富裕層がやらかした! ケタ違いの“投資失敗” 第4回 「銀行が融資する不動産なら安全だと思った」年収1,000万会社員が"2億円投資"で直面した現実

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2025年11月27日 08:30  マイナビニュース

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「銀行が融資してくれるなら、間違いないと思ったんです」そう語るのは、Agent Connect株式会社代表の冨谷皐介さん(56歳)。不動産投資に手を出したものの、シェアハウスに住人は無く、想定されていた家賃収入も入らず、負債だけが残った。



家族のために「死ぬしかない」と思った夜もあったという。それでも冨谷さんは生きる道を選び、同じ被害者とともに立ち上がった。絶望の果てにたどり着いた先とは何か。


大企業で年収1000万超でも「老後が不安だった」



――当時はどんな生活を送っていたのですか?



47歳で大企業に勤務し、年収は1000万円超。家族4人で安定した暮らしをしていました。ただ、私立に通う娘が2人いて、教育費や将来の生活に備えておかなければと思うようになりました。ニュースで「老後2000万円問題」という言葉を聞いた頃で、自分も何か準備しなければと考え始めたんです。



――投資を始めたきっかけは?



会社の同僚から「不動産投資をしてみたらどうか」と言われたことです。その人自身もやっていて、「知り合いの不動産会社を紹介するよ」と。信頼している同僚だったので、軽い気持ちで話を聞いてみました。



すると、営業担当者が丁寧に説明してくれて、「銀行も審査して融資を出すので安心ですよ」と。銀行が融資してくれるなら大丈夫だろうと安心していました。



――どんな条件の投資でしたか?



月100万円の家賃収入が見込めて、銀行への返済は80万円。月20万円の利益で、年間240万円ほどが手元に残る計算でした。担当者からは「団体信用生命保険も付いていますから、生命保険代わりになります」と説明されました。リスクが少なく、堅実な投資に思えたんです。



2016年12月に約2億円の融資を受けて契約しました。



――契約の際、不審に感じたことは?



その時点では特にありませんでした。不動産会社、銀行、建築業者、司法書士が連携して進めており、「多くの専門家が関わっているのだから間違いない」と思っていました。

ところが、後から考えれば、その"連携"こそが落とし穴でした。後に第三者委員会の報告などを読む中で、業者金融機関の間で適切とは言えない融資姿勢や、審査プロセスの形骸化が問題視されていたことを知りました。


2億円の融資を受けるも「家賃を20万円下げます」



――銀行員も関わっていた、とは?



2017年6月に高校時代の建築関係の友人を物件を見せるために連れて行ったら、「これ2億の価値ないよ。1億くらいだ」と言われました。



――他に違和感はありましたか。



契約後に「建物の壁の色などは後で選べます」と言われていたのに、いざ確認すると「もう決まっています」と言われたことです。でもその時は「そういうものなのかな」と流してしまいました。



――その後の流れを教えてください。



11月に突然「家賃を銀行への返済額と同額に下げます」と連絡がありました。まだ家賃を受け取ってもいないのに、です。



12月に支払いが始まって、家賃80万円、返済80万円でプラスマイナスゼロ。税金や今後の修繕金を考えると、給料から持ち出しが出てしまうことになります。



――誰かに相談しましたか?



司法書士事務所に行って「おかしいと思わなかったのか」と聞いたこともありますが、「右から左に処理しているだけ」と言われました。

団体生命信用保険で「家族のために死のうと思った」



――当時の心境はいかがでしたか。



大晦日に紅白歌合戦を見ながら、「死ぬしかないかな」と思いました。それまで一度も考えたことはなかったのに、このときばかりは本気でした。もし自分が死ねば、団信(団体信用生命保険)でローンは消え、物件は残る。自己破産して、妻や子どもが貧しい生活をするくらいなら、そのほうがいいかもしれないと考えたんです。



――なぜ、踏みとどまれたのでしょうか?



二週間前に、いとこが労災事故で亡くなったんです。機械に巻き込まれて亡くなり、おじさんとおばさんが深い悲しみにくれていると母から聞いて……。もし自分が死んだら両親や、妻と娘たちも同じ思いをする。自死だけは絶対にしてはいけないと考えなおしました。



死ぬのはよくないと思った瞬間、「死ぬ気になればなんでもできる」と思いました。怒りのスイッチが入り、完全に戦闘モードになりました。「このまま終わらせてたまるか」と。



不動産会社に「被害者を集めて説明会を開くように」と何度も要求し、 2018年1月に説明会が開かれました。そこで被害者の方達と繋がれたんですが、二次被害にあった方もいたんです。

「被害者救済」の落とし穴、コンサル200万円という罠



――二次被害とは?



被害者を救済するとうたう団体が「お金を取り戻すにはコンサル費用が必要です」という詐欺ビジネスをやっていて。料金は1棟あたり200万円。それでも多くの方たちが騙されてしまったんです。「200万で被害から救済されるなら」と。結局、その団体の代表者は後に別件で逮捕されていました。



――お金は戻ってきたのですか。



2020年の春、弁護団による銀行側との交渉が実を結び、シェアハウスについては和解が出来ました。裁判ではなく交渉での解決でした。しかし、今なお、シェアハウス以外の不動産投資案件として、アパート・マンション投資で悩みを抱える人が一定数おり、相談が途切れない状態でした。



そこで、「ReBORNs」という非営利団体を立ち上げました。被害者たちの相談に乗り、情報共有をするための組織です。



これが、会社を退職するきっかけになったんです。

被害者の中には「7億円でアパート3棟」も



――退職につながるきっかけ、とは?



2021年ごろ、「ReBORNs」にアパート・マンション被害者の相談が増え、被害者救済を実現するためには、本業と両立はできないと考えました。



被害の数が多すぎて、片手間では対応できない。中には医師や経営者の方で、数億円規模の複数物件を購入し、うつ病になってしまう方もいました。



放っておいたらまた自殺者が出てしまう。自分も一度はそうなりかけたので、見過ごすことができませんでした。



次に、被害者救済だけではなく被害者が発生しない仕組みづくりも重要であると考え、2023年12月に、「AgentConnect」という新しい仕組みをつくりました。



――どんなサービスなのでしょうか?



不動産取引における“人”に評価をつけるシステムです。会社単位ではなく、担当者ひとりひとりを可視化する。会社名は変えられても、名前は変えられませんから。



現在ではエージェント200名、ユーザー600名が登録しています。目的は“再発を防ぐこと”。昔の私と同じような苦しい思いをする人を一人でも減らしたいんです。



――最後に、この記事を読む人へ伝えたいことはありますか?



お金は“結果”であって“目的”ではありません。投資そのものが悪いわけではありませんが、金額が大きい不動産こそ「誰から何を買うか」で天と地ほどの差が生まれます。



大切なのは、看板や会社の規模ではなく“人”。大企業だから、銀行が勧めるから──それだけで判断してはいけません。最後に残るのは、資産ではなく“人とのつながり”です。


○『かぼちゃの馬車事件

スルガ銀行シェアハウス詐欺の舞台裏』(冨谷皐介 著/みらいパブリッシング 刊)


「少しでも将来の足しになれば……」軽い気持ちで友人の誘いに乗った

「かぼちゃの馬車」は、地獄の一丁目行きだった——。2億円の借金を背負わされた一被害者の、2年に渡る苦しみと闘いの日々を描くドキュメント!



2018年、スルガ銀行による巨額の不正融資事件が発覚。時の金融庁長官に「地方銀行の雄」とまで評価されたスルガ銀行だったが、シェアハウス不正融資事件の元凶として巨大な壁となり、被害者たちには長く苦しい闘いの日々が待っていた。



被害者の一人である著者は、離婚、自殺まで考えるほど追い詰められながらも、徐々に同志を増やし、被害者同盟を結成。社会派弁護士らとの出会いにより、一人では到底勝ち目のない闘いをチーム戦で挑み、ついに累積1570億円の債権放棄を勝ち取ったのだ。



被害者だからこそ知り得た詐欺事件の裏側を、実体験をもとに克明に描き出した本書は、誰の身にも迫りうる詐欺被害への注意を喚起する、必読の一冊である。



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綾部 まと あやべ まと 三菱UFJ銀行の法人営業、経済メディア「NewsPicks」を運営するユーザベースのセールス&マーケティングを経て、独立。フリーランスのライター・作家として、インタビュー記事、エッセイやコラムを執筆。フランス・パリ近郊の町に在住。3児の母。趣味はサウナと旅行。
X:https://twitter.com/yel_ranunculusInstagram:https://www.instagram.com/ayabemato/ この著者の記事一覧はこちら(綾部 まと)

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