
KDDIのDX推進を基盤としたビジネスプラットフォーム「WAKONX」(ワコンクロス)が開始してから1年半が経過した。
WAKONXでは、通信やクラウド、大規模計算基盤といったKDDIの強みを生かし、企業のDXをより迅速に支援することを目的としている。特に「ネットワーク」「データ」「バーティカル」という3つの機能群を軸に、モビリティ、リテール、物流、放送、スマートシティ、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)といった6つの「協調領域」に最適化した課題解決を提供する。
「和魂洋才」から生まれたWAKONXは、同社のビジネスをどのように変えてきたのか。
KDDIは10月28〜29日の2日間にわたり、ビジネスイベント「KDDI SUMMIT 2025」を開催した。これまで培ってきた通信ネットワークやIoTなどのアセットや技術を活用し、「誰もが思いを実現できる社会」を目指す「KDDI VISION 2030」の実現に向けた具体的な取り組みやユースケースを、講演や展示を通じて紹介した。
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29日に実施した桑原康明副社長のグループインタビューの内容から、WAKONXの展望を探る。
●高輪ゲートウェイシティでの取り組みを地方都市に展開
――WAKONXが始まって1年半が経過しました。手応えを感じている領域や、今後の進展についてお聞かせください。
まず大きな手応えを感じているのが、スマートシティ領域です。われわれはオフィスやビルはもちろん、街全体の企画・設計段階から災害やセキュリティ対策、今後の拡張を加味した上で、最適なネットワーク基盤や通信環境の構築を支援する「KDDI Smart Space Design」というサービスを提供しています。
このサービスでは、実装した街から得た人流などのさまざまなデータを収集してデジタルツイン上に都市空間を再現し、デジタルの場でシミュレーションをする。そうして得た分析結果をリアルな街空間にフィードバックする。このような取り組みを、本社を構える高輪ゲートウェイシティでまさに実証、体感しながら進めているのですが、ノウハウがかなり蓄積されてきており、他の都市でも展開できる手応えを感じています。
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――展開を予定している都市名や時期について教えてください。
現状では具体的な都市名をお答えすることは難しいですが、高輪ゲートウェイシティで採用した仕組みをそのまま利用できることが重要です。地方のメジャー都市を想定し、実際に展開できると考えています。
時期についてですが、現在は建設需要が高いこともあり、PoCなどスモールスタートで進めながら、本格的に進めるのは、あくまで現時点ですが2029年あたりを想定しています。
●今期末までにIoT回線数が7000万に達する見込み
2つ目はモビリティ領域です。現在、パートナーも含めるとわれわれの通信サービスを活用しているIoT機器は、全世界で6000万回線ほどあります。そのうち約3500万回線が自動車です。この6000万という数字を、今期末までに全体で7000万弱に、自動車は4000万回線に増えると見込んでいます。
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コネクティッド事業のグローバル展開拡大を目的に、2024年4月に北米に設立したKDDI Spherienceという子会社の存在も大きいです。すでに、BMWグループさんへの通信サービスの提供を開始しています。自動車以外でもヤマハ発動機さんのボートにも同じく提供を始めていて、コネクティッドカーならぬ「コネクティッドボート」を実現しています。
まだ企業名は出せませんが、農機具が有名な大手総合機械メーカーの建設機械などにもコネクティッドサービスを提供していく予定です。
――自動車をはじめとするさまざまな製品や機器がIoT化していくと。
はい。そしてここからがまさにWAKONXの強みになりますが、われわれはWAKONXという一つのプラットフォームで全回線を結んでいますから、制御もWAKONX上でワンストップでできます。モビリティ領域であれば、モビリティコントロールセンターというものを設け、そこで全てのモビリティの運用監視を実施していきます。
さらには先のスマートシティでの取り組みと重なりますが、さまざまなコネクティッドサービスで得たデータを蓄積・分析し、それぞれの製品のさらなる質向上や、新たなサービスの提供に寄与できるとも考えています。
●AIが中古車の価格をデジタルボードに自動でプライシング
――その他はいかがでしょう。
リテール領域では、AIと通信技術を活用し商品の価格を自動で変更・表示する「KDDI AIデジタルプライスボード」の引き合いが多いです。いわゆる電子棚札ですが、人が価格を打ち込むのではなく、AIがマーケットの動向を加味した上で、自動で、もしくはどのあたりの価格で表示するのかをレコメンドする機能も備えています。
自動車業界、特に中古車販売店ではこれまで人が同業務を行っていたため、かなりのコストを要していました。その改善になると、すでにトヨタ自動車さん系列のディーラーで採用されており、今後はスーパーマーケットなど、他のリテール領域にも展開できると考えています。
●スマートシティを中心に58社が参画
――実際、どれくらいの数の企業から引き合いがあるのでしょう。
現在はスマートシティ領域での引き合いが大きく、設計やデザイン、施工などそれぞれの分野で専門業者の方々が参画してくれています。デジタルテクノロジー分野での参加も増えてきており、現在、合計で58社のパートナー企業と共創を進めており、さらに拡大していく予定です。
「ConnectIN」というサービスに参画してくださる企業も増えています。これまではPCやモバイル端末を購入し、使用し始める際にはネットワーク環境を新たな通信契約なども含め、設定する必要がありましたよね。ConnectINを使えば最初に多少の設定は必要ですが、通信のことを気にすることなく、機器を使うことができます。
――通信費やデータ容量を気にしなくてよい、ということですか?
その通りです。月額料金も発生しません。購入いただいた時点でConnectINが入っていれば、期間の縛りはありますが、お客さまは通信のことを気にすることなく、機器を使うことができます。
現在はPCでの展開となっており、PCメーカー各社が参画していますが、今後はカメラやドライブレコーダー、ATMなどの機器にも展開していこうと考えています。
●フィジカルAIに注力 その理由と強みは?
――2026年には大阪堺に新たなデータセンターを稼働させます。WAKONXを踏まえた活用のユースケースや戦略について教えてください。
「GB200 NVL72」をはじめとするNVIDIA製の最新世代GPUを搭載したサーバを備えているため、AIの学習や推論の最適化での利用を見込んでいます。ユースケースとしては、創薬などの医療研究領域では、モデル開発やゲノム解析などですね。その他、大量のトラックを処理する金融機関、気候変動や防災シミュレーション、ロボットの自律制御といった領域での研究開発も含めた利用を想定しています。
――データセンター事業は国内外さまざまな企業が展開しています。KDDIならではの強みや注力領域を聞かせください。
日本企業の強いところを支援していくことで差別化していきたい、と考えています。具体的には素材や部品メーカーも含めた製造業領域において、先のコネクティッドサービスにも関連しますが、これからますます工場内で稼働するロボットや搬送機器などが通信でつながることとなり、制御する必要が出てきます。
いわゆるミドルウェア的な領域になりますが、そこにフィジカルAIを入れ、各種機器を正確にコントロールしていく。その支援に寄与できると考えていますし、われわれだからこそできる、重要な役割でもあると思っています。
――今まさに高輪ゲートウェイシティで取り組んでいることを、工場に落とし込んでいくイメージでしょうか?
はい。先ほど紹介したように高輪ゲートウェイシティでもそうですが、建物が建つ以前からかなりの準備をし、光回線やローカル5Gが使えるような環境を整えてきました。工場で同じような準備が必要となってきます。
というのも、単にそれぞれの機器やロボットにAIを実装し、Wi-Fiやクラウドなどにつないで制御しようと思っても、工場の規模にもよりますが、大きいところではそれこそOSも通信環境も相当数ありますからお互いが干渉しあい、思ったように制御できない場合が少なくありません。
正直、かなりハイレベルな技術や知見が求められます。われわれはこのような通信制御をこれまで長きにわたり取り組んできましたから、技術はもちろん経験や知識も豊富にある。通信事業者だからこそできる、スムーズで精緻なフィジカルAIを提供できると自負しています。
●世界中にKDDIのデータセンター網を広げていく
――データセンター事業の今後の戦略についてはいかがでしょう。
現在、国内外45の拠点でデータセンターを展開していますが、今後もさらに増やしていく予定です。海外では新たに12カ国に進出していく計画で、東南アジアならびに欧州に重きを置いています。
中でも意識しているのが、今後クラウドの需要が増すと考えられるエマージング・マーケットです。例えばフランスでは、すでにいくつかの拠点にデータセンターを構えていますが、今後はパリやマルセイユへの展開を計画していて、マルセイユではすでに土地を確保しています。
マルセイユは地中海を挟んでアフリカとつながりますから、アフリカ向けのトラフィックなどを、パリ、マルセイユを経由して展開していく。そのような流れをイメージしています。
また海外ではわれわれ単独というよりも、他の事業者、例えばAmazon Web Services(AWS)さんと一緒に進出することで、接続性が一気に高まることを意識しながら進めています。
もちろん国内にもおいてもさらに積極的に増やしていく計画があり、国内では先に紹介したようにフィジカルAIでの強みを出していく観点から、AIデータセンターとして展開していく予定です。
●アカウントはすでに40万超 中小企業まで使えるDXプラットフォーム
――DXブランドとしてのWAKONXの特徴や強みを教えてください。
大企業向けに開発したサービス、特にIPと呼ばれる知財を組み込むこと。そのIPをいわゆる月額の料金体系で提供できるのが、WAKONXの付加価値であり強み、特徴でもあると考えています。
ConnectINはいい例で、できるだけそのままのパッケージで、大企業であってもカスタマイズは少なく、中小企業はまさにそのまま使うことができる。大企業向けに作られたシステムやサービスを、月額のリーズナブルな料金で使えるようなイメージです。
実際、このような特徴はマーケットからも評価されていて、登録アカウントの数はすでに40万以上です。中小、中堅のお客さまによりお使いいただきたいという思いから、専用のチャネルも設けています。今後ますます中小・中堅のお客さまがコストをかけずにDXを推進していけるような、さまざまなサービスを展開していこうと考えています。
(杉山忠義、アイティメディア今野大一)
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