「アイデア出しツール」にも生成AIの波 GoogleとAdobeも参入する、オンラインホワイトボードの今

0

2025年11月27日 11:31  ITmedia NEWS

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ITmedia NEWS

写真

 9月24日は、奇妙な発表が2件同時に行われた。1つはグラフィックス界の巨人米Adobeが、同社のイベントAdobe MAX London 2025で同社生成AI Fireflyの機能として発表した「Adobe Firefly Boards」。もう1つは検索業界の巨人米GoogleがGoogle Labsとして発表した、「Mixboard」だ。


【画像を見る】今年10月のAdobe MAX 2025で発表された、Googleとのコラボレーション


 これらは何かというと、生成AIをゴリゴリに使う「アイデア出しツール」だ。どちらもβ版だが、現在日本語環境でも問題なく動作する。似たようなサービスを同日発表するということは、何らかの連携があったと見るべきだろう。


 今年10月下旬にロサンゼルスで行われたAdobe MAX 2025では、モバイル版Premiereにおいて、Googleとのコラボレーションが発表された。具体的にはYouTubeショートとの連携なのだが、ここでYouTubeの名前を出さず、あえてGoogleとの関係性を強調した。Adobe Fireflyでは生成AIのパートナーとしても、Googleと連携している。


 今なぜ、AIでアイデア出しツールなのか。その背景を考えてみたい。


●アイデアをまとめるツールの変遷


 過去アイデアを形にする方法論としては、幾つものやり方が開発された。アナログというか物理的な方法としては、「KJ法」が思い当たる。これは日本の文化人類学者である川喜田二郎氏が、フィールドワークから得られた情報を整理・分析するために開発した手法で、多数の情報やアイデアをカード化し、意味の近いもの同士をグループ化して本質的な構造を見いだすという方法だ。


 情報を言語化して、それをグループ化して階層構造を作るという手法は、多くはボードに付箋紙を貼り付けていくというやり方で実施される。


 1990年代に入りPCの時代になると、「アウトラインプロセッサ」なるものが登場した。別名「アイデアプロセッサ」とも呼ばれたこのツールは、「Acta7」などがよく知られている。


 文章自体は基本的に上から下に流れるものだが、その文章を階層構造化できる。つまり見出しの下に幾つも文章を追加でき、見出しごとに折りたたんだり展開したりできる。1つの文章をつかんで別の見出しに入れたりすることもできる。これは現在のMS Wordなどのワープロソフトにも、その名残を残している。


 一般に長文を書くときには、頭から書き始める人はまれで、まずは全体の構造をアイデアとして考え、そのあとに細部を記載していくという方法論になる。そうした用途に適したツールだった。


 1990年代末ごろになると、マインドマップと呼ばれるツールが普及し始めた。多くの人はこちらの方がなじみがあるのではないだろうか。


 古くからよく知られるところでは、今もサービスを続けている「MindManager」がある。またオープンソースとして作られたものには、「FreeMind」がある。2014年頃で開発が止まっているようだが、その傍系として「Freeplane」があり、こちらは現在も開発が続けられている。


 これらは、いわゆるツリー構造を用いて、アイデアや要素を構造化していくタイプのツールだ。アウトラインプロセッサをより平面的に展開したもの、と考えればいいかもしれない。視覚的な要素も多分に含まれており、ある意味ではKJ法の考え方に近いとも言える。


 2000年以降に立ち上がったサービスとしては、香港で現在も開発が進められている「XMind」もよく知られているところだ。これはマインドマップからスタートして、現在は生成AI対応となり、プロジェクト管理ツールなどとの統合化が進められている。


 こうしたアイデア出しツールに大きな変化が現れたのは、2020年のパンデミック以降である。多くの人がリモートでつながるようになり、オンライン上で複数人が1つの場所で同時にコラボレーションできるツールが求められた。


 現在よく知られているツールに「Miro」がある。もともとは「RealtimeBoard」という名称で開発が進められてきたが、2019年にリブランドすると、コロナ禍の追い風もあって一気に知名度が上がった。2022年には日本語版も登場し、ビジネスシーンでは今でもよく使われているようだ。


 Miroは「ビジュアルワークスペース」と位置付けられているが、単にオンライン上のホワイトボードにとどまらず、生成AI機能を使ってイメージ画像を生成したり、マインドマップを作ったり、プロジェクトをロードマップに落とし込んだり、プレゼン資料を作成したりと、まとまったアイデアのアウトプットまでを視野に入れたところにある。


 つまり現在のビジネスシーンにおいて、アイデア出しからプロジェクト管理まで可能な総合ツールとしては、マインドマップからスタートしたXMind群と、オンラインホワイトボードからスタートしたMiro群の2つの流派がある、ということになる。


●生成AI基準のアイデア出しツールとは


 こうした流れを踏まえて、改めて米Adobeと米Googleの両ツールを見ていく。


 Adobe Firefly Boardsは、Adobe MAXでデモも拝見したところだが、目的は生成AIを駆使して、デザインやイメージ画像といった、ビジュアルのアイデア出しをすることだ。見た目はただ単に広いバーチャル空間があるだけだが、アイデアのスタート地点となるのはあくまでも何らかのビジュアルである。その点では、言葉ベースの上記アイデア出しツールとは、アプローチが異なるだけでなく、ゴールも異なる。


 基本となるビジュアルも、プロンプトで生成することができる。Fireflyでは、他社の生成AIとパートナーシップを結ぶことで、Fireflyの中からそれらの生成AIを使うことができるようになった。生成AIは種類によってテイストや得意分野が違うので、バリエーションを複数のAIに作成させることで、アイデアを広げていける。


 ボードには矢印やテキストなどを付け加えることができ、ArtBoardを作成してグルーピングもできる。ただMiroのように、フリーハンドで図示したり、付箋紙を貼ったり、ディスカッションのためにコメントを挿入するといった機能はない。つまり、結論に至る思考プロセスをあとから追うには、少し機能が足りない。


 アイデアを具現化する際には、他者に対して何らかのプレゼンテーションが必要になるわけだが、その結論に至ったプロセスが追えるというのは、根拠を明確にする上で非常に重要になる。ただ現時点ではまだβ運用のため、今後ブラッシュアップされる可能性はある。


 米Adobeの強みは、ここで生成された画像をもとに、フィニッシングまで持っていけるグラフィックスツールを多数有しているというところだ。多くの生成AI事業者は、生成した後どうするかのツールやノウハウを持っていない。米Adobeが他社生成AIを飲み込んでいくのは、既定路線である。


 さらに米Adobeの場合は、こうしたビジュアルを広告宣伝戦略やパッケージングなどのビジネスに落とし込むツールとして、別途エンタープライズ用に「GenStudio」というサービスを提供している。つまりクリエイターとビジネスマンで、ツールを分けたということだ。


 Fireflyで使える生成AI群は、12月1日まで無料でテストできる。その後は生成クレジットを購入する必要がある。試行錯誤の過程で生成AIをたくさん回し、クレジットをいっぱい使ってくれることを期待するものだ。


●GoogleのMixboardはどうか


 一方Google Mixboardはどうか。こちらもベースとなる画像をアップロードしたり、コマンドプロンプトを打ち込んで画像生成させることはできるが、生成AIは同社提供のものに限られる。その点では、別テイストの画像を得るのは難しい。


 ボード上のイメージに対しては、バリエーションを生成させたりすることはできるが、フリーハンドで書き込めるのは画像内に限られる。本来はボード上に書き込めるべきだ。また関係性を示す矢印のような線画や、グルーピングするための機能もない。テキスト入力ができるぐらいで、基本的には従来の画像生成モデルをホワイトボード上に置いただけ、という実装になっている。


 アイデア出しツールとしては、あまりにも機能がなさすぎて、どう使っていいのか途方に暮れる。現在まだラボ機能として公開されたにすぎないが、現時点での機能では他社へ対抗するのは難しい。


 米Googleの強みとしては、圧倒的なユーザー数を誇るGoogle WorkspaceやNotebookLMといった別ツールと連携できる余地があるということだ。ただ現時点ではそうした連携はなく、方向性として米Adobeのようにビジュアル作成のアイデアツールなのか、それともビジネスユースのアイデアツールなのか、方向性が示されていない。つまりこれが具体的な業務フローとどうつながるのか、見えてこない。


 ただ、ラボ機能とはいえ一般公開した理由は、多くのフィードバックを得ることによって方向性を見つけていくということだろう。


 個人的には、ビジュアル系ツールとしてはフィニッシングに至るツールを米Googleが持っていないということもあり、米Adobeのような方向性はあまり可能性がないのではないかと思う。さらには米Adobeとはパートナーシップを結んだ中でもあり、わざわざ競合しに行くとは考えられない。


 むしろ米Googleが得意なのはエンタープライズ系のビジネスソリューションであり、そちらの方向へ進むのではないかと考えている。そうなると、前出XMindやMiroのようなツールと競合することになる。


 こうしたアイデア出しツールは、生成AIによる「すごくきれいな使い方」だ。現在もチャット型AIを相手にブレストしてアイデアを練る人も多いだろう。


 だが一般にアイデアがどこから出てきて、どういうプロセスを経たのかは、ほとんど表に出てくることはない。あくまでもプロジェクトチーム内、せいぜい社内などの閉じた環境の中で共有されるだけだ。


 米Adobeや米Googleがアイデア出しツールへ参入した背景には、昨今何かと問題になりつつある生成AIの、どこからも文句のつけられない用途を開拓したいという思惑もあるのではないだろうか。



    ランキングIT・インターネット

    前日のランキングへ

    ニュース設定