“お天気カメラ”に、20年ぶりの新モデル キヤノンが「絶対に壊れないカメラ」にこだわるワケ

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2025年11月28日 08:40  ITmedia NEWS

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 11月21日まで開催された映像の総合展「Inter BEE 2025」。国内外のメーカーがさまざまな映像機材を展示していたが、キヤノンブースの一角に大きく真っ白なカメラが展示されていた。同社の広報担当に聞くと、20年ぶりに登場した“お天気カメラ”だという。


【写真を見る】キヤノンの最新「お天気カメラ」をさまざまな確度から見る(計6枚)


 これは、キヤノンが手掛ける放送用の遠隔操作カメラ(通称:ロボットカメラ)の最新モデル「U-4SR」で、2005年に登場した「U-4RII」「U-4SPII」の後継にあたる。豪雨でも、暴風でも、地震が来ても稼働する耐久性能に注力しており、テレビのニュース番組などで映し出されるお天気カメラや、現地の災害状況を伝える固定カメラの映像の多くはU-4シリーズが捉えたものという。


 新製品のU-4SRは4Kに対応。パン・チルト動作の速度向上、耐環境性能の強化を実現した。カメラの構造自体はシンプルで、白いボックスの中身は、キヤノン製の超望遠ズームレンズと、他社製のボックスカメラが取り付けられており、側面にはメンテナンス用のハッチがある。この開口部を持ちながらIP56の防塵防水性能を実現した。


 遠隔操作には専用のコントローラーを使用する。災害時でも確実に操作できるよう、従来のU-4シリーズと同様、電話回線とモデム、専用のプロトコルを利用する。カメラからの映像はSDIで出力され、専用設備から放送局に映像が送られるという。これらのケーブルを接続するコネクター部分も厳重にシールドされる。


●きっかけは40年前の「三原山噴火」


 ロボットカメラシステム自体は約50年前の「U-1」(1974年)が始まりだが、現在のお天気カメラのポジションを獲得したきっかけとなったのが、86年に伊豆大島で発生した三原山噴火だったという。キヤノンがInter BEEに参考出品していた遠隔ロボットカメラを見たNHKから打診があり、火山活動が活発になっていた三原山を遠隔で捉え続けるカメラとして設置することになった。これがU-4シリーズ誕生のきっかけとなり、災害監視やお天気カメラとして普及していったという。


 こうした経緯で生まれたカメラゆえ、U-4SRでは20年にわたり蓄積してきた災害データをもとに、全面的に設計を見直したという。風速40mの台風や、近年増えている「ゲリラ豪雨」にも耐えられる防風・防水性能のほか、沿岸部に設置されるケースも多いことから、本体の腐食を防止するための耐重塩害塗装を採用している。


 特に、2016年に発生した熊本地震では、揺れの影響でハウジング部分のギアが破損する事例があったことから、耐震性能も強化。ブースの担当者は「今回のモデルは熊本地震対応型になっている」とアピールする。ビルの屋上から渋谷のスクランブル交差点を映すカメラとして採用されるなど、高所に設置されることも多い。「そうした事例は今までない」としつつも「揺れてボキっと折れるようなことはあってはならない」と語る。


 こうした高い信頼性からロボットカメラの国内シェアで9割を占める。一方、海外展開はほとんど行っていないという。その理由について担当者は、日本特有の災害環境を挙げる。


 「これだけ災害に見舞われる国は世界的に見てもまれ。例えば耐震性一つとっても、震度が高い地震が頻発する国はそうそうない」(ブース担当者)。海外では、大規模災害が発生して機器が壊れたとしても仕方ないという考え方が一般的のため、「壊れたら買い替える」という発想になる一方、日本では「絶対に壊れないようにする」が求められるという。


●SPADセンサーで進化の余地も


 使用しているボックス型カメラはNEC製だ。以前は池上通信機なども同様の製品を手がけていたが、すでに撤退している。担当者いわく「現状はほぼこれ(NEC製カメラ)一択になっている」という。


 実はキヤノンもボックス型カメラを製品化しており、超高感度に対応する「SPADセンサー」を搭載した「MS-500」などのモデルが存在する。フルHDだが、ISO100万超えという超高感度で暗闇を捉えることができるカメラだ。


 しかし現状のU-4シリーズには非対応。「プロトコルをU-4SR用に対応させる必要がある」(ブース担当者)とのこと。そこでInter BEE 2025では、顧客のニーズがあるかを見極めるために、U-4シリーズと同じブース内にMS-500も展示していた。ただ、MS-500の価格は現在採用しているカメラの2倍におよぶため、コストを上乗せしてでも需要があるかは、採用する国内の放送局次第となりそうだ。



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