
映画『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』の海外での興行収入が684億円に達し、世界で大きな支持を集める日本のコンテンツ。この現象は映画だけにとどまりません。日本のコンテンツ産業の海外市場規模は10年前の3.7倍、5.8兆円に拡大し、半導体産業を超える規模に成長しています。
このような状況の中、日本の「文化」を売るビジネスが注目を集めています。今回は、カリスマデザイナー・NIGO(ニゴー)が手掛けるアパレルブランド「Human Made」と、糸井重里率いる「ほぼ日手帳」を例に、日本発のビジネスが世界で成功を収めている秘訣を探ります。
(TBS Podcast『コムギコ:資本主義をハックしろ!!』2025年11月20日配信『ニッポンの文化を売るビジネス:「Human Made」と「ほぼ日の手帳」から「身体化」の意味を考える』より)
注目のアパレルブランド「Human Made」とは?カリスマデザイナー・NIGO(ニゴー)がつくったアパレルブランド「Human Made」を運営する会社が2025年11月27日に東証グロース市場に上場します。洋服だけでなく雑貨や飲食、ライセンス事業まで幅広く展開し、20代から40代まで幅広いファンを獲得しています。注目すべき点は、顧客の6割が外国人であることです。海外に3店舗を展開し、イーコマースでも世界中の顧客に販売していることが強みとなっています。
「Human Made」は2025年1月期の売上高が112億円で、4年前の2021年と比較して5倍以上に成長しています。年平均成長率は52%という異常値を記録し、営業利益は31億円で、営業利益率は25%以上というアパレル企業としては突出した数字を誇っています。
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このブランドの驚くべき特徴は次の3点です。
1. 全商品を定価で売り切る「プロパー消化率100%」
2. 商品消化率も「ほぼ100%」で在庫にかかるコストが最小限
3. 広告宣伝費が売上の1%未満という驚異的な低さで、ほとんどプロモーションに費用がかかっていない
さらに海外向け売上比率が63%に達していることは、日本生まれのアパレルブランドが世界で受け入れられている証です。
「Human Made」の成功の秘密「Human Made」の創業者NIGO(ニゴー)は、1990年代の東京・原宿の「裏原ブーム」を牽引したカリスマデザイナーです。彼が以前手掛けた「A BATHING APE(BAPE)」は、映画『猿の惑星』に触発されたブランドで、世界的に知られています。
「Human Made」が採用している販売手法「ドロップカルチャー」は、特定の日時にのみ商品を発売し、即完売を狙うスタイルです。毎週木曜日の11時に商品情報を出し、土曜日の発売日にファンが購入するという流れで、常に売り切れる数量を販売してファンの熱量を維持しています。
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しかし「Human Made」の革新性は単なる販売手法にとどまりません。ブランドのものづくりのコンセプト「The Future Is In The Past(未来は過去にある)」は、過去のファッション界にあるビンテージのアーカイブからインスピレーションを得て、商品づくりに活かすというものです。
例えば、「デニムカバーオールジャケット」は左胸のポケットがペーパーラベルになっており、洗濯するごとに変化して、すべて剥がれるとハート型のステッチが現れる仕組みになっています。また、デニム愛好家から絶大な支持を集めるセルヴィッチデニムを使用し、旧式の織り機で織り上げられた素材を使うなど、クラフトマンシップにこだわっています。
この「温故知新」のデザイン性は、SNS上でファンが語りたくなる要素となっています。「Human Made」の公式インスタグラムでは商品の写真とごくわずかな説明しか提供していませんが、ファンが自発的に商品の背景や文脈を語り合い、情報を拡散しています。
「ほぼ日手帳」日本の手帳文化を世界へ「Human Made」と同様に海外で成功を収めているのが、糸井重里率いる「ほぼ日」の手帳です。2001年から毎年発売されている「ほぼ日手帳」は2023年に累計1000万部を突破したロングセラー商品です。
注目すべきは、2025年8月期の「ほぼ日手帳 2025」の販売部数が過去最高の96万部を記録し、その売上の52.5%が海外によるものだということです。北米中米が34.1%、ヨーロッパが8.3%、中華圏が5.1%、アジアとオセアニアで4.2%と、世界の100を超える国や地域で売れています。「ほぼ日」は2025年11月にアメリカに子会社を設立するなど、海外展開を強化しています。
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なぜ日本の手帳が海外でこれほど人気なのでしょうか。その理由は大きく2つあります。
1つ目は、さまざまな文化とのコラボレーションです。『ワンピース』、「たまごっち」、ホラー漫画家の伊藤潤二、テキスタイルブランド『ミナ ペルホネン』など、日本のカルチャーだけでなく、アメリカの絵本『ちいさいおうち』やフィンランド生まれの『ムーミン』など、国を超えたコラボレーションを行っています。
2つ目は、日本の「手帳」という文化そのものが海外で人気を集めていることです。「ほぼ日手帳」は英語では「TECHO」とそのまま表記され、スケジュール帳でも日記でもノートでもない、それらを兼ね備えた「ライフブック」として受け入れられています。
アメリカではマインドフルネスブームの延長で「ジャーナリング」が人気となっていますが、「ほぼ日手帳」の1日1ページの余白たっぷりのレイアウト、3.7ミリの方眼、180度開く造本、薄くて丈夫な「トモエ リバー」の用紙、そして1日1つずつ掲載された「日々の言葉」といった特徴がこのトレンドにマッチしています。
成功の共通点「ビジネスの身体化」「Human Made」と「ほぼ日手帳」の成功には、「ビジネスの身体化」という共通点があります。これは単なるファンコミュニティの形成ではなく、ユーザーの身体的な行動や習慣と結びついた体験を提供することです。
「Human Made」では、毎週木曜日の情報公開と土曜日の発売という定期的なリズムがファンの行動パターンとなっています。新商品の情報はクラフトマンシップの独自の言葉で語られ、自発的に発信するファンコミュニティの間で流通します。
「ほぼ日手帳」は、毎日手を動かして書くことを通じて、日々の出来事を客観視する体験を提供します。ペンで書くことで得られる喜びがあってこそ、その感動を仲間に伝えたいという欲求が生まれ、自発的にファンコミュニティが形成されていきます。こうした参加の行動、体で覚えたリズムが非常に重要になってきているように思います。
ミーティングキャラバンと呼ばれるイベントでは、ニューヨークやロンドンなど海外の各都市で「ほぼ日手帳」のユーザーが集まり、手帳の使い方を見せ合います。これはPRやプロモーションというよりも、カルチャームーブメントに近い活動です。
企業はファンコミュニティをつくるよりも先に、「ビジネスの身体化」を考えるべきではないでしょうか。身体性を伴ったプロダクトやサービスは、ファンコミュニティの形成を強固にします。例えば、バンダイのガンプラは、プラモデルを組み立てる時間そのものが身体的な体験となり、強固なファンコミュニティを形成しています。
これらの企業は、単に商品やサービスを提供するだけでなく、ユーザーの行動パターンや習慣、身体的な体験と結びついたビジネスモデルを構築しています。そして、その体験を共有したいという自然な欲求から、ファンコミュニティが自発的に形成されているのです。
日本の文化を世界に売り込む上で、この「ビジネスの身体化」という視点は今後ますます重要になっていくでしょう。日本のクリエイターやビジネスパーソンがこの視点を持ち、世界に通用するビジネスを展開していくことを期待し
<コムギコ:資本主義をハックしろ!!>
毎日ニュースを100本を読むビジネス系VTuber兼リサーチャー・編集者のコムギ(comugi)が、日々の経済にまつわるニュースを解説するビデオポッドキャスト。本記事は2025年11月20日配信『ニッポンの文化を売るビジネス:「Human Made」と「ほぼ日の手帳」から「身体化」の意味を考える』から抜粋してまとめたものです。
