【プロレス】沈んだ新日本プロレスを動かした駐車場の対話 真壁刀義が明かす棚橋弘至との覚悟と再生の瞬間

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2025年11月28日 17:50  webスポルティーバ

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【短期連載】証言・棚橋弘至〜真壁刀義が語る学生プロレス出身の誇り(中編)

 新日本プロレスが沈んでいた時代、たった一度だけ、真壁刀義と棚橋弘至は腹を割って未来を語り合った。その短い会話が、後に新日本を復活へ導く"点火"となる。頼りなかった後輩への苛立ち、化学反応が生まれた若手時代、そしていま真壁の目に映る"新しい棚橋弘至"の姿とは。

【道場の駐車場で交わした覚悟の言葉】

── プロレスの人気が低迷していた頃、プロレスを盛り上げていくためにこうしていこうみたいな、意思の疎通を図るようなことはやっていなかったんですね?

真壁 一度だけあったね。新日本が落ち込んでいた時、たしか道場の大掃除の日だったかな......。たまたま駐車場でオレと棚橋しかいなかった時に、「オレたちで変えていこうよ」って声をかけた。「オレたちで変えていかなかったら新日本の未来はない。言っている意味、わかるよな? かつての両国の第1試合のような闘いをやっていかなかったら、新日本は全部壊れるぜ」って。

── 棚橋選手はどういうリアクションだったんですか?

真壁 「そうですよね」って。そこであいつも火がついたわけですよ。じつは新日本がグワーッと上がっていったのってそこからで、あの時に言わなかったら、たぶんダメだったでしょうね。そこからはもうオレも後輩たちにガンガン喝を入れるようになって、試合前に「おい、てめえら、気合い入れろ、この野郎!」って、さんざん発破をかけて、「しょぼい試合したらわかってんな、この野郎!」って。

── 道場での棚橋選手との会話がきっかけとなり、真壁さん自身も腹を括った。

真壁 その時の発破のかけ方っていうのは本当にひどかったけど、後輩たちも「えー。わかりました......」じゃなく「わかりました! やってやります!」っていう感じで、お互いに背中をガーッと押し合う感じになったんだよな。それで新日本は上がっていった。

 にもかかわらず、コロナがあってそこからまたグワーッと落ち込んじゃった。だから、ここでオレが思っていることは「よし、ここからまた新日本を持ち上げるぞ。さらに燃えさせるぞ」って、陣頭指揮を執れる立場に棚橋を持っていきたいんだよな。

── "代表取締役"という名のとおりに。

真壁 あいつが現役を引退することは決まっているけど、その先も新日本の社員全員、選手全員に気合いを入れることはできるだろって。「棚橋、おまえが内部を変えるんだよ。現場はこれまでどおりオレみたいな鬼軍曹がいっぱいいるから安心しろ。おまえは会社全体を引き締めろ」と思ってる。

【時代にそぐわないからプロレスは面白い】

── 真壁さん自身は、今の新日本をさらに盛り上げるためには何が必要だと考えますか?

真壁 選手のタマは揃ってるから、あとは個々の意識を変えるだけ。オレが一番感じているのは、素直で面白いプロレスっていうのはたしかに今の時代に合っているかもしれない。だけど忘れ去られるのも早い。じゃあ、やっぱりオレと棚橋がやっていたようなケンカですよ。やるべきことは個性の潰し合い。「どっちが上か?」を示すのがプロレスなわけだから。今の新日本の状況というのは、オレと棚橋で化学反応を起こす前と同じなんですよ。そこに気づきさえすれば、あとはまたガーッと上がっていくだけ。

── そういう真壁さんなりのプロレスの思想も、後世まで残していかないといけない部分なんじゃないですか?

真壁 いやあ、オレは引退したとしても棚橋みたいに責任のある役職には就きたくないからなあ。たしかに、こういう思想は選手全員に植えつけ続けなきゃいけないんだけど、オレが上司になったらとことんぶっ飛ばすんで(笑)。

── 今の時代にそぐわないと(笑)。

真壁 そぐわないでしょう。でもね、時代にそぐわないことこそが一番プロレスには大事だと思ってる。だって、プロレスラーって一般社会のまっとうな世界にいられない奴らの集まりなんだよ。一般社会にそぐわない連中が集まっているからすごいプロレスを見せられるわけで。たぶんお客が一番見たいものもそれだから。

 だってアントニオ猪木さんを見てくださいよ。どう考えたっておかしい、ふつうの人じゃない。でも、結局それぐらいの人じゃないと、ああやって時代を動かせなかったんだよ。だからオレはずっと後輩たちに「やったらんかい」って言って発破をかけ続けるんです。ここで棚橋が今の後輩たちのことをどう見て、どう判断して、どうチャンスを与えるかが見ものだな。オレが棚橋に言えることは「オレと一緒に夢を語った時代があっただろ。あの時の化学反応があっただろ。これからも毎世代であれを出していったら間違いないんじゃない?」って。

── ちょっと話は戻りますが、真壁さんが棚橋選手と意識改革をするきっかけとなった会話をしたのは、相手が棚橋さんだったからですか?

真壁 それはあります。だってオレは棚橋のことを、「おまえ、クソやな」って思っていたからね。

── どういう意味ですか?

真壁 ずっと頼りなかったんだよ。一緒に新日本を変えるには頼りなさすぎるから「おまえ、クソやな」と思って、オレなりにあいつに発破をかけたんです。そこであいつが「やりましょうよ!」って返してきたから新日本は助かったんですよ。

【新しい棚橋がデビューした感じがする】

── そうして新日本がふたたび人気を盛り返してきた時、棚橋選手たちの世代の選手たちがたくさんの女性ファンをプロレスの会場に呼び込むことに成功しましたよね。それもそれまでの新日本の歴史においては特殊な、今も続いている現象ですけど。

真壁 そうだね。でも当時のオレは「どうでもいいわ。どうせかっこいいやつ目当てなんだろ?」とずっと思ってた。寄ってはきたけど、去るのも早いんだろって。だけど、いま思えば、女性ファンを会場に集めたのは棚橋の功績だし、そうするためにあいつもいろいろ考えてリングで表現していたというのは理解できる。今振り返るとね。

── 結果、女性ファンたちは今もずっとプロレスを見続けている。

真壁 そこの功績は認めてやらないといけない。ただね、棚橋がすごくいいのは引退が決まってからのここ1年なんだよ。

── 真壁さんの目にはそう映っていますか。

真壁 すごくいい。オレから見て、今のあいつはすげぇ吹っ切れていて、これまでの「どうやったら女にウケるかな......、男にウケるかな......」っていうのを考えていない。今の棚橋弘至そのままを表現すればいいと思っているはず。それは無意識かもしれないけど、その姿は見ていてメチャクチャいいんだよな。

── 最後の最後で、自己中心的にプロレスをやれているというか。

真壁 そうそう。すげえ魅力的だよ。「やっと本当の棚橋が帰ってきたんじゃねぇかな」って思う。いや、新しい棚橋がデビューした感じがするね。たぶん日本全国のプロレスファンの人たちが見ていて、今の棚橋がやるプロレスは一番気持ちいいんじゃないかな?

── ここにきて、NEW棚橋弘至がデビューを果たしたと。

真壁 人間って、売れるまではどうしてもいろんなことを考えちゃう。認められる存在になるまでは、考えすぎちゃって右往左往してもがく。かつての棚橋も、あれだけいい試合をしていながら、あれだけいい身体をしていながら、男性ファンがウェルカムじゃなかった。女ウケしちゃうからこそ男ウケがないっていう。やっぱ男ウケのほうは、オレとかこけし(本間朋晃)みたいな男くせぇバカみたいな奴がいるわけで。

 だけど、そのどっちがいいかと言ったら、やっぱプロレスラーってバカでわがままだから両方なんだよ(笑)。男と女の両方から人気がないと。世間から除外されてるような奴らが集まってプロレスをやってるんだけど、みんなから好かれたいわけ。そのためにリングで頑張っている。だからこそ、オレには今の棚橋がメチャクチャ魅力的。男ウケとか女ウケを意識していない。「これだよ、棚橋は!」って思いながら見てるよ。

つづく>>


真壁刀義(まかべ・とうぎ)/1972年9月29日生まれ。神奈川県出身。96年2月に新日本プロレスの入門テストで合格。97年2月15日、大谷晋二郎戦でデビュー。豪快なファイトスタイルでG1 CLIMAX優勝やIWGPヘビー級王座、NEVER無差別級王座など数々の実績を残す。一方で、テレビ番組でスイーツ好きを披露し人気を獲得。プロレスの枠を超えて知名度を広げ、新日本プロレスの黄金期再興に大きく貢献した。棚橋弘至らとともに激動期を支えた"同志"として、いまなお存在感を放ち続けている

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