危険! 濃度10%で呼吸困難、20%で死亡も……知らないと命にかかわる「ドライアイス」のリスク

0

2025年11月25日 20:50  All About

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

All About

【薬学部教授が解説】ドライアイスは食品の保冷剤などにも使われる身近な物質ですが、取り扱いを誤ると死亡リスクを伴います。国内外の事故の事例を挙げながら、人体に有害な理由と安全な使い方を、分かりやすく解説します。(画像:shutterstock.com)
2025年10月20日、徳島大学大学院薬学研究科の研究棟低温室で、特別研究学生の男性が死亡しているのが発見されました。死因は酸素欠乏で、室内のドライアイスが原因と考えられています。このドライアイスは、試薬などを入れる箱の温度を保つために、前日18日に31kgもの量で搬入されていたそうです。

海外でも、大量のドライアイスを入れたプールに、危険性を知らずに飛び込んだことによる死亡事故が近年報じられました。国内でも、ご遺体の保存のために棺桶に入れられたドライアイスが原因で、故人とお別れをしていた遺族が亡くなってしまったケースも報告されています。

「危険性は、素手で触るとやけどリスクがあることくらいだと思っていた」「ドライアイスが危ないものとは知らなかった」という声もあるようです。そもそもドライアイスがどういうものなのか、なぜ危険なのかを分かりやすく解説します。

ドライアイスとは……固体二酸化炭素は「−80度」。氷のように溶けない便利な特性

ドライアイスは、「固体の二酸化炭素」です。二酸化炭素は大気圧の常温下では「気体」として、空気中に浮遊しています。しかし特殊な装置で、低温高圧にすると「液体」になり、さらに温度を下げると、雪の塊のような「固体」になります。これがドライアイスです。ドライアイスを大気圧の常温下に取り出すと、約−80度を保ち、保冷剤(冷却剤)として使用できます。

さらに、ドライアイスは液体を経ず直接気化するため、氷のように濡れることがありません。この「液化しない」という特性は、溶けても周りのものを濡らすことがないため、氷よりもさらに扱いやすい冷却材として一般的に使われるようになりました。しかし、この「すぐに気化する性質」が、多くの事故の原因となっています。

「濃度20%」で致死的に……二酸化炭素が人体に与える影響と死亡リスク

二酸化炭素が体に有害なことは、誰もが知っているはずです。私たちは呼吸で二酸化炭素を吐き出していますが、気密性の高い部屋を適切に換気せずに過ごすと、次第に室内に二酸化炭素が充満していき、頭痛などの体調不良が起こります。二酸化炭素濃度の高い屋内に入ると、誰もが直感的に不快感を覚えるはずです。

通常、大気中の二酸化炭素濃度は0.04%です。この程度ではもちろん無害で、人体に影響を及ぼすことはありません。しかし、0.1%を超えると眠気が生じ、1%を超えると酸素不足を補おうとする体の反射が起こり、自然と呼吸が速くなります。10%を超えると呼吸困難と意識喪失が起こり、20%で中枢神経系が麻痺して死に至るとされています。

上述した徳島大学の事故では、搬入されたドライアイスが全て気化したとすれば、室内の二酸化炭素の濃度は50%近かったでしょう。入室しただけで致死リスクがあったと推定されます。

ドライアイスは身近な物質で、正しく使えば便利なものです。換気や使用量の管理はもちろん、特性を十分に理解した上で、上手に利用することが大切です。

阿部 和穂プロフィール

薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。
(文:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者))

    ランキングライフスタイル

    前日のランキングへ

    ニュース設定