
「ナチス収容所のような」という形容は不可能だと収容所経験者は言うそうだ。匹敵するような地獄はどこにもないからだという。その想像を絶する場所で出会った男女の70年を描いたノンフィクション、『アウシュヴィッツの恋人たち』(ケレン・ブランクフェルド・東京創元社、税込み3850円)が発売された。
ツィッピこと、ヘレン・ジポラは23歳で、ダヴィド・ヴィスニアは16歳でそれぞれ強制収容所に移送された。大切な人を理不尽な形で失いながらも懸命に生きる二人。ツィッピはグラフィックデザイナーを、ダヴィドはオペラ歌手を目指したその腕前を生かして周囲の人と助け合い、時にしたたかに振る舞いながら極限の環境をなんとか生き延びる。
何度も死の危機をくぐり抜けた二人は恋に落ち、命がけの逢瀬(おうせ)を重ねる。ユダヤ人であるツィッピやダヴィドを取り巻く環境が悪化の一途をたどる緊迫感、強制収容所の筆舌に尽くしがたい残酷な状況、その中を生きる人々の恐怖と絶望、そして希望。歴史的な大虐殺の真実が、胸に迫る臨場感で描かれている。
貴重な写真や図版、さらに歴史的な用語を丁寧に解説・翻訳している点も、読者が事実を理解する助けになる。
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