、その理由を「解約率の悪いところを直したいというのが根底にある」と語っている。


 他社が守りを固める中、楽天モバイルがMNPの獲得数を第3四半期以上に上げていけるかどうかは未知数だ。もともと掲げている目標が大きいことに加え、モバイル市場を取り巻く市場環境が変わりつつあるというわけだ。


 三木谷氏は、「B2Cについては引き続きよい獲得モメンタムを築いているので、これをさらに加速させるとともに、B2Bに関しても年末に向けて積み上がってきているパイプラインを実績化していくことで、今年度(2025年)内に1000万回線が達成できる」としていたものの、前者の個人契約をどう加速させていくかは語られなかった。法人事業でどの程度、契約目前の積み上げがあるのかにも左右されるため、達成は不可能ではないが、具体案が示されなかったのは不安要素といえる。


●基地局増設は計画未達の見通し、1年を切ったローミング期限


 もう1つの不安材料が、ネットワークだ。楽天モバイルは、2025年に新規基地局を1万設置する目標を掲げていたが、第3四半期が終わった9月末時点での数は4611にとどまる。決算説明会でも、一部は来期にずれ込む見通しが出された。結果として、第3四半期までの設備投資は340億円にとどまっている。2024年度は810億円だったため、このままのペースだと大きく減少する形になる。


 三木谷氏は、「新たな基地局を設置することで、カバレッジホールの解消やキャパシティー対策を行う」と述べていた一方で、それが計画通りに進んでいないことがうかがえた。


 その分、楽天モバイルにとってはコスト削減につながるが、基地局が増えなければ、エリアが広がらないだけでなく、キャパシティーも不足しがちになる。前者はKDDIのローミングで補える一方で、後者の対策は急務だ。参入時期が他社より遅かったこともあり、ネットワークでは他社の後じんを拝している楽天モバイルだが、このままでは差が詰まるどころから、より開いてしまう恐れもある。


 また、地方で頼みの綱になっているKDDIのローミングも、終了期限まで1年を切った。楽天モバイルが、“最強ネットワーク”を目指すと宣言していることへの受け止めをたずねられたKDDIの代表取締役社長CEO、松田浩路氏は「最強という言葉は私どものローミングを含めておっしゃっていると思っている」と皮肉ったが、実態として、同社はローミング込みで人口カバー率を他社並みに引き上げている。仮に1年後に打ち切られてしまえば、エリアの穴が広がる恐れも出てくる。


 松田氏が「MNOは国民の資産である周波数をしっかり展開していくのが使命。楽天とは競争と協調で、自前のエリアを構築するまでの間、暫定的に(基地局を)お貸ししている」と語るように、ローミングはあくまで、自社のエリアが十分になるまで一時的に行うもの。「次のタイミングを持っていくつかご相談を差し上げたいと思っている」(同)というように、再延長が行われるかどうかは未知数だ。


 ネットワーク品質は、ユーザー獲得の基盤になるのはもちろん、データ利用量の増加を促せるため、APRUの向上にもつながる。キャリアのビジネスにとって、土台のような存在だ。ここの強化がなければ、足元が揺らぎかねない。順調にユーザーを増やし、収益を拡大している楽天モバイルだが、依然として課題も抱えているといえそうだ。



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