
台湾有事をめぐる高市総理の発言をきっかけに、日本と中国の緊張関係が続いている。きょう(29日)も予定されていたコンサートやイベントが急きょ中止された。混乱収束の糸口はどこにあるのだろうか。
【写真を見る】「どう考えても存立危機事態になりうる」高市総理(7日・衆院予算委)
「高市発言」の余波 中国でイベント中止相次ぐ日中関係の緊張が続くなか、中国・上海では28日、日本のキャラクターのイベントが行われていた。
ゲームやグッズ販売などを手がけるバンダイナムコが開催した「バンダイナムコフェスティバル」で、中国でも人気のガンダムやドラゴンボールなどの展示が並んでいた。
記者
「平日にもかかわらず、会場には多くのお客さんが来ていて、日本のエンタメ文化がいかに人気かを実感します。日中関係の緊張感は、ここではあまり感じられません」
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来場客
「グッズの購入に3000人民元(約6万5000円)使いました。スラムダンクが一番好きです。子どものころから見ていました」
だが、高市総理の発言以降は、エンタメ業界でも影響が広がっている。
29日に上海で予定されていた歌手の浜崎あゆみさんのコンサートは、主催者の要請を受け、急遽中止になった。
バンダイナムコのイベント会場で行われるはずだった「ももいろクローバーZ」のライブも、主催者が中止を決定した。
訪れた人たちは、日中関係の緊張をどう捉えているのか。
来場客
「中日関係については話せません」
「政治について個人的な意見を言うのは控えます。政府の見解に従います」
政治については口を閉ざす人が多い一方で、「文化は政治と切り離すべきだ」という人もいた。
来場客
「もちろん国家の考えを最優先します。日本のアニメ、漫画、歌などが好きで、いい作品があれば観に行きたいと思っています」
「台湾は中国のものだと信じています。しかし、個人的に好きなものとか、日本に旅行に行くとか、それはあまり問題ないと思います」
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しかし29日になって、3日間の予定だったバンダイナムコのイベントそのものが中止と発表された。主催者は「総合的に考慮した結果」としている。
日本の学生「危機感を覚える」 顔を出して“発言撤回”言えない空気に…山本恵里伽キャスター(26日)
「総理官邸前では学生たちが、日中の平和と対話を求める声を上げています」
26日、大学生らが呼びかけ、都内で集会が開かれた。
集会の主催者
「みんな戦争はしたくないし、平和を維持していきたいということは一致していると思う。私たちはいたずらに対立を煽りたくない」
問題となっている答弁後に、共同通信が実施(11月15日、16日)した世論調査では、高市内閣の支持率が10月から5.5ポイント上昇し、69.9%となった。
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この日、呼びかけに応じて集まった若い世代からは、「周りに高市氏の答弁を支持する人が多い」という声も聞こえた。
なかには「顔を出して取材に応じ、『発言撤回』と訴えるのが怖い」と話す参加者もいた。
集会の参加者
「自由に声を上げることが、今後はできなくなっていったらどうしようと不安に思う気持ちがあった。ここで顔を出したことが後から自分に対する危機に繋がったら不安という気持ちがある。市民が自由に安心して声を上げられる環境を政府に作ってもらえたら」
3Dプリンターを使って「日中友好世界平和」と書かれたバッジを作ったこの女性も…
集会の参加者
「世界平和に連帯するって当たり前だし、顔を出して言えるべきだと思うが、本当にそれが言えない空気になってきていると感じる。インターネットとかだと、強い言葉が飛び交って顕著。『戦争になるかも、なってもいいじゃん』みたいな空気に危機感を覚える。誰を攻撃していいか決めるような政治をもうやめてほしい」
緊張する日中関係。経済面で懸念されるのは、レアアースの輸出規制だ。28日の国会でも…
公明党 西園勝秀 衆院議員(衆・外務委員会)
「レアアースの輸出が止められることも、想定しておかなければならない」
経済産業省 担当者(衆・外務委員会)
「現状、我が国はレアアースの約7割を中国から輸入している」
レアアースとはレアメタルの一種。スマートフォンや自動車のモーターなど、幅広い分野で不可欠な資源だ。
世界のレアアース生産量の約7割(69.2%)という圧倒的なシェアを誇る中国。
野村総研は、中国がレアアースの輸出を3か月間規制した場合、日本の経済損失は6600億円に上ると試算している。(野村総合研究所・木内登英エグゼクティブ・エコノミストの試算)
「レアメタル王」の異名を持つ会社経営者・中村繁夫さん(77)。
約半世紀前からこの資源に注目していた。商社マンとして買い付けのため、世界各国を飛び回る様子を報道特集は密着取材していた。
中村繁夫さん(1986年放送「報道特集」)
「1970年代の石油ショックが、1980年代のレアメタル戦争に移っている」
1998年に中村さんが訪れた中国のレアアース工場の写真もある。中国にはこれまで300回以上訪れてきたという。
中国は2010年、尖閣諸島沖で起きた海上保安庁の巡視船と漁船の衝突事件後、日本へのレアアース輸出を制限した。
今回もこのカードを切る可能性はあるのか。
資源開発会社を経営 中村繁夫さん(77)
「2010年は(中国は)いけいけ、どんどんだった。経済は抜群、あのときは。現在は逆なんですよ、最悪なんです。不動産もバブルが弾けて」
「ただでさえ立場が良くないのに、WTO(世界貿易機関)に呼ばれて、ごちゃごちゃやるのは、(中国は)鬱陶しいなと思ってる」
「刀を出して『切るぞ、切るぞ』と言って、本当に切ってしまったら終わりなんです、ケンカは。『切るぞ切るぞ』と言っているところは、ゲームなんでしょうけれども。中国もバカじゃないからね。(レアアースを)高値で売った方が産業界も助かるでしょう」
中国では、日本人作家の書籍出版に影響が出始めている。
北京出身で、約40年間日本に住む大学教授の毛丹青氏(63)。中国で日本文化を伝える雑誌「知日」を出版したほか、日本人作家の書籍を数多く中国語に翻訳してきた。
ーー毛教授が言っているのは、「親日」でも「反日」でもない「知日」だと。これはどういうことですか?
毛丹青 教授(神戸国際大学)
「日本を好きになったという理由は、自分のためだと思う。結局、日本を知るということは、自分の知恵になる。自分の生活を豊かにするために、相手の文化を知ろうじゃないか」
27日、毛氏が翻訳を手がけた書籍について、中国の出版社から突然こんな連絡が届いた。
毛丹青 教授(神戸国際大学)
「日本の本だからこそ、駄目になったという」
「一番心配しているのは、(中国の)国内で日中関係が微妙になっていて、数多くの日本書籍のコード番号が、要は延期された、トラブルになっていると」
コードが発行されなければ、その書籍は出版できない。コードが発行されていても、早く出版しなければ取り消される恐れがあるという。
ーー日本の出版社も大急ぎで?
「そう、理解ができた」
ーー双方の出版関係者たちが?
「そうそう。日本の担当編集者に、電話でこういう実情を説明した。(電話が)終わっていない段階で『わかった、大至急』と電話を切った」
毛氏はこうした状況でも、日本の書籍を待ち望んでいる中国の読者は少なくないと話す。
毛丹青 教授(神戸国際大学)
「今の状況でも、それが衰えない。これは驚異的なもの」
「海と一緒ですね。波が立ってるでしょ。だけど海の底は穏やか、波なんかない。毎日、日常的に流れていて、だから我々の文化の力は海の底。左右されずに真価を持っていく。栄養力は海底は豊か。関係が悪くなったとしても、文化の力をずっと信じてやってきた。これからも信じ続けたいと思う」
中国側の反発を招いた高市総理の発言は、台湾有事をめぐるものだった。
高市総理(7日)
「台湾を完全に中国政府の支配下に置くようなことのために、どのような手段を使うか」
現在の日中関係の出発点となった1972年の「日中共同声明」も、最大の焦点は台湾だった。
田中角栄総理(1972年当時)
「誰がやっても困難な台湾問題とか難しい問題は、自民党や政府がやり、日中の国交正常化は不可避だというのが、おおよその世論だろ思う」
国交正常化は台湾(中華民国)との断交を意味する。
当時の田中角栄総理の秘書官だった小長啓一氏はこう話す。
小長啓一氏(田中総理の秘書官 1972年当時)
「有力な議員、岸(元総理)さんと福田(元総理)さんは、『行くな』『今行くのは早い』と。台湾に蒋介石総統が健在であると。自民党の内部手続きを踏んでから、結果的に『ノー』となるかもしれない。リスクは全部自分(田中総理)が被るというかたち。それが『世紀の決断』と」
日中共同声明では、「中国は、台湾が中国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する」「日本は、この中国の立場を十分理解し、尊重」などと記された。
中国側に配慮しながら、曖昧な表現で合意した形だ。
日下部正樹キャスター
「“台湾問題を認識しつつ、中国側を刺激しない”ことが大切というのが基本にあったと」
小長啓一氏(田中総理の秘書官 1972年当時)
「日中国交正常化を何としてもやり遂げなきゃいけない。そのために台湾問題が障害になってはいけない。曖昧・抽象的な言葉による解決だったと思います」
国交正常化から50年余り、中国側は今回の高市発言に反発を強めている。
小長氏は、日中共同声明に立ち返った上で、日本側から行動を起こすべきだと訴えた。
小長啓一氏(田中総理の秘書官 1972年当時)
「このまま放っておくと、日中関係がおかしくなっていく。双方、硬直しているままで、新しい展開はなかなか見えてこない。ここで新しい展開を日本側から示していく。高市さんに期待したいですね」
高市発言で問題となっている「存立危機事態」とはそもそも何か。
2015年、当時の安倍政権は反対の声を押し切り、集団的自衛権の一部行使を認める「安保法制」を成立させた。
日本が直接、武力による侵略を受けた場合、自国を守るのが「個別的自衛権」。政府はそれまで、憲法9条のもと、個別的自衛権しか行使できないとしてきた。
一方、「集団的自衛権」では、日本の同盟国などが攻撃された場合でも、反撃が可能となる。
その集団的自衛権を行使できる条件として、極めて限定的に定めたのが「存立危機事態」だ。密接な関係にある他国が武力攻撃され、しかも日本の存立が脅かされ、国民の生命や自由などに明白な危険がある事態というものだ。
安倍総理(2015年当時)
「極めて限定的に集団的自衛権を行使できることといたしました。それでもなお、アメリカの戦争に巻き込まれるのではないか。その不安をお持ちの方に、ここではっきりと申し上げます。そのようなことは絶対にあり得ません」
それから10年、今回問題となっている高市総理の発言は…
高市総理(7日・衆院予算委)
「戦艦を使って、そして武力の行使も伴うものであれば、どう考えても存立危機事態になりうるケースであると私は考えます」
「どう考えても存立危機事態になりうる」との発言に疑問を投げかけるのが、早稲田大学の長谷部恭男教授だ。
長谷部恭男 教授(早稲田大学 憲法学)
「極めて極めて限られた場合にだけ行使できる、集団的自衛権なんだということを踏まえた上でのご発言だったのか。戦艦が出てくれば、たちまちという話でないことは明らかだろう」
長谷部教授は2015年、安保法制に関する憲法審査会で与党側の参考人を務めた。長谷部氏を含め、参考人の憲法学者3人全員が法案を憲法違反と指摘した。
村瀬健介キャスター
「政府による解釈拡大の危険性についても指摘していたかと思うが、今回の事態をどう考えますか」
長谷部恭男 教授(早稲田大学 憲法学)
「集団的自衛権行使を認めるというときの、変更の仕方の理屈があやふやだったというところが、こういうあやふやな形で、行使の可能性が拡大すると、そういうリスクを伴っているということも示しているように思う」
長谷部氏は、拡大解釈の可能性に警鐘を鳴らす。
長谷部恭男 教授(早稲田大学 憲法学)
「軍事行動というのは、一旦開始すると非常に極端な状況へ人々を追い込んでいく、そういう傾向を持っている。国の存亡に関わる重大な問題。よほど慎重に練って練った上で、公式の発言というのはなされるべきものだと思う」
