画像提供:マイナビニュース 東京都が主要な通信事業者の代表を集めて、通信インフラの構築に向けた取り組みを発信する「TOKYO Data Highwayサミット」。通信事業者としては、NTT東日本/NTTドコモ/KDDI/ソフトバンク/楽天モバイル/JTOWER/NTTブロードバンドプラットフォーム(NTTBP)/ワイヤ・アンド・ワイヤレス(WI2)が参加し、東京都からは小池百合子都知事と宮坂学副知事が出席。慶應義塾大学の村井純教授が座長を務めた。
東京都では、「つながる東京」の実現に向け各種施策を展開しており、本サミットではAIの活用、次世代通信規格(6G/IOWN)、災害への強靭性(レジリエンス)の確保といったテーマでの民間事業者の取り組みが示された。2050年代の未来を見据えて2025年3月に制定された「2050東京戦略」の実現に向けて、東京都と民間事業者が官民で連携していく方針だ。
この中でNTT東日本は、AIを活用してプロアクティブな対応が実現する未来を紹介。IOWNを組み合わせた未来の通信環境像を描いていた。
○「2050東京戦略」の実現を目指して
TOKYO Data Highwayサミットがはじめて開催されたのは2019年。コロナ禍で開催されなかった年もあったため、今年で6回目の開催となる。冒頭に挨拶した小池知事は、変化の速い業界であることから「もう1世紀分にあたるのではないかというぐらい激しい色々な変化が起きている」と指摘。今回のサミットでは「つながる東京の未来社会像を考えたい」と話した。
東京都は「2050東京戦略」で2050年代の未来像を描いたが、サミットではそれに関連して、小池知事が20世紀最初の年である1901年1月2日/3日に発行された報知新聞の記事を紹介。この記事は20世紀中に実現するであろう技術を予測するという内容で、電信電話については無線電話が世界に広がり、色鮮やかな写真が瞬時に世界中に送信でき、飛行機で世界中に旅行に行けて、暑さ寒さ知らずになる――といった予測が立てられていた。
小池知事は、「これからの100年後を考えるには、考えられないことを考える。こういう時代の中で、いかに“つながる東京”を実現していくか、夢のある展望をもって描いていきたい」と話した。
宮坂副知事は、通信を水道や道路と同様に重要な都市インフラであると位置づけ、2050年のビジョンとして「世界最高の通信環境」を目指すという目標を語る。そして「つながる東京を作るにあたって、地中・地上・宇宙、色んな技術を組み合わせて作っていくことになる」と意欲を示した。
○NTT東日本はAIとIOWNによる取り組みを紹介
NTT東日本からは、代表取締役社長の澁谷直樹氏が参加し、「安心・安全なスマートシティ」「Well-being」「スマート農業・水産業」「スマートインフラメンテナンス」「防災・災害対策」といった幅広いテーマで取り組みが紹介された。
まず澁谷社長は、技術革新によるメガトレンドとして、AIが予兆を察知してプロアクティブな対応が可能になることで、地域の課題解決や価値創造、一人一人の多様な幸せが実現する時代が到来すると予測。従来のような事後対応から、AIやセンサーを活用した予防・先回り対応へと進化し、状況に応じたオンデマンドな対応が可能になるとした。
Well-beingの分野では、様々な技術を組み合わせて健康状態を把握し、より健康的な生活が送れる未来社会の実現を予想。ウェアラブル端末、IoTセンサーなどを通じて得られたデータに対して、AIが生体データ分析を行い、個人の状態に応じた最適なサービスや医療・ケアを日常生活の中で提供していく。この観点では、東京都が提供する「東京アプリ」との連携を想定する。
スマート農業や水産業の分野では、食の安全・安定供給がテーマとなる。AIやデータを活用することで収穫予測や需要データにもとづく生産の最適化が可能になり、カメラやセンサーによる環境モニタリングなどを使って、地域に根ざした循環型社会が実現できるのではないかと澁谷社長。これには遠隔からの営農指導、養殖環境のモニタリングなどを進めて、地産地消の推進などを進めたい考えだ。
橋梁や道路の老朽化という都市課題に関しては、インフラ点検や保全のスマート化を推進。センシングデータや3D点群データをAI解析することで、インフラの点検・維持管理が効率化できるという。過去に発生した陥没事故のように空洞の発見が遅れたような事例でも、光ファイバーセンシングやカメラ収集のデータにもとづき劣化や異常の予兆を検知し、優先順位や整備計画を策定して予防保全を実施できるとした。
防災・災害対策については、気象情報などを使ったAIによるデータ分析で災害の予兆を事前に察知して、地域や個人に寄り添った誰も取り残さない未来社会の実現を想定する。気象や河川状況などの情報を踏まえて早期の警告を東京アプリと連動させるといった機能も検討する。
こうした未来社会の実現のためには、「強固な信頼性の高いネットワーク基盤が必要で、増え続ける電力消費にどう答えるかの対処が求められている」と澁谷社長は強調する。大容量のデータはコアデータセンターで処理するが、高速データ処理が必要なものは端末とエッジで処理する分散型になると予測し、これを大容量・低遅延・低電力消費が特徴のIOWNで接続することによって実現を目指す。また、省スペースで短期間に設置できるコンテナ型のデータセンターも活用し、「つながる東京」を支えていく考えを示した。
澁谷社長は防災・災害対策に関して、今年10月の台風22号・23号によって通信設備に甚大な被害が発生した八丈島と青ヶ島に関しての取り組みも紹介。この台風被害にあたっての復旧活動は、国の激甚指定がない中で通信キャリアの要請に応じて自衛隊による輸送が実現した初めての例だったという。この対応により、離島の防災の課題について、自衛隊の支援も活用した復旧活動が行えたということになる。
この復旧対応では、NTT東日本とモバイル4社がStarlink設備を持ち込み、協力して通信環境の復旧に努めたという。「これも画期的な動きだった」と澁谷社長は評価し、こうした防災力の強化を継続して高めていきたい考えを示した。
小山安博 こやまやすひろ マイナビニュースの編集者からライターに転身。無節操な興味に従ってデジカメ、ケータイ、コンピュータセキュリティなどといったジャンルをつまみ食い。最近は決済に関する取材に力を入れる。軽くて小さいものにむやみに愛情を感じるタイプ。デジカメ、PC、スマートフォン……たいてい何か新しいものを欲しがっている。 この著者の記事一覧はこちら(小山安博)