板垣李光人 こだわりの人、アニメ映画で日本兵演じるためだけに舞台のペリリュー島へ

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2025年11月30日 08:00  日刊スポーツ

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映画「ペリリュー」への意気込みを語る板垣李光人(撮影・中島郁夫)

板垣李光人(23)は、来月5日公開のアニメ映画「ペリリュー−楽園のゲルニカ−」(久慈悟郎監督)で日本兵を演じるためだけに4月に舞台のペリリュー島を訪問した。「演じる上で最低限の誠意、ラインとして必要なもの」と語る向き合いと視点は、3度にわたりパートナーを務めた日本テレビ系「news zero」(月〜木曜午後11時、金曜午後11時30分)でも光る。多才な脳と心への扉を開いた。【村上幸将】


★その場所で得られる何かを求めて


「ペリリュー」は、パラオ諸島のペリリュー島で1944年(昭19)に日本軍と米軍が交戦した史実を元に武田一義氏が描いた漫画が原作だ。4万人もの米軍に対し、日本軍はわずか1万人…持久戦を展開も9月15日から始まった戦いは約2カ月半で終わった。生き残った日本兵は終戦後も洞窟に立てこもり、47年4月22日に武装解除に応じた。


板垣は漫画家志望の才を買われ、仲間の最期の勇姿を遺族に向けて書き記す「功績係」を命じられた21歳の田丸を演じた。アフレコは8月だったが、4月に日本から南へ3000キロ離れたパラオ諸島ペリリュー島を自ら希望して訪問した。


「歴史自体は事実だけども、キャラクターと人物は漫画としてのフィクション。戦争を全く知らない、教科書や漫画、映画の中で見るものと捉えている自分が、戦争を扱う作品に向き合う上で、自己満ですけど実際にその場所で得られる何かを求めて行きました」


パラオからボートに揺られて1時間…ペリリュー島に上陸した。演じた田丸と同じような感情が込み上げた。一方で戦後80年たっても消えない生々しい戦争の傷痕も目の当たりにした。


「田丸が母に宛てた手紙の中で『ここは楽園みたいですよ』と書いたシーンがあります。実際、田丸が思ったように、楽園みたいな空と海の青さだなと思って上陸しました。島民が陽気な音楽を流しながら生活しているんですが、少し踏み入れると、戦争当時の名残を目の当たりにして、戦争を見る視界がクリアになり、演じるに当たっての解像度につながりました」


★現地で実際に見て感じるのは違う


日本軍の陣地を視察し、九五式軽戦車に触り、米軍が44年に最初に上陸したオレンジビーチを見つめた。


「墜落した飛行機や戦車の実物を見ると、乗っていた人や目の前を通った人の鼓動の速さ、呼吸、命を落とした人とか…いろいろな感情が想像できます。資料映像や写真を見るのと、現地に行って実際に見て感じるのとは全然、違う」


ジャングルを歩き、2年半もの間、日本兵が隠れていた、人が1人、入るのもやっとの穴も体験した。


「子供が1人、通れるか通れないかの狭さ。4月で、あの暑さ…うっそうとしたジャングルの中、1日というか数時間入っているだけでも、しんどいだろうなというのは、道中の歩み、気温、湿度で感じられた」


21年のNHK大河ドラマ「青天を衝け」の徳川昭武、23年「どうする家康」の井伊直政など、実在の人物を演じる時は、可能な限り墓参りもする。


「お墓にごあいさつしないまま役と人物と向き合っていいのか、自分と1つにしていいのかと…演じていて気持ち悪いんです」


芥川賞作家・金原ひとみ氏の小説を実写化し公開中の「ミーツ・ザ・ワールド」(松居大悟監督)では、ホストと既婚者役に初挑戦。演じるにあたり、未知のホストクラブを取材。仕事のルーティン、日々の生活、家庭の営みなどを聞き、シャンパンコールも体験した。役作りのために徹底的に取材する裏にあるのは、妥協なき芝居への思いだ。


★「news zero」で養われた取材者の視点


「いくら役作りとか演じるといっても、自分の引き出しの中に当てはまるものがなければ、何も出てこない…空っぽなので。職業、状況とか演じる上で必要最低限の要素を経験したことがない、未知の時にできることが、実際に見たり聞き取りに行き、取材すること。経験することと話をすることでは深みは違いますが、完全に想像だけでやるとウソになってしまう。演じていても気持ち悪いというか、ムズムズするんです」


映画の舞台あいさつやイベントに登壇した際、板垣の目は細やかに動き、全方位を観察する。共演陣の発言、リアクションを受けて、場、空気、タイミングにおいて的確な言葉を発する。取材者の視点は22年12月、24年4〜6月、そして今年4〜9月までパートナーを務めた「news zero」で養われたという。


「見ていますね…お恥ずかしいです。(取材者の視点は)元から若干あったかもしれない。『news zero』の経験で確立された感覚はあります。スタジオで日々、ニュースと向き合うのもそうですが、日本テレビを出て取材に行くこと。なかなか会えない方に会えたり、行けない場所に行けたりはすごく大きい」


報道の取材と役者の芝居に、共通項を見いだす。


「取材する時は、相手や場所の情報を自分の中に入れた上で臨むわけですが、他者と対話している時に、すごく自分とも向き合わなければならない。気付けることがあります。自分と向き合うやり方を、プロセスとして作り上げていけると、映画やドラマ、芝居をする上でも生かされます」


★芝居は何十年先もやっているだろう


カメラの前に立つと、地道に、緻密に準備したものを脱ぎ捨て奔放に演じる。


「このシーンができるかな、みたいなプレッシャーはあるんですけど、現場に入ったらやるしかない、という感じ。(役作りで)普段、ため続けて、カメラの前でバサッとやる。そこで発散し、出し切るサイクルになっていますね。芝居とか役で全部、使うようにして、普段はなるべくためる一方。省エネなんです。テンションが変わらないように…ローなんです」


物心ついた頃から描き始めた絵の才能も発揮している。24年8月公開の映画「ブルーピリオド」(萩原健太郎監督)で天才な画力を持つ高校生を演じるため、撮影3カ月前から絵画を練習。デジタルで描いてきた中、デッサンに初めて取り組み、同9月に初の個展「愛と渇きと。」を開催。6日には作・絵を手がけた絵本「ボクのいろ」(Gakken)を刊行した。ファッションにも造詣が深い。表現者として、どう歩んでいこうと考えているのか?


「基本的に大通りは芝居。もはや好きか否かを問われると、どちらとも言えない。好きという感じでもないし、嫌いではないし。アートだったりファッションは、好きという気持ちがある」


そう口にした後、記者の目をのぞき込むように見た。何かの色を感じたか、さらに思いのたけを語った。


「(芝居は)生活をしている部分と蜜月な関係。好きとか嫌いとか、そういうものでもないので。きっと芝居は何十年先もやっているんだろうと思うので、大きな通りが1本ある中で好きという気持ちを持っているものに、ほどよく寄り道しながら生きていきたい」


25日には「口に関するアンケート」(清水崇監督、26年公開)で、映画に単独初主演することも発表された。光を意味するドイツ語「Licht」から名付けられた名前のように、板垣は世界を明るく照らす、芯を持った光になっていく。


▼映画の共同脚本も務めた原作者の武田一義氏


板垣さんが田丸の候補と聞いて声が一瞬、思い浮かばなくてYouTubeを見た。ナイトルーティンのパン作りの、動画の中の板垣さんが、田丸っぽいなと思い、プロデューサーに「板垣さんで、ぜひお願いします」と。本当になってくれて、すごくうれしかったです。


◆板垣李光人(いたがき・りひと)


2002年(平14)1月28日、山梨県生まれ。2歳でキッズモデルを始め、12年に10歳で俳優デビュー。15年にNHK大河ドラマ「花燃ゆ」に13歳で出演。18年のテレビ朝日系特撮ドラマ「仮面ライダージオウ」のウール役でブレーク。今年1月期のフジテレビ系ドラマ「秘密〜THE TOP SECRET〜」で地上波ゴールデン連ドラ初主演。今年は「ババンババンバンバンパイア」(浜崎慎治監督)はじめ実写、アニメ含め3本の映画が公開。NHK連続テレビ小説「ばけばけ」に雨清水三之丞役で出演中。164センチ、血液型AB。

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