ビッグモーター不正事件で本当に損したのは誰だったのか?

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2025年11月27日 08:10  マイナビニュース

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国民皆保険や年金といった制度以外にも、生命保険や介護保険など、私たちは生活していく中で様々な保険に加入し、リスクから守られています。しかし、その保険や、保険を提供する保険会社について知っている人はほとんどおらず、「身近な存在だけどわかりにくい」という印象が強くなりがちです。



そこで本書『保険ビジネス』では、ビジネスパーソンが知っておきたい「保険の教養」というコンセプトで保険に関するあらゆるトピックスを紹介していきます。



今回は「ビッグモーター事件の本当の被害者は誰か」についてです。


○ビッグモーター事件の本当の被害者は誰か



中古車販売業の旧ビッグモーター(以下、旧BM社)による保険金の不正請求事件を覚えているでしょうか。従業員がゴルフボールを靴下に入れて振り回し、車にわざと傷をつけ、保険会社に保険金を水増し請求していたという話が有名です。2023年7月の記者会見では、当時の経営トップによる「ゴルフを愛する人への冒涜(ぼうとく)」という的外れな発言もありました。



さて、この事件の被害者は誰でしょうか? 自分の車を故意に傷つけられた所有者は、確かに被害者ではありますが、保険金が支払われており、経済的な被害は受けていません。



では、本来は払う必要のなかった保険金を支払ってしまった保険会社が被害者なのでしょうか? この事件で保険会社は、なんと旧BM社による水増し請求の疑いがあるとわかっていながら、それでも保険金を払っています。そうだとすると、本当の被害者は誰なのか。保険のしくみを理解すれば、それが見えてきます。



保険は、保険会社が自らのお金を支払っているように見えるかもしれませんが、そうではありません。保険の加入者全員からお金を集め、加入者のうちお金が必要な人に渡すしくみです。将来支払うであろう保険金の総額を、あらかじめ加入者から集めることで、保険は成り立っています。



具体的な例で説明しましょう。次のような保険があるとします。



・事故が起きたら50万円を受け取ることができる

・加入者が事故を起こし、保険会社が保険金を支払う確率は10%

・加入期間は1年



この保険の加入者が1,000人だとすると、1年間に事故を起こす人は100人なので、保険会社が1年間に支払う保険金の総額は5,000万円となります。保険会社の運営コストを無視すると、この5,000万円を加入者全員で負担すればいいので、加入者1人あたりの負担は5万円となります。つまり、加入者からそれぞれ5万円の保険料を集めれば、この保険は成り立ちます。



しかし、不正請求があると、次のようになります。



・事故が起きたら50万円を受け取ることができる

・不正請求により、保険会社が保険金を支払う確率は年12%となっていた

・加入期間は1年



保険の加入者が同じく1,000人だとすると、1年間に事故を起こす人は120人となり、保険会社が1年間に支払う保険金の総額は6,000万円となります。これを加入者全員で負担するので、加入者1人当たりの負担(保険料)は6万円です。不正請求がなければ5万円だったのに、保険会社が不正請求を見過ごすと、加入者の負担が増えてしまいます。以上からわかるように、保険金の不正請求事件の本当の被害者は、「保険の加入者全員」なのです。


ところで、この事件で保険会社は、旧BM社による不正請求の疑いがあるとわかっていながら、請求どおりに保険金を支払ってしまいました。それはどうしてなのでしょうか? この保険会社のリスク管理体制に不備があった、言い換えれば、保険金支払い管理が甘かったからではあるのですが、その背景には、旧BM社が中古販売業のほかに自動車修理工場も兼務し、さらに、保険会社の代理店だったという事情があります。



最近はネット経由での加入も増えてきたとはいえ、皆さんの多くは、自動車を購入すると同時に、その販売店経由で自動車保険に加入しているのではないでしょうか。保険会社からすると、中古車販売大手だった旧BM社は、自動車保険をたくさん売ってくれる重要な代理店でした。



もし、皆さんが自動車事故を起こしてしまい、修理が必要になったらどうしますか? なじみの修理工場があれば別ですが、自動車保険の加入先である保険会社に相談することも多いでしょう。相談を受けた保険会社は、自らにとって重要な代理店である旧BM社を優良な修理工場として紹介していました。実際には優良どころか、ひどい実態があったわけですが、保険会社は自動車保険の重要な販売会社である旧BM社に遠慮して、厳しい対応がとれなかったのです。



しかし、被害者(保険の加入者)からすると、とんでもない話です。自動車ディーラーが修理工場を兼務し、かつ、保険の重要な代理店となっているケースは旧BM社だけではないので、この事件を受けて、保険業界全体が不正の撲滅に取り組むとともに、政府も再発防止のために動いています。


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「保険の販売員はなぜ女性が多いのか?」

「ビッグモーター事件の本当の被害者は誰?」

「保険ショップは本当に中立なのか?」

「日本の保険は『輸入品』だった」

「掛け捨ての保険は損なのか?」



など、私たちにも身近な例や素朴な疑問、多くの人が知っている事件や出来事などから話を始め、本質的な部分に落とし込む解説を加えています。



大手損保、保険分野のアナリスト、金融庁、保険会社向けコンサルティング会社を経て、現在は大学で教鞭を執る著者は、生保・損保のいずれにも精通。保険業界への就職・転職を考えている人など、業界外の方でもサクサク読める平易さながら、業界内の方でもあまり知らないような鋭い分析や豆知識なども散りばめて、面白く読んでいただける内容です。



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