
49歳で大手出版社・小学館を退社し「めちゃコミック」を運営する株式会社アムタスへ転職した豆野文俊氏。豆野氏が中心となり新たな漫画編集部を立ち上げる過程を追ったドキュメンタリーがYouTubeにて公開されている。
2025年11月27日に公開されたのは社内の編集者に対して豆野氏が講義をする様子を収めた動画ー。本稿ではその内容を振り返りたい。
■編集者ができることは作家と面白い漫画を作ることだけ
まず豆野氏が編集者たちに向けて語ったのは「スーパーIP」についてだ。ここでの「IP」とは“知的財産”を指しており、主に漫画のキャラクターや作品そのものを示している。そのうえで「スーパーIP」とは、例えば「ドラえもん」や『ドラゴンボール』といった、アニメ化やグッズ化され大きな利益を生み出すキャラクター・作品を表している。
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豆野氏はじめ「めちゃコミック」の編集者に課せられたミッションは「スーパーIP」をつくること。ただ豆野氏の見立てでは多くの編集者が「スーパーIP」となる漫画を作れるか否かといった不安を覚えているという。過度なプレッシャーから解き放たれるために、講義では「スーパーIP」がつくられる流れを取り上げた。
「スーパーIP」をつくることは、漫画のグッズ化・アニメ化など、メディアミックスが広がっていくなかで達成することができる。ただし豆野氏は「アニメ化・グッズ化は、良い漫画を作った結果として勝手にオファーが来るもの。編集者がコントロールできるのは、作家と面白い漫画を作ることだけ」と話す。
もちろん過度な性的表現がある場合など、作品の要素がメディアミックスに影響を与えることもあるだろう。ただ「グッズ化しよう」と思っても漫画の制作側ができることは非常に少なく、まずは「作家と面白い漫画を作る部分だけを目指そう」と豆野氏は語る。
では面白い漫画を作ることに注力しつつ、漫画をヒットさせるためにはどんなことが大切か。豆野氏が挙げたのは「仕込み」の部分。「仕込みは地味だけどヒット編集者は泥臭くやっている」と前置きしたうえで「地上戦(書店営業)」「空中戦(SNSをはじめとするメディア)」「ゲリラ戦(企業・有名人とのコラボ)」の3つを提示した。
たとえば単行本の発売日にはニュース(話題性)を作る。単行本が発売されたという情報がインターネットの海に埋もれてしまえば、読者は単行本が売っていることさえ知り得ないためだ。
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ニュースの具体例として「作家のインタビュー記事が公開される」、はたまた「近所のとある居酒屋とコラボメニューを作る」といった些細なことでも構わないという。何か1つでもニュースがあれば、作家も編集者もSNSで告知ができる。「(編集者が)ニュースを仕込むことが、担当作家への義理」と豆野氏は話す。
■作家の味方は担当編集者しかいない
講義の終盤、豆野氏は「創作において作家の味方は誰か?」と問いかける。その答えとして「(担当)編集者しかいない」と言葉を続けた。
作家は原則、個人事業主として活動をすることとなる。そんな作家に対して、作家と合意しながら作品を作った編集者が「(作家の作品は)編集長がボツだと言った」「会社がこう言っている」と伝えれば、その瞬間に構造は「大きな組織(大人数)vs.作家(1人)」の構造となり、作家は孤独になる。
たとえ編集長と戦うことになろうとも「私はこう思う」と主語を自分にして語り、なぜ作品(アイデア)が没になったのか編集者が納得するまで話せば、編集者が納得した言葉を作家にも届けることができる。逆に言えば漫画家が没になったことを説得できる言葉がないまま、編集者が編集長から引き下がることは御法度だ。
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もしも作家が「白いカラスがいた」と言えば「白いカラスなんているはずない」と口を開くのではなく、まずは「本当ですか、一緒に探しに行きましょう」と作家の話に乗っかること。そんな姿勢こそが作家に寄り添うことだと豆野氏は説く。ちなみに現代にも白いカラスは稀にいるらしい。
「『お客さんはこんな作品を求めていない』という言い方は1番NG。編集者が1人の読者であるのはよい、でも読者代表ではない。『私はこう思います』はよい、『読者がそう思わない』という言い方はNG。
『市場でこういう動きをしていますが、私はこう思います』はよいと思う。『市場=私』というしゃべり方をしない。『私は1人の編集者で、あなた(作家)を伴走する人だ』という意識を忘れてはいけない」(豆野氏)
「めちゃコミック」で新しい編集部を立ち上げ、漫画オーディション「めちゃコン」主宰する豆野氏。他のドキュメンタリーも含め、豆野氏が繰り返し口にするのは「仲間を増やしたい」という言葉だ。編集者が作家に寄り添う必要性について「(編集者が)作家さんに寄り添えるようになると、編集部も良い空気になる。作家さんからも『あの編集部、良い編集部だよ』と(いう空気に)なれば、作家さんも集まってくる」と話した。
今回のドキュメンタリーは豆野氏が発足した編集部のメンバー第1号となる元「週刊SPA!」副編集長の牧野早菜生氏が入社する直前に撮影されたものだ。「仲間が入ってくるって良いよね、超ワクワクする(中略)良い編集者が集まれば(尾田栄一郎『ONE PIECE』になぞらえ)海賊王になれますから」と豆野氏。
「ちゃんと漫画業界に恩返しして(自分が)死ねるな。日本の漫画文化が次の世代につながって、残っていけばいいですよね。そこまで行きたいな」と話す豆野氏の姿が映され、動画は幕引きを迎えた。現在「めちゃコミック」では編集者の募集とともに「めちゃコン」も開催中。豆野氏が舵を切る船は今日も大海原を進む。
(文=あんどうまこと)
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