
鄭大世解説! プレミアリーグのFWたち 前編
今季のプレミアリーグの注目のひとつは、移籍金100億円超で新チームにやってきたストライカーたちのプレーだ。ハイレベルなリーグのなかではたして期待どおりの活躍ができているのか。人気解説者の鄭大世氏にチェックしてもらった。(データは第13節終了時)
【動画】プレミアリーグFW診断100億超えのストライカーたちの出来を鄭大世がズバリ解説! ↓↓↓
【明暗分かれるリバプールのふたり】
アレクサンデル・イサク(リバプール)
移籍金:1億2500万ポンド/約256億円
プレミアリーグ成績:6試合1ゴール1アシスト
アレクサンデル・イサクはリバプールの「ラストピース」にもなり得る存在と期待していたのですが、現時点ではあまりうまくいっていない印象です。
|
|
|
|
イサクの強みは、ボックス内でクロスを合わせる動きのうまさだと思います。周りに生かされることで能力を発揮する、少し前の時代の9番タイプの選手ですね。
チームへの適応という点では、周囲を生かすことが得意ではないプレースタイルも相まって、チームのチャンスメイクやビルドアップをあまり助けられていません。
ゴール前のプレーについてですが、前所属のニューカッスルでは、正確な右足のクロスが武器の右ウイング(WG)ジェイコブ・マーフィーとの相性がよかったです。彼が相手GKとDFの間に入れる鋭いボールに対して、イサクは強引にでも合わせていました。
ただ、リバプールでは、これは他のチームにも言えるのですが、今は両サイドハーフに逆足の選手(右サイドに左利きなど)を置いている。これがトレンドにもなっています。FWはクロスを上げる選手に対して"磁石"のように連動した動きをする必要があって、縦突破からクロスが来る場合はゴール前に入りますが、カットインをしてくるとファーサイドに逃げる必要が生まれます。
そうなると、FWはWGのカットインシュートのこぼれしかシュートチャンスがなくなります。これだとイサクがクロスに合わせられる特長は出しにくいです。でも、リバプールには、すでに絶対的なWGがいるから、その選手たちにイサクに合わせる動きをさせるわけにはいかないですよね。
|
|
|
|
今後、途中出場からでも得点を取って自信を得て、周りもイサクの生かし方が理解できるようになったら、徐々に適応してくるのではないでしょうか。
ウーゴ・エキティケ(リバプール)
移籍金:7900万ポンド/162億円
プレミアリーグ成績:12試合3ゴール2アシスト
ウーゴ・エキティケは、リバプールに加入してからすでに進化したように見えます。
適応に苦労しているイサクとの違いは、同じ9番タイプの選手でありながらも、より周りの選手を生かすことができている点です。潤滑油のようにチーム全体を機能させつつ、最終的には自分でもゴールを決めることができるクオリティがあります。
「チームを機能させる」部分にフォーカスすると、エキティケは逆足サイドハーフとの絡み方を知っている上に、ゴールを絶対に狙うというエゴが少ない分、最終ラインに張りついていないことが大きいです。
|
|
|
|
最終ラインの手前でボールを受け、縦パスが入ったところで周りのDFが食いついたその裏をモハメド・サラーやコーディ・ガクポが狙うことができます。エキティケ自身も一度ボールをはたいてからゴール前に進入して、連係で崩すシーンを描けているので、WGに強力なキャラクターを置くリバプールのカラーに合っているように見えます。
チームとして縦パスが入らないとパスは守備ブロックの外回しになるので、相手からすると怖さは減ります。仮に押し込んだとしても、WGは逆足の選手なのでプレーの選択肢も限られてきます。
そのためにも縦パスを増やすことが重要です。エキティケはその受け方とチェックの動きでライン間に入ってボールを受けるのがうまいので、周りも動きやすいです。
【チームの形に合ったFWとは?】
ベンヤミン・シェシュコ(マンチェスター・ユナイテッド)
移籍金:7480万ポンド/約153億円
プレミアリーグ成績:11試合2ゴール1アシスト
ベンヤミン・シェシュコは、現代的な9番タイプの選手だと思います。身体能力の高さはもちろん、裏抜けを繰り返すことで相手のDFラインを下げて、プレッシングでもスイッチを入れる役割が得意です。
ただ、マンチェスター・ユナイテッドが彼を獲得することは"時期尚早"だと思っていました。直近ではラスムス・ホイルンドやジョシュア・ザークツィーも活躍することができておらず、この環境で結果を残すことは至難の業です。
チームとして多くのゴールを決める選手を必要としていた状況で、ライプツィヒ時代も得点を量産していないシェシュコがチームを勝たせるだけのクオリティがあるのかは、獲得前から疑念を抱いていました。
直近はチームとして勝てる試合も増えてきましたが、シェシュコ自身にはそこまで高いポイントはあげられないと思います。
それでも今のメンバーであれば、ブライアン・エンベウモとマテウス・クーニャのふたりのシャドーにストライカーのシェシュコの組み合わせが一番強烈だと感じています。
シャドーの2選手がライン間でボールを受けて前向きの状況を作り、裏へのボールを出す回数を増やすことができれば、シェシュコの持ち味はさらに引き出されるかもしれません。
現状ワントップで併用されているクーニャは、足下でボールを受けるのが好きなタイプなので、状況によっての使い分けもできると思います。
ニック・ヴォルデマーデ(ニューカッスル・ユナイテッド)
移籍金:6900万ポンド/141億円
プレミアリーグ成績:10試合5ゴール0アシスト
ニック・ヴォルデマーデは、アレクサンデル・イサクが退団した穴を見事なまでに埋めています。
ただ、両者があまりに違うタイプであることから、不安を感じたファンも多かったと思います。
実際にヴォルデマーデはイサクとの比較ではスピードがないので、シンプルな裏抜けやゴール前の細かい動きで相手を剥がすプレーには差がありますね。
それでも加入直後から結果を残すことができているのは、ニューカッスルが「1トップを生かすことに長けているチーム」だということです。右には順足で精度の高いクロスが武器のジェイコブ・マーフィーがいて、左にも積極的に仕掛けることができる選手がいます。
一般的な長身FWはボックス内で足を止めがちですが、ヴォルデマーデは足を動かし続けて相手と駆け引きができるのが特長です。真ん中での崩しでも、連係の部分でも、3人目の動きに絡めるクリエイティブな要素も兼ね備えています。
シュートのミートのうまさも魅力で、回転やバウンドが難しいボールでも正確に鋭いシュートを打てる技術があります。クロスへの入り方も上背があるから有利です。
ニューカッスルというFWが生きやすい恵まれた環境に加え、ヴォルデマーデ自身のクオリティの掛け算の結果が今の好成績につながっていると思います。
【戦術にハマる選手、ハマらない選手】
ヴィクトル・ギェケレシュ(アーセナル)
移籍金:5500万ポンド/112億円
プレミアリーグ成績:11試合4ゴール0アシスト
長らくアーセナルは、1トップが弱点と言われていました。ヴィクトル・ギェケレシュは昨季50ゴール以上を決めた実績を引っ提げ、チーム念願の9番タイプのストライカーとしてチームに迎え入れられたと思います。
ただ、僕自身は、そのポジションに得点を決めることに長けたFWを置いたところで同じような現象が起こると思っていました。アーセナルはリバプールと同じく逆足WGを配置しているので、FWの選手からすると点を取るのは難しいです。
それでもギェケレシュは何度かネットを揺らしましたが、チームの機能性が向上しているとは言えないと思います。
その理由としては、裏ばかりに要求して足下への縦パスを受けたがらない傾向にあるからです。
真ん中でも楔のパスを受けられる選手がいたら他の選手が生きてきます。チームとしてはカイ・ハヴァーツやミケル・メリーノのように、周りを生かすことができる偽9番の選手がいたほうが機能すると思います。
今のアーセナルは、ギョケレシュが覚醒して得点を奪う回数に比べて、機能していない時間があまりにも長すぎるのが弱点です。
勝てている時期は問題ないですが、外回しや裏狙いばかりになるとチームの攻撃は単調になり、陣形も間延びするリスクがあります。
メリーノ起用時に機能している様子を見ると、ハヴァーツが戻ってくれば、ギェケレシュと併用になると予想しています。
ジョアン・ペドロ(チェルシー)
移籍金:6000万ポンド/123億円
プレミアリーグ成績:13試合4ゴール3アシスト
クラブW杯優勝に大きく貢献(大会途中に加入)したジョアン・ペドロは、旧来の9番タイプでもネオ9番タイプでもなく、何にも属さない独自のストライカー像がある選手ですね。
自分自身の得点の取り方を知っている選手で、ゴールを決めるセンスを軸に、パスやドリブルなど他の能力も目立ちます。決して大柄ではないですが頭でのゴールも多く、クロスへの入り方もうまいです。
チェルシー加入直後から相性のよさを見せるコール・パーマーとのコンビネーションについては、ジョアン・ペドロが足下でボールを受けるプレーが好きなことが要因のひとつに挙げられると思います。
パーマーのようなパス&ゴーを狙う選手にとっては、楔を収めてくれる選手のほうが自分も生きやすいです。
チェルシーへの適応の早さは驚きでした。型にハメられると持ち味を発揮しづらい選手だと思うので、組織として完成されているチームでは適応が難しいと予想していました。
今のチェルシーは個が入り乱れている上に、エンツォ・マレスカ監督もジョアン・ペドロにはわりと自由を与えていると推測しています。
>>後編「鄭大世が注目するプレミアリーグのベテランストライカーたち」へつづく
