
スマートフォンが私たちの日常に深く根ざし、そのカメラ機能も日進月歩で進化を遂げる現代。多くの人が「写真はスマホで十分」と感じる中、長年愛用してきたコンパクトデジタルカメラ(通称:コンデジ)が壊れたら、次はどうしようか──。そう漠然とした不安を抱えていた方も少なくないのではないでしょうか。そんな方に、朗報です。
近年、一度は「終わった」とさえいわれたコンデジ市場に、再び活気が戻りつつあります。今回は、そんなコンデジ復権の象徴ともいえるキヤノンの「IXY 650m」を実際に手に取り、その秘められた魅力と、スマホでは味わいにくい「写真の楽しさ」をお届けします。
●「終わった」はずのコンデジが、今再び注目される理由
2010年代前半、スマートフォンの普及とともに、コンパクトデジタルカメラ市場は急速に縮小しました。カメラ映像機器工業会(CIPA)のデータによれば、10年に約1億1000万台を記録したデジタルカメラの出荷台数は、19年には約1500万台まで減少。ピーク時のわずか15%程度まで落ち込みました。
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多くのメーカーがコンデジ市場からの撤退や縮小を余儀なくされる中、「コンデジの時代は終わった」という論調が支配的でした。しかし、20年代に入り、状況は少しずつ変わり始めています。
CIPAの最新データ(2025年9月まで)を見ると、興味深い傾向が読み取れます。注目すべきは、レンズ一体型カメラ(コンデジ)の出荷金額が20年以降、緩やかながらも回復傾向を見せています。台数こそ大きくは増えていないものの、単価の高い高級コンデジや、特定のニーズに応えるモデルが強い支持を受けていることがうかがえます。
この背景にあるのは、まずスマートフォンカメラの進化が、ある意味で“頭打ち”になってきたことです。確かにスマホカメラの画質は向上し続けていますが、20年代に入ってその進化のスピードは緩やかになりました。
このスマホカメラの進化の頑打ちは、逆説的に人々のカメラへの関心を再燃させるきっかけとなりました。「スマホではもう違いが出せない。別のカメラを使ってみよう」。そう考える層が、特にInstagramユーザーを中心に増えたように思います。
さらに、かつてコンデジを使っていた層が、デジカメに戻るという現象も起きています。スマホの便利さに慣れた一方で、“カメラで写真を撮る”という体験の純粋さや、専用機ならではの操作感を懐かしむ声が聞かれるようになったのです。
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そしてSNS全盛の時代だからこそ、誰もが同じようなスマホカメラで撮影している中、“自分らしさ”や“個性”を表現するツールとして、コンデジが再評価されているのかもしれません。
●中古価格の高騰が物語る「需要の復活」
さらに象徴的なのが、コンデジの中古市場における価格の高騰です。新品の生産が終了した人気モデルの中古価格が、当時の定価を上回るケースも珍しくありません。
特に、Instagramを中心としたSNSで「このデジカメがすごい」という感じで撮例とともに紹介されると、そのデジカメにプレミア価格が付くというような状況です。以前、取り上げたキヤノン「PowerShot G7X Mark III」が良い例でしょう。これは、製品の人気もありますが、とにかく需要が回復してきたのに供給が追いついていないという典型的な例です。
問題は、新品で購入できるコンデジの選択肢が極端に少ないことです。多くのメーカーがコンデジ市場から撤退し、現在新品で購入できるモデルは数えるほどしかありません。こうした状況の中、キヤノンが「IXY 650m」をマイナーチェンジして再発売したことは、まさに朗報といえるでしょう。IXY 650mは、新品で手に入る貴重なコンデジとして、市場における重要な存在となっています。
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●持った瞬間に分かるコンデジらしさ
実際にIXY 650mを手に取って感じた第一印象は、「とにかく小さい、そして軽い」という驚きでした。箱の小ささにも驚きましたが、本体を手に取ると、その感覚はさらに強まります。
約146gという質量は、最新のスマホよりも軽く、ポケットや小さなバッグに忍ばせても全く気になりません。この「持っていることを忘れる」ほどの軽快さこそ、コンデジが本来持っていた魅力の一つです。縦型のデザインはホールド感も良く、片手での撮影も実にスムーズ。タッチパネル非搭載という点は、現代のスマホに慣れた身からすると一瞬戸惑うかもしれませんが、物理ボタンによる確実な操作感は、写真を「撮る」という行為に集中させてくれます。
●スマホには真似できない「ぐーんとズーム」という純粋な楽しさ
IXY 650mがスマートフォンのカメラに対して持つ最大の武器、それは何といっても光学12倍ズームです。ハイエンドスマホでは光学望遠対応のものも増えてはいるものの、まだまだ主流とはいえません。スマートフォンのデジタルズームが画像処理の結果であるのに対し、光学ズームはレンズそのものを動かして被写体に迫るため、画質の劣化がほとんどありません。
この「ズームできる」という感覚は、スマホに慣れ切った今となっては、実に懐かしく、そして新鮮です。遠くの看板の文字を読んだり、見えていなかったものが見えるようになる。何気ない日常の風景が、ズーム一つで全く新しい世界に変わる。この感覚は、スマホのカメラでは決して味わうことのできない、純粋な写真の楽しさを再発見させてくれます。なにより、撮影時にデジカメ(のレンズ)が稼働する音とともに手元にぐーんと画像がやってくる感じって、やっぱり楽しいのです。
そして、IXY 650mの小さいボディに搭載されているズームは、光学12倍ズームなのです。実際に撮影した写真で、その威力を見てみましょう。ここ何年も工事が続いている渋谷の駅前、12倍ズームの威力を発揮するには最適な場所です。
このように、光学12倍ズームを使えば、遠くの被写体を大きく引き寄せることができます。一般的なスマホのデジタルズームでは、ここまで鮮明に撮影することはむずかしいです。この「遠くのものを、美しく、大きく撮る」という体験こそが、IXY 650mの最大の魅力なのです。
また、IXY 650mに搭載されている「クリエイティブショット」や「プラスムービーオート」といった機能は、当時はどちらかといえば写真好きが使うマニアックなもの、という印象でした。しかし、SNSが日常となった今、これらの機能は、誰でも簡単に“映える”写真や動画を作ってくれるツールへとその意味合いを変えています。
クリエイティブショットは、シャッターを押すだけで、カメラが自動的に構図や色合いを変えた6種類の画像を作成してくれます。中にははずれっぽいものもありますが、その中からお気に入りの一枚を選んで、すぐにスマートフォンへ転送。データが軽いため転送も驚くほど速く、撮影からSNS投稿までが実にシームレスです。この使い勝手の良さは、まさに今の方がわざわざコンデジを買う人が使うニーズに合致していると言えるでしょう。
もちろん、CanonのスマホアプリCamera Connectも快適に使えます。一度登録してしまえば、次回以降はワンボタンでスマホと接続できるため、撮った写真をすぐにSNSにアップすることができます。
新品のコンデジが市場から姿を消しつつある中で、IXY 650mは「今、新品で買える貴重な選択肢」として、かつてのコンデジユーザーからも注目されるでしょう。手持ちのコンデジが壊れたら、もう妙に高くなってしまった中古品しかないという状況はやっぱり異常だったのです。
IXY 650mはコンデジが本来持つべき「手軽さ」「楽しさ」という原点をそのままマイナーアップデートで復活させたコンデジです。そのため、最先端の技術が盛り込まれているわけではありませんが、価格も抑えられ、コンデジが欲しいと思った人が手に取りやすいカメラとして再登場しました。
“スマホで十分”な時代だからこそ、「スマホでは味わえない体験」に価値が生まれる。IXY 650mは、私たちにカメラの純粋な楽しさを思い出させてくれる、そんな一台となっています。これが普通に買えることのありがたさを復活させたキヤノンにエールを送りたい気持ちです。
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