トライアルGO、都内初出店 コンビニではない“真の競争相手”とは

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2025年12月02日 08:20  ITmedia ビジネスオンライン

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都内に出店したトライアルGO

 全国に展開している福岡発のディスカウントストア大手「トライアルホールディングス」(以下、トライアルHD)が、2025年11月に東京都内に小型スーパー「トライアルGO」を初出店したことが話題となった。


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 コンビニサイズながらもスーパーのような品ぞろえで、生鮮品も売られている。まいばすけっと(以下、まいばす)のライバルともいわれ、「新たなコンビニキラーが都内に参入」などと報じられていたが、関東の消費者の中にはトライアルについて詳しく知らない方も多いだろう。


 トライアルHDは東証グロース上場企業ではあるが、2024年3月上場したばかりの新顔だ。その名前を聞いたことがある人の大半は、2025年3月にファンドから西友を買収するという報道で知ったのではないだろうか。


 そんな注目の集まるトライアルHDだが、本稿ではその現状を見つつ、急速な出店拡大の背景について探っていきたい。


●地方を中心に店舗を拡大してきたトライアル


 トライアルHDを知るには、その事業計画に関する資料を見るのが良いだろう。


 図表1は、トライアルHDの店舗展開と、西友買収後の小売業界における位置付けに関する同社資料の抜粋だ。トライアルは、九州や北海道など、地方の主要幹線道路沿いを中心に、食品や生活雑貨、衣料品などの生活必需品を低価格で提供する大型店スーパーセンターを展開。売上7000億円以上にまで成長した企業だ。


 こう表現すると、イオンやイトーヨーカ堂などの総合スーパーとの違いが分かりづらいかもしれない。一言で言えば、DIYや園芸などを除くホームセンターと、食品スーパーを合わせたような品ぞろえで、生活必需品が集まる店だ。手頃な価格の商品が豊富なディスカウントストアであるため、消費者から支持され、着実に成長してきた。


 ただ、この品ぞろえを担保するには、ホームセンターのような4000〜5000平方メートルほどの売場面積が必要となるため、都市部ではなかなか出店できないという課題があった。


 特に首都圏となると、薄利多売で採算がとれるレベルの、賃料が安くて広い出店場所が少ない。そのため、これまでトライアルの店舗は少なかった。


 そこで、首都圏を中心に、売上5000億円弱の店舗網を持つ西友を買収し、その存在感を一気に拡大させたのである。そして業界内での位置付けも、売上単純合算で1.2兆円、小売業界6位へと浮上した。


●西友の買収、真の狙いは?


 有数の小売チェーンとなったトライアルだが、その狙いは西友の買収で完了ではない。


 実はかつて、世界最大の小売企業である米ウォルマートが、日本市場攻略のために西友を買収し、経営改善に努めたものの実現せず、ファンドに売却して事実上撤退している。その後ファンドによって売上は4800億円まで回復し、収益面も大幅に改善したが、これはあくまでも売却を視野に入れたコスト最適化の範囲にとどまり、次の成長を生む土台にはならなかった。そのため、トライアルが持続的な成長戦略を示せなければ、今回の買収は単なる財務改善で終わってしまうだろう。


 トライアルHDはこうした事情を踏まえて西友の買収を踏み込んでおり、西友を活用した新たな成長戦略を描いている。それが、西友の店舗網を活用したトライアルGOの首都圏での展開強化だ。


 図表2は、トライアルが公表しているトライアルGOによる首都圏攻略作戦のイメージ図である。この戦略の中核をなすのは、西友の既存店を活用した商品供給と、テクノロジー活用による低コストの実現にある。トライアルGOを西友の既存店のサテライトと位置付け、母店である西友の既存店から生鮮や総菜などを高頻度で配送することで、バックヤードのない小型店でも、高鮮度でできたての食品を提供する。


 日本では、スーパーの生鮮品や総菜は店舗内のバックヤードで小分けにし、パック詰めすることが基本とされてきた。しかし、サテライト供給によって、バックヤードのない小さい店でも同じことが実現できるようになった。


 この発想は、まいばすと同じだ。ただ、まいばすを運営するイオングループは、首都圏に加工センターやセントラルキッチンを構築しており、そこから供給している点が異なる。トライアルがサテライトを採用したのは、首都圏にイオンのような加工センターがないためだ。そこで、西友の既存の店舗網を活用し、できるだけ早期にイオンに追い付こうとしているのである。


●まいばすやトライアルGOの出店で、打撃を受けるのは?


 こうした供給手法が首都圏人口密集地において有効であることは、まいばすの成功が証明している。


 図表3はまいばすの公式Webサイトに掲載されている成長の軌跡であるが、この約10年間で、約1000億円から3000億円弱へと拡大している。これまで首都圏中心部で、このようなスピードで拡大したチェーンは他にないだろう。


 まいばすの成功は、バックヤードのないコンビニサイズの店舗でも、商品の供給体制を確立できれば都心部においても店舗を増やし、急成長できることを示している。


 トライアルはやや異なるモデルではあるが、バックヤードのない小型店を、テクノロジーの活用によって低コストで出店していくことを目指している。


 こう聞くと、「二番煎じで、本当にまいばすに勝てるのか」「コンビニのシェアを奪うことは本当に可能なのか」と疑問に思う方もいるだろう。


 しかし、このトライアルGOの店舗展開は、ライバルとの勝ち負けやシェアの奪い合いといった単純な話ではない。


 確かに、まいばすやトライアルGOが、近くのコンビニから弁当や総菜の需要を一定量奪うことは事実だ。ただ、まいばすとトライアルGOは家庭での調理を前提とした食材を扱う小型のスーパーであり、すぐに食べられる商品を求める客が訪れるコンビニとは役割が異なる。


 そもそも、スーパーで68円で売っているペットボトル飲料を、コンビニで150円払って買うのは、「時間がない」といった何らかの事情があってのことである。


 そのため、近所にこうした豊富な品ぞろえと手頃な価格のミニスーパーが増えた場合、主に影響を受けるのは、中小零細スーパーや商店街なのである。


 まいばすやトライアルGOがなぜ東京23区内中心に展開しているのかを考えてみると、その答えはすぐに分かる。23区内には、中小零細事業者のシェアがいまだに多く残っているからだ。大手チェーンであるイオンやトライアルHDの目には、23区内が成長余力のある市場として映っているのである。


●首都圏の小売りの構図が大きく変わる可能性


 実際、まいばすの店舗配置図(図表4)を見ると、東京23区や川崎、横浜に集中していることが分かる。


 ここで経済産業省統計「経済センサス」小売業調査(令和3年)のデータから、都道府県別、政令都市別の、食品販売店の規模ごとの販売額を示した図表5と図表6を見てみたい。


 都道府県別では、小規模店舗の生き残り率が高いのは3大都市圏、札幌、福岡である。さらに政令都市で市場規模(青い部分)が大きいのは、東京23区、川崎、横浜という連続した地域だ。


 つまり、まいばすは小規模店が生き残っている地域を狙って出店しているのである。


 都市部で小規模店が生き残っているのは、これまで不動産コストや空き地の関係で、中大型スーパーの密度が低かったエリアであるためだ。そこに、小型店とはいえ大手のチェーンインフラに支えられた店舗が多数展開されれば、中小零細資本は今まで以上に厳しい競争環境にさらされる。これは他の地域で小規模店が存在感を失っている事実を見れば明らかだ。


 また、まいばすやトライアルGOが成功することで、コンビニを含めた大手食品小売チェーンが、同様の小型店モデルを首都圏や京阪神に投入してくるだろう。まいばすの平均店舗売上は2.4億円であり、損益分岐は2億円ほどとみられる。そのため、一旦出店したら、大規模店舗のように閉店することは考えにくく、しぶとく生き残る可能性が高い。


 まいばすやトライアルGOのような都市型小型スーパーの拡大は、中小零細小売業の最後の生息地であった首都圏、京阪神の流通の勢力図を大きく変えるきっかけとなるだろう。


筆者プロフィール:中井彰人(なかい あきひと)


みずほ銀行産業調査部・流通アナリスト12年間の後、独立。地域流通「愛」を貫き、全国各地への出張の日々を経て、モータリゼーションと業態盛衰の関連性に注目した独自の流通理論に到達。執筆、講演活動:ITmediaビジネスオンラインほか、月刊連載6本以上、TV等マスコミ出演多数。


主な著書:「小売ビジネス」(2025年 クロスメディア・パブリッシング社)、「図解即戦力 小売業界」(2021年 技術評論社)。東洋経済オンラインアワード2023(ニューウエイヴ賞)受賞。



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