約4万台の車から絞り込み…検察が立証へ重ねる状況証拠 王将射殺

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2025年11月26日 21:34  毎日新聞

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毎日新聞

京都地裁に入る田中幸雄被告を乗せた車両=京都市中京区で2025年11月26日午前9時36分、中川祐一撮影

 2013年12月に「餃子の王将」を全国展開する王将フードサービス(京都市山科区)の社長だった大東隆行さん(当時72歳)を拳銃で撃って殺害したとして、殺人罪と銃刀法違反に問われている特定危険指定暴力団・工藤会系組幹部の田中幸雄被告(59)は26日、京都地裁(西川篤志裁判長)で開かれた初公判で「決して犯人ではない」と述べ、無罪を主張した。


 被告は、何者かと共謀して京都市山科区の王将本社前の駐車場で大東さんを射殺したとされる。弁護側も起訴内容を否認しており、検察側と被告側が全面対立する構図になった。


 事件では、被告が実行犯であることを直接指し示す証拠は見つかっていない。検察側は状況証拠を積み重ねて有罪を立証したい考えで、冒頭陳述では捜査によって被告にたどり着いた経緯を詳述した。


 最初に被告の存在が浮上したのが車両捜査の結果だった。事件では尾灯が切れたバイクが走り去るのが確認されていたが、同型バイクが現場から北東へ約1・4キロ離れた場所で見つかった。ハンドルグリップからは銃撃時に飛び散る微粒子が検出されたとした。


 このバイクが見つかった場所から南西へ約400メートル離れた場所でも別の盗難バイクが見つかり、2台は事件の約2カ月前に同じタイミングで盗まれていた。


 2台目のバイクが盗まれた状況を捜査したところ、飲食店の駐車場で軽乗用車から現れた何者かが盗みに関与していた疑いが判明。同型の軽乗用車3万9616台を車体の色や装備品を基に絞り込んだところ、所有者は被告の幼なじみだった。被告と幼なじみの間には金銭のやりとりがあり、バイクの盗難時、被告は軽乗用車を幼なじみから借りていたという。


 事件現場付近ではたばこの吸い殻が見つかり、付着した唾液から被告のDNA型が検出されていた。検察側は車両捜査によって被告が浮上した時点で「DNA型が被告のものだとは判明していなかった」とし、異なる捜査ルートから被告にたどり着いたことを強調した。


 こうした事実関係を補強する状況証拠があるとも主張した。事件から半年後、メディアが「捜査当局が関係証拠を押収した」と報じると、被告はその日、自身の携帯電話に「警戒を解いてはならない。だからといって怯(おび)えすぎないこと。息を潜めて行動しろ。深海魚のように人知れず泳ぎ回れ」というメモを保存していた。


 ただ、検察側は、事件の動機や暴力団組織の関与には一切触れておらず、困難な捜査を強いられた実情がにじんだ冒頭陳述となった。弁護側は冒頭陳述で、検察側が示す状況証拠は「いずれも決め手にならない」と反論。事件当日、被告は京都府ではなく、福岡県にいた可能性があるとし、証人尋問でその点を立証する方針を示した。


 初公判に先立って公判前整理手続きが開かれ、地裁が公判日程を発表。判決は、26年10月16日に言い渡される。



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