
オランダの半導体メーカー、ネクスペリアは中国企業の子会社となっていたが、今年になってオランダ経済省が経済安全保障の観点から経営権を掌握。これを受けて、中国政府は同社が中国国内で製造した製品の輸出を一時禁止した
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「中国」について。
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「あっちは世間体があるみたいよ」。2025年11月下旬。私と会食していた半導体製造装置メーカーの幹部は「中国出張をやめた」と教えてくれた。
高市早苗首相は、中国が台湾を攻撃した際に米国が被害を受ければ存立危機事態に当たると述べた(あくまで大意)。その国会答弁を受け、中国共産党政府が対日強硬になったため出張を断念したのだ。
日中の民間会議や出張が次々と止まった。プロジェクトは遅延し、企業間のやりとりにも支障が出ているようだ。
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同メーカー幹部は高市発言に批判的というよりも、どこか淡々としていた。「中国側の担当者は『たいしたことないんじゃねえの』といっているけれど、雰囲気として日本人出張者を受け入れるわけにはいかない」のだそうだ。
とはいえ、日本で観光業、交通・宿泊・飲食に関わる方々は、中国人旅行者がいっせいにキャンセルするダメージはかなり大きい。インバウンドの相当な割合を中国ならびに香港が占めており、売上高の減少は避けられない。中国政府の狙ったとおりだろう。
BtoBも同様だ。これは高市発言の影響ではないものの、たとえば日産自動車やトヨタ自動車、ホンダはネクスペリアの中国工場からパワー半導体が出荷されず生産に支障をきたした。
三菱重工業はミサイルの生産に不可欠な中国産レアアースの調達について中国政府から脅かされ右往左往している。日本サプライチェーンのチョークポイント(急所)を衝(つ)く狙いは完全に的中している。コマツも中国の不動産不況に端を発した需要蒸発に見舞われ、グローバル売上を大きく落とした。
ただし、今回ばかりは日本側関係者の考えが変わった。
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私の造語だが、カーボン・ニュートラルならぬ「チャイナ・ニュートラル」とでもいうべき動きだ。
二酸化炭素の排出をゼロにはできない=「中国との取引は現実的にゼロにはできない」、しかし、できるだけ二酸化炭素を吸収していこう=「対中国と同額レベルの取引を他国とも創出しよう」、とする覚悟が広がっている。
もっと砕けていうなら「もう、さすがに騒ぎを起こしすぎでしょ」と、中国抜きのオルタナティブな調達網を日本企業各社が志向している。
言葉が不適切だが、日本企業は中国を"メンヘラな相手"と位置づけはじめている。何が起きるか不明で、依存すると危ない、と。数年前に「チャイナ・プラス・ワン」なるフレーズがあったが、いまは「チャイナ・プラス・メニー」。
日米欧企業は経済安全保障リスクをクリアするよう、特定国に依存しない調達網を模索している。もうメンヘラ相手に生活を破壊されるのはゴメンだよ、と。
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ところで、私は小学生のころに観たフジテレビ系列番組『テレビ寺子屋』が忘れられない。
講師が誰かは忘れたが、「親は電車で子供を騒がせてはいけない。周りの乗客は指摘こそしないが、その子に『このクソ野郎が!』と思う。そんな怨念を集める子供が幸福な人生を歩むはずがない」といっていた。
衝撃を受けた。なるほど、騒いではいけないのは自分のためなのだ。
中長期的には今回の騒ぎが中国の没落のはじまりになるように私には見える。カーボン・ネガティブならぬ「チャイナ・ネガティブ」にならないことを隣国として願うばかりだ。
写真/時事通信社
