被害総額は数億円規模…AIを口実に“最先端っぽさ”で騙す古典的詐欺の被害が拡大中

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2025年11月26日 16:10  日刊SPA!

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 AIで顔をすり替えるディープフェイク詐欺が話題になる一方で、最近はAIを名乗るだけの“なんちゃって詐欺”が急増中だ。騙された人々の証言から、その手口を追う。
◆被害者5000人!? 数億円規模の事案か

 AIという言葉があらゆる副業や投資に使われるようになった昨今、その裏で被害者を量産しているのが、AIを口実にした低レベル詐欺。

 なかでも10月に破綻したと囁かれている「VAC(Visionary AI Cinema)」での被害報告が増えている。

「映画や予告編を視聴してポチッと評価をするだけで、テザーという名称の仮想通貨が一日約1000円分稼げる“ポイ活AI副業”として今春以降、瞬く間に参加者が増えていきました」(経済誌記者)

 仕組みはこうだ。参加者は、まず1万〜3万円のテザーを任意の取引所で購入し、VAC側に送金する。サイト内で映画を見てレビューすると、入金額にもよるが、一日あたり数百〜数千円を得ることができる。

 また、知人を紹介すれば約10%の報酬がもらえるというシステムも。貸株のような制度もあり、100万円相当のテザーを預けると一日1%のリターンが約束されていた。

 要するに、AI要素ゼロの古典的なポンジ・スキームだったのである。

◆利益を出金できてつい信用

 被害者のSさんは言う。

「3万円からスタートし、すぐに元手を回収、以降は毎月倍々で増えていきました。やることは『ダイハード』や『バットマン』などの映画を見て、レビューするだけ。感想を書く必要はなくポチポチと星で評価するだけです。最初は信用してなかったので、1か月後に出金したら、きちんと支払われた。6000円ほどの利益が出たので信用してしまい、ランクを上げようと100万円を入金してしまった。でも秋頃から、『更新料を払わないと継続不能』『15%の保証金を入れないと出金できない』などのアナウンスが相次ぎ、結果、出金できなくなった」

 現在、Sさんによれば、約5000人の被害者がおり、被害額は数億円規模に上るという。なかには、17歳の高校生もいたというから驚きだ。

「その子は両親からVACを紹介され、家族で合計1000万円ほど投資したそうです。身分証明書は必要なく、電話番号と名前だけで誰でも登録できてしまう。初回の最低入金額は約1万円ですし、若年層の被害者も多いのではないでしょうか」(Sさん)

◆マルチの自覚はあったが…

 もう一人の被害者・WさんもVACを過信した一人。

「預けたお金が増えていくのを見るのはとても気持ちよかった。私の場合、被害額は約500万円。AIという触れ込みは何だったのか。とにかく騙されて悔しい」

 一方、VACのピラミッド最上位レベルにいるNさんにも取材できた。彼の傘下には最盛期、2600人のユーザーがいたと言う。

「勧誘時に、『はっきり言ってマルチだけど、副業としてコツコツやれば毎月3万円は稼げる。いつ終わるかわからないから、こまめに出金して』と伝えました。僕が直接誘った人たちは副収入が得られていたはずですが、“孫以下”の人たちのなかには、ムチャな勧誘をする人もいた。自分のまいた種なんで、本当に申し訳ないです……」

◆「AI×仮想通貨」の未来感に騙されるな

 VAC以外にも最近、類似の詐欺として仮想通貨のAIトレーディングを謳う「ACEOV」や、副業型のAI投資ツールと宣伝する「SEOKORE」の名が挙がっており、双方で被害者が増えているようだ。

「ACEOVもAIを使った仮想通貨投資を謳っていました。VACのテレグラムの公式グループに『VACの損失を取り戻そう』と案内されていましたね。騙された人を狙い、二次被害を誘う悪質な投資ですよ」(Wさん)

 こうした詐欺の怖さは、本来なら誰も信じないような投資話だとしても、テクノロジーの衣をまとえば、一気に未来のビジネスに見えてしまう点だ。

「VACなどのAI投資詐欺は、世界中に被害者がおり、特にインドネシアでは社会問題になっています。VACの本社は書類上、アメリカとなっていますが実体はないようです。カンボジアやミャンマーにいる中国系詐欺グループが関わっている可能性もあります」(前出の経済誌記者)

◆60万円の情報商材の中身は全部コピペ

 ほかにもこうしたAI詐欺はあり、現在“入り口”として増えているのがネット上にあるAIのマニュアルやセミナー。そこから購入者を吸い上げ、詐欺や高額情報商材の購入に誘い込んでいく。被害者の会社員・Tさんは言う。

「TikTokで流れてきたAI副業ツールの動画を見て、そのままLINEグループに誘導され無料のオンラインスクールを受講したんです。すると、60万円の教材を勧められ購入してしまいました。内容は生成AIの動画作成でしたが、中身は薄っぺらく、検索したらよそのサイトのコピペ!さらに別のグループに招待され、今度はAIトレーディングの商材を紹介された。カモだと思われたのかも」

 詐欺や消費者問題の被害者救済サイト「リーチアウト」編集長の成田雅光氏は言う。

「今年に入り、文章投稿サイト『note』がグーグルと提携したことで掲載記事が検索の上位に表示されやすくなりました。また、同時期にアマゾンのKDP(アマゾン・ダイレクトパブリッシング)では、個人が出版する電子書籍でも、安価に広告が打てるシステムに変更された。SEOや広告を組みわせた宣伝は効果絶大で、結果的に高額情報商材や詐欺が広まってしまった。AIを謳った詐欺は、ハイテクを装っているだけで根本は古典的な詐欺。冷静に内容を聞けば、矛盾やおかしな点はすぐ見つかるはずです」

 AIという言葉に惑わされることのないよう注意したい。

◆不安にさせて短期間で判断迫る手法に注意!

 なんちゃってAI詐欺に騙されないためにはどうすればいいのか。

「AIはまだ法整備が整っておらず、そして知識は人によってかなりばらつきがあります。つけ入る隙を与えてしまうので、詐欺が現在、広がっているのです」

 こう話すのは、AI分野の投資詐欺に詳しい弁護士の加藤慶二氏だ。情報弱者は将来に不安を抱きやすくなり、自ずと騙されやすい状況に陥ってしまうと分析する。

「AI詐欺には目新しさがありますが、仕組みは従来の詐欺と変わらないと思います。加害者は、相手を過度に不安にさせた後に短期間で判断を迫る。被害者は不安を煽られ、誰かに相談する間もないまま、『このままじゃダメになってしまう』と騙されてしまうことが多い。特にSNSは詐欺に向いているツールで、加害者は自分の姿を見せずに安全性を保ったまま、DMやアプリで一斉に複数の人に連絡でき、相手を陥れることができてしまう。こうした詐欺の特性を知っておくことが大事です」

 技術が進化しても「おいしい話はない」と肝に銘じるべきだ。

【弁護士・加藤慶二氏】
投資詐欺問題について13年間の弁護士経験を持つ。投資詐欺や訪問販売など消費者被害の救済に注力。講演活動も行っている

取材・文/週刊SPA!編集部 写真/時事通信社

―[[なんちゃってAI詐欺]に注意せよ]―

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