
Instagram(インスタグラム)が2025年10月、サービス開始から15周年を迎え、同SNSを運営するMetaの日本法人・Facebook Japanの味澤将宏代表取締役がITmedia ビジネスオンラインの単独インタビューに応じた。
今や「インスタ映え」という言葉があるように、インスタは特に若者にはなくてはならないアプリだ。2020年に始めた短尺動画のリール機能は、インスタの利用時間のうち50%を占めるまで成長した。若者は検索をGoogle(グーグル)ではなくインスタで行うなど利用用途も広がっている。
多くのコンテンツやWebサービスは、ローンチから経た年月の分、ユーザーも年を取り、若者が寄り付かなくなってしまう。しかしこの10年あまり、若者にとって「定番SNS」であり続けているのはなぜなのか。味澤代表に話を聞いた。
●日本の34歳以下「5割以上が利用」 ティーンを離さない仕組みとは?
|
|
|
|
インスタは2010年10月にケヴィン・シストロムとマイク・クリーガーの両氏が創業し、2012年にFacebook(フェイスブック、現Meta)の傘下になった。
その後も成長を続け、10月に開催されたインスタのメディア向けラウンドテーブルでは、月間アクティブアカウント数が30億を達成したという。日本市場では2019年に3300万にのぼり、2025年はさらに成長しているとした。
ポーランドのソーシャルメディア統合管理ツール「NapoleonCat.」によると、2024年4月時点で、日本でのインスタ利用者は5534万800人で、人口の44.4%が利用しているという。男女比は男性が41.6%、女性が58.4%だ。最も多い利用者世代は18〜24歳で、全利用者の約26.9%となっており、そこから1490万人のユーザーがいると推計できる。25〜34歳も24.2%が利用しており、18〜24歳と合計すれば51.1%にも達する計算だ。
野球やサッカーなどスポーツの歴史を見ても、コンテンツの歴史が長くなれば長くなるほど、ファンの年齢層は上がっていく。一方インスタは15年が経過した現在も、依然として若者が使うツールであり続けている。それは、新しい世代の心をつかみ続けているからだ。なぜ可能なのか?
「将来のユーザーでもあるティーンを大事にしているからです。実は上の世代も伸びていますが、上(の世代)が伸びている時に、下を維持するのが大変です。理由は、お父さん(のような世代)が使うアプリは、(子どもの世代は)使いたくないから」と苦笑しながら語った。若者の立場から見れば納得だ。
|
|
|
|
ティーンを大事にするという意味は、単に顧客だから大事にするというだけではないようだ。「ティーンの声を聞きますが、最も重要なのは、安心安全に使ってもらうことです。(ティーンは)まだ社会経験がないので、テクノロジーのリテラシーはある程度あっても、社会的なリテラシーは低いのです。そこをサポートしていくことが肝心です」
●成長の秘密:「検索」と「日本文化」
インスタが成長し続けてこられた理由を、味澤代表は次のように分析する。「日本のユーザーは歴史的に、昔は写メ、今はスマホで写真を撮影してきました。その慣習と、インスタのような写真共有アプリは、文化的にも相性が良かったからです。また、実名のほか、アノニマス(匿名)で登録でき、興味と関心でつながるプラットフォームは日本社会では受け入れられやすいと思います」
さらに検索も理由に挙げた。ユーザーはグーグルで検索をするのではなく、インスタ内の検索機能を使うのだ。「数年前の数字ですが、1人当たりの検索数は、グローバル平均の5倍に達します。興味や関心のあることに対して積極的に探しにいく姿勢が、日本のユーザーは非常に強いです。AIと検索の相性も良く、インスタの検索も高い精度で画像や動画を探し出してくれます」。AIによるおすすめの精度が向上した結果、インスタの利用時間が6%増加したという。
●インスタ自体が「昔のWebサイトの代わりに」
|
|
|
|
前回、味澤代表にインタビューした時も、ショート動画の「リールが伸びている」と話していた。2024年4月時点で、インスタの利用時間のうちリールが占める割合は50%を占めるまでになったという。1日に利用者がリール動画をDMなどでリシェアする回数は2025年1月現在で45億回。インスタで動画を視聴する時間の伸び率は、前年比で20%増(2025年第2四半期)となった。
「日本の特徴は、検索からリールを見ている方が多いことです」と話し、ここでも検索が絡むようだ。「関心のあることを検索し、それに合ったリールが出て、見続ける流れとなります。結果的に、滞在時間が伸びるケースが多いのです」
短尺動画はYouTubeショートやTikTokにもある。違いを聞くと、SNSとして総合力が高いことをアピールした。
「例えば、TikTokはショート動画に特化して楽しむアプリという感じです。インスタにはリールだけではなく、フィード、ストーリーズ、DMなどがあり、人とのつながりを作る機能が含まれます。アカウントの存在自体も重要で、知り合った時にインスタのアカウントを交換したり、ビジネスでもQRコードを載せてコンテンツに誘導したりします。インスタ自体が昔のWebサイトの代わりのようになっていて、他のSNSとは使い方が違うのです」
●メタバースとAI投資の方向性は「ずれていない」
米Metaのマーク・ザッカーバーグCEOは、かつてメタバースに全社的に注力するために社名を「Meta」に変更するほどの強い姿勢を示していた。
しかし味澤代表によると、現在は「MetaはAIに非常に真剣に取り組んでいます」という。
「AGI(汎用人工知能)をスーパーインテリジェンスと呼んでいますが、これに全ベットしている(全力を賭けている)状態です。世界中から優秀な開発者を集めてチームを作り、その開発プロジェクトを立ち上げています」
その後、AIが社会に急速に浸透したことで、Metaは開発の軸足をメタバースからAIへと移したということだ。いまや巨大企業となったMeta。企業の方向性を急旋回できる柔軟性を、まだ持ち合わせているようだ。
ただし、同社の考えは単純なシフトではないようだ。味澤代表は以下のように説明する。
「メタバースとAIは、社内的にはそれほど大きくずれてはいません。その理由としては、メタバースに関してさまざまな取り組みをする中で、例えば、AIを搭載したスマートグラスが予想以上に早く伸びてきていることが挙げられます。AIとスマートグラスは、非常に相性が良いと感じています」
スマートグラスにせよ、リールにせよ、開発の速さの理由はどこにあるのか。
「プロダクトエンジニアリングのリソースがあることに加え、全社的にエクスペリメント(実験、試行)の文化があることです。より良くするために何かを変え、その『うまくいく・いかない』を定量的に分析しながら、開発を進めていくからです」と、まさにアジャイル開発の進め方を強調した。AI活用により、この2年間で開発スピードがさらに加速しているそうだ。
インスタはリールやDMなど多くの機能を増やしてきた。一方で、機能数が多すぎると使いにくくなるという課題もある。
「何を削ぎ落とすかは、製品開発をする上で非常に重要ですが、つらい作業です。メディア向けラウンドテーブルでは話していませんが、実は停止した機能はたくさんあります」。その機能停止の判断基準の一つは、ユーザーの滞在時間、ひいてはエンゲージメントだという。「私たちは(数字を)かなりシビアに見ています」と語った。
●警察と連携 安心安全を強化
愛知県豊明市の市議会では、スマートフォンの利用を1日2時間以内とする全国初の条例が可決された。プラットフォーマーとして、こうした動きをどのように見ているのか。味澤代表は若年層の利用者に対して「繰り返しになりますが、安心安全に使ってもらうことが重要」という点を強調した。
インスタの利用により創造性が高まるなど良い面もあるため、単純に時間で区切るのが適切かどうかは、個人個人のニーズや置かれている状況によって異なるとの見解を示した。同社としては「安心安全に使える機能を実装しつつ、親御さんも含めて一緒に管理をしてもらう方が、利用者のためになる」と考えているという
そのためインスタは、保護者による管理機能であるペアレンタルコントロールを2022年に始めた。2025年1月には、13〜17歳を対象に、保護者の承認なしには変更できない保護機能を組み込んだティーンアカウントを導入。またインスタやFacebook内では、SNSを利用するリスクを啓蒙(けいもう)する広告を表示する取り組みも実施している。
味澤代表は、SNSを悪用した事例を減らすには「Metaだけでは限界があります」と指摘する。プラットフォーマー同士や、警察、金融機関との連携を始めているといい、「今後もしっかり取り組まないと、(悪用事例は)なくならないだろう」と述べ、社会全体での連携強化の必要性を示した。
●若年層の支持獲得と規制への対応 インスタのジレンマ
インスタは幅広い世代に利用されている。そのビジネスの生命線は、インスタの利用がほぼ日常生活の一部となっている若年層の存在だ。次の15年後もティーン層に使ってもらえるかどうかに、インスタの将来がかかっていると言える。
しかし、この若年層の維持には大きな二律背反が伴う。
ティーンアカウントの導入など、安心安全に配慮した機能は、若年層を保護者とひもづけて見守りへとつなげている。一方で、このような規制や保護機能の強化は、自由な利用を求める若者にとってサービスの魅力を低下させる可能性もあり、長期的には収益を圧迫する要因ともなりうるのだ。
安心安全な環境の提供と、サービスの魅力を両立させるというジレンマ。日本法人を統括する味澤代表が、若者からの支持を継続してもらうためにどうバランスを取っていくのか、その手腕が注目される。
(武田信晃、アイティメディア今野大一)
|
|
|
|
|
|
|
|
Copyright(C) 2025 ITmedia Inc. All rights reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。