自分に中指を立てるな――あなたは「本当の自分」にウソをついていないか?

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2025年11月28日 07:11  @IT

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@IT

真剣であることはかっこいいんだな

 「仕事がつまらない」「どうせ頑張っても無駄だ」――日々の仕事に冷めた感情を抱いていませんか? ひょっとしたら、その背景には本当の自分に「ウソ」をつき、「向き合う」ことを避け、自分に「中指を立ててしまう」諦めがあるのかもしれません。


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 でも、その選択はあなたの本心ですか? 本当は「○○でいたい」という気持ちがあるのではありませんか?


 本稿では、50代の男性である筆者が、偶然出会い、すっかり引き込まれてしまったガールズオーディション番組「No No Girls」を題材に、この「諦め」を深掘りし、私たちが失いかけている「自分を信じる力」と「一生懸命さ」を取り戻すヒントを探ります。


●なぜ、50代男子が「No No Girls」に引き込まれたのか


 突然ですが、「No No Girls」というオーディション番組を知っていますか?


 これは、音楽プロダクションのBMSGが2024年10月〜2025年1月にかけて開催していたガールズグループオーディション番組です。プロデュースはラッパー/シンガー・ソングライターのちゃんみなさんが手掛けています。


 No No Girlsの特徴は、従来のオーディションのような「身長、体重、年齢」といった外見的な基準ではなく、参加者の「声と人生」が重視されている点です。世界中から7000通を超える応募があり、最終的に選ばれた合格者7人は「HANA」というグループでデビューしました。


 HANAの楽曲は「Blue Jeans」をはじめいろいろなメディアで流れています。No No Girlsは知らなくても、ひょっとしたら既にどこかで耳にしているかもしれません。


 ボクには年頃の娘が2人います。娘たちが家のリビングでNo No Girlsの動画を見ていたため「ガールズグループのオーディションが行われているんだな」ということは知っていました。ですが、「ふ〜ん、そんな番組があるんだー」ぐらいの認識で、それ以上に興味関心を抱くことはありませんでした。


 ですがある日、何となくリビングで流れていた番組を「ちゃんと見る」機会がありました。すると、すごく惹(ひ)きつけられている自分がいました。


 何がそこまでボクを惹きつけたのか。それは、参加者の「アーティストとしての才能」もさることながら、参加者それぞれの人生で抱えざるを得なかった背景や挫折みたいなもの。それから現在に至るまでの道のり。そして、オーディションのために一人一人がひたむきに向き合い、さまざまな葛藤を手放し、成長していく姿――そういったプロセスは心に刺さるものもあったし、共感もしました。


 ふと気付けば、オーディションの動画を最初から全て見て、関連動画も検索して見るほど夢中になりました。


 ボクは50代の男性です。@ITでガールズグループオーディションについて「心が突き動かされた」という話をするのは正直とても気恥ずかしいし、最初は書くことをためらいました(笑)。ですが、その気恥ずかしさを超えてでも書こうと思ったのは、あれこれ生きづらいいまの時代に、No No Girlsで表現されていることが「結構大切なんじゃないか」と思ったからです。


●あなたが選んでいるそれは、本当に「自分の声」なのか?


 No No Girlsは、そのタイトルが表しているように、いままで周囲から「No」と言われてきたガールズのためのオーディション番組です。参加者には3つの「No」が求められています。「No FAKE(本物であれ)」「No LAZE(誰よりも一生懸命であれ)」「No HATE(自分に中指を立てるな)」です。


 No FAKEとは「自分の経験や、自分が本当に感じたもの。そして、事実を伝える」こと。


 No LAZEとは「自分と向き合うことを怠らない」こと。自分に対する自己理解。


 No HATEとは「自分の声、自分を信じる。信用する」こと。自己肯定。「私なんて」と思わずに一生懸命生きること。


 先ほど、「あれこれ生きづらいいまの時代に」と表現しましたが、昨今は、何かと生きづらい時代ですよね。具体的に、ボクたちのまわりでどのような事象が起こっているのか? それを題材に、「3つのNo」をボクの個人的な解釈で見ていきます。


 例えば最近だと「静かな退職」という言葉が注目を集めています。「与えられた業務はこなすが、それ以上の積極的な提案や活動はしない」という、仕事に対する在り方、働き方です。働き方は個人が選ぶもの。なので、ここではその善しあしの評価はしません。


 ですが、仕事に対するいろいろな在り方、働き方がある中で、どのような理由で静かな退職を選ぶのか? その背景には「ワークライフバランスの浸透」といったこともあるかもしれませんが、どちらかといえば……。


1. 「自分を捨てて会社に従う」といった、これまで美徳とされた働き方や価値観に対する反動


2. 仕事による過度なストレスからの自己防衛


3. 「本当は、○○したい」と思っているのに、理不尽な上司や同僚からの扱いに「頑張っても報われない」「意見が聞き入れられない」といった不満や諦め、無力感


 このような背景もあるような気がします。このような環境で働かざるを得なかったら、「環境が与えられないから、俺/私はやる気が出ないんだよ」「言われたことしかしねぇよ」とすねたくもなります。


 一方で、本当は「○○でいたい」と感じている内なる声がそこにはあるのに、それに目を向けようとしないのは、自分に対する「FAKE」なのではないか。自分と向き合うことを怠っている状態は「LAZE」なのではないか。そして「しょせん、私なんて……」と自分に中指を立てているのは「HATE」なのではないか――。


 本連載のタイトルは「仕事が『つまんない』ままでいいの?」です。ボクたちの日常には、「仕事、つまんねぇな」と思ってしまうこと、思わざるを得ないことがたくさんありますよね。そう思ってしまうこと自体は仕方がないことだし、それ自体が悪いことだとは思いません。


 だけど、自分に正直になったり、向き合ったり、自分に中指を立てなければ、その環境を変えられるかもしれないのに、早々に「諦めてはいないかな?」と思うんです。


●「命を懸ける」なんて簡単に言うな、と思っていたけど


  とはいえ、それは理想論かもしれません。この番組には7000通を超える応募があったそうです。合格者7人の背景には7000人がいる。夢がかなえられるのはほんの一握り。ひょっとしたら、ボクたちは7000人の側かもしれません。


 目の前に「No」を突き付けられる経験を何度も繰り返していたら「やっぱりうまくいかないじゃないか」と自信をなくしてしまったり、「どうせ無理に決まってるよ」と斜に構えてしまったりすることもあります。オーディション参加者の中には、他のオーディションで敗者だった人たちが数多くいました。あるいは、挫折を何回も繰り返す中で、自信をなくしていた人もいました。


 それでも、可能性を諦めない姿が、そこにはありました。


 ボクは「人生を懸けて」とか「命を懸けて」という言葉があまり好きではありません。「そんな気軽に言うな」と。「実際に命なんて懸けないだろう? それなのに、そんな上っ面なことを言うな」と。だけど、可能性を諦めずに挑む参加者たちの「さま」を見ていたら、「これが『命を懸ける』ということか」「彼女たちは『命を懸けている』と言ってもいい人たちだ」と思いました。


 それに比べてボクたちは「命を懸けて」って言えるほど、やっていないのかもしれない。それぞれの仕事の領域で「プロフェッショナル」と言えるほど、真剣に自分と向き合っていないのかもしれない。


 もしも、ボクたちにとって何かしら「望む理想」があるのだとすれば、命……まで懸けなくていいかもしれないけれど、そのぐらいの意気込みで取り組むことも大切かもしれない。物事がなかなかうまくいかなくて、つい、冷めがちなのだとしたら、それを打開するために、時には「命を懸けるぐらいに」やってみてもいいのかもしれない。


●熱くなるのも悪くない


 ボクは、どちらかというと「冷めている」タイプです。物事に対して内なる炎を燃やすことはあっても、表立って熱く表現したり、行動したりすることはあまりありません。逆に、熱い人に対して「うーん、ボクには無理」と、どこかで壁を作ってしまうこともありました。


 だけど、いまは「時には一生懸命になってもいいんじゃないかな」と思っています。というより、自分に対して「FAKE」で「LAZE」で「HATE」なのは嫌だ。それよりも、熱くなって、一心不乱に打ち込んでみたい。


 その熱さは、「熱くなろうとして」なるものではないかもしれません。けれども、少なくとも自分が思ったこと、感じたことにウソをつかず、自分と向き合うことを諦めなければ、それでいいのではないか。そして、これまでがんばってもうまくいかなかった「もう一人の自分」をねぎらい、癒やし、たたえ、中指を立てずに、いまできることをやっていけば、自然と熱くなれるのではないか?


 少なくとも、そうしていった方が自分を好きになれそうだし、自信にもつながりそうだな、と思ったのです。


●筆者プロフィール


しごとのみらい理事長 竹内義晴


「仕事」の中で起こる問題を、コミュニケーションとコミュニティーの力で解決するコミュニケーショントレーナー。企業研修や、コミュニケーション心理学のトレーニングを行う他、ビジネスパーソンのコーチング、カウンセリングに従事している。著書「Z世代・さとり世代の上司になったら読む本 引っ張ってもついてこない時代の「個性」に寄り添うマネジメント(翔泳社)」「感情スイッチを切りかえれば、すべての仕事がうまくいく。(すばる舎)」「うまく伝わらない人のためのコミュニケーション改善マニュアル(秀和システム)」「職場がツライを変える会話のチカラ(こう書房)」「イラッとしたときのあたまとこころの整理術(ベストブック)」「『じぶん設計図』で人生を思いのままにデザインする。(秀和システム)」など。



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