
業界内での出店競争が激しくなるほど、1店舗当たりの収益は縮小していくのが市場の常だ。それを打ち破っているのが、沖縄エリアでコンビニエンスストアのファミリーマートを展開する「沖縄ファミリーマート」(那覇市、以下「沖縄ファミマ」)である。
【セブン進出から6年】沖縄はなぜファミマが強い? 全国3位の激戦区で「V字回復」を実現した独自戦略
同社はファミリーマートと沖縄県で百貨店などを運営するリウボウグループの共同出資会社で、1987年に誕生した。沖縄県でファミリーマート店舗の運営と店舗拡大を担うエリアフランチャイズ本部という位置付けであるため、独自にさまざまな施策を展開しやすい特徴がある。
2019年7月、国内コンビニチェーン最大手のセブン-イレブンが“最後の空白地”として沖縄に進出した。ファミリーマートとローソンの2強時代から一気に競争環境が熾烈さを増し、同年6月時点で全国45位だった人口10万人当たりのコンビニ数は、2025年3月時点で全国3位にまで跳ね上がった。
競合の激化とコロナ禍で沖縄ファミマの売上高は一時落ち込みを見せたが、その後V字回復を果たし、2024年度には過去最高の826億円を記録。これまでは2019年度の807億円が最高値だった。2025年度の6月までの累計で、1店舗当たりの平均日商もファミリーマートの全国平均より10万円ほど高い69万円。かつてない高水準を更新している。店舗数はセブン進出前から変わらず、県内トップのままだ。
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乱世に突入したこの6年余り、沖縄ファミマはどのようにして競争力を高めてきたのか。キーワードは「地域ド密着」と「betterの連続」。経営戦略本部長を務める岸本国也取締役に話を聞いた。
●「奇をてらったことはやっていない」
「当時はちょっと強がった発言をしていた気はしますけど、緊張感はありましたよね」――岸本氏は、セブンが沖縄に進出した6年前をそう振り返る。
それも当然だ。当時はコロナ禍前夜で、沖縄の入域観光客数は2019年に初めて暦年で1000万人を突破。全国45位の密度だったとはいえ、消費人口の増加に合わせて店舗数が徐々に増え、ローソンとの競争は年々激しさを増していた。そこに国内最大手が加われば、客が分散するのは目に見えている。
実際、2社の牙城に割って入ったセブンは独自戦略の「ドミナント(高密度集中出店)方式」を沖縄でも徹底し、2025年10月に早々と県内200店に到達。2位のローソン(2025年2月末現在で263店舗)を猛追する。石垣島、宮古島、久米島、伊江島と離島にも出店するファミリーマートは337店舗。結果、セブン進出前に全体で550店ほどだった沖縄のコンビニ数は、現在約800店にまで急増した。
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そんなシビアな局面でも成長を続けた沖縄ファミマは、何か特別な対策を打ったのか。答えは「奇をてらったことは特にやっていません」(岸本氏)。
どんな業界にも言えることだが、劇的に変化する経営環境を乗り切るウルトラCはそうそう無い。岸本氏は「私たちは地元の方に何度も利用してもらうことが一番重要です。出店場所の選定、商品開発、イベントの質をさらに深めていきました」と淡々と説明する。
もともと強みにしていた地域密着の独自路線をさらに進化させるべく、2023年からは「地域ド密着」というパンチの効いたスローガンを打ち出す。「ファミンチュ」(沖縄ファミマを愛する人たちを示す造語)を増やすため、店舗と利用客の間にある“二つの距離”をさらに縮めていった。
●98%の地元出身者が支える「良い立地」の肌感覚
一つ目の距離は、言わずもがな「物理的距離」の近さだ。人々の日常に溶け込んだコンビニの経営にとって、より多くの人の生活圏に近いことは正義と言っても過言ではない。
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沖縄ファミマにおける出店マップを見ると、人口が集中する本島中南部を中心に離島も含めて満遍なくネットワークが張り巡らされていることが分かる。ただ、同社は店舗数の多さや出店スピードを優先事項に置いているわけではない。岸本氏は「店舗開発で一番重要なのは精度です」と言い切る。
例えば、ある場所に既存店があり、それなりの水準の日商を記録しているとする。それでも、100メートルほど先により良い立地が空いたなら、家賃が上がっても移転する。いわゆる「ビルド&スクラップ」を繰り返しながら、最適なポジションを追求してきた。
地域ド密着という言葉通り、ここでいう「良い立地」も地域目線で模索する。
沖縄は全国で唯一鉄軌道が無い県であり、極度の車依存社会だ。那覇市と浦添市をまたぐ沖縄都市モノレールはあるが、一路線のみ。いわゆる「駅前文化」は極めて薄い。そのため、那覇市のオフィス街にある店舗以外はほぼ車での来店客がメインとなる。
とはいえ、出店場所は単に交通量が多い場所を選べばいいわけではない。店舗前の道路の向きや交通の流れ、バスレーンの有無、車のスピード感など、敷地選びは「地元の人にしか分からない肌感覚」まで踏まえた上での判断だという。約200人の社員を擁する沖縄ファミマの地元出身者の比率は、実に98%。生活者としての実感を持ったスタッフが出店判断に関わることが、精度の高い出店戦略を支えているのだ。
以前からこの方針を貫いてきたことは、高い競争力を維持している要因の一つだろう。岸本氏も「一番立地というのは割と奥が深い。良い立地に見えても、コンビニ的に見ると良くないことも多い。私たちは先行企業なので、良い立地を押さえているのは大きいです」と自負を見せる。
●「心理的距離」を縮める独自開発商品 中食売上高の約5割
もう一つの距離は「心理的距離」。これを縮めているのが沖縄県民の舌に合う商品づくりだ。
沖縄のファミリーマートの中食(弁当・おにぎり・総菜など)コーナーを見れば一目瞭然。ポーク玉子おむすびやタコス巻、沖縄そばといった地域限定商品が並ぶ。さらに見た目は全国共通商品に見えても、できる限り県民になじみ深い味わいに仕立てている。
例えば、ざるそばのつゆであれば、県民に親しみのあるカツオだしが強めだ。中食の売上高の約5割は、何かしらの形で沖縄独自に開発した商品が占めるという。
特に近年は、県内で大きな市場を持つ沖縄そばのリニューアルに力を入れ、具材や量に合わせて178〜680円の4種類のラインアップをそろえる。岸本氏は「麺も含めて取り引きするデイリーメーカーで作っています。沖縄そばは一昨年くらいから改良に力を入れ始め、かなりのレベルまできたと思います」と自信の深さをうかがわせる。
沖縄そば自体は観光客からの需要も高い。ただ、専門店は日中の営業がメイン。原材料高で一杯1000円前後の店も増えてきた。岸本氏は「夜に開いている沖縄そば屋は意外と少ないし、値段も高くなってきた中、私たちは沖縄そばの市場の一部になりたいと思っています。地元の方たちに人気になれば、観光客にもウケると思っています」と客層の広がりを見据える。
こういった独自商品の開発過程で重要なのが、「betterの連続」という考え方だ。
沖縄そばの改良もしかりだが、同社は人気商品であっても頻繁に改良を加える。ポーク玉子おむすび一つとっても、ポークの厚みを1ミリ単位で調整したり、ツナや卵焼きとのバランスを変更したりしてきた。単年では大きな違いは分からずとも、10年スパンなど長期で比較すると大きく進化しているという。
その他にも、マシンを使ったセルフの挽きたてコーヒーの味の濃度や、中食で使う米の硬さなども議論を繰り返し、沖縄仕様を追究してきた。
岸本氏はこういった味の改良について、その過程をオープンに話す。競合が激しくなる中、他社に真似されるリスクはないのだろうか。直接聞いてみると、メーカーなど取引先と共同で商品開発をする「チームマーチャンダイジング」の体制に自信があるゆえのことなのだと言う。
「デイリーメーカーとの長い歴史があって、今の体制があります。特に原価が高くなりがちな地区開発の商品は、原材料や製造工程、利益をいかに残すかなど、デイリーメーカーとの深い信頼関係を基に細かい調整を重ねることが必要です。私の話を聞いたとしても、そう簡単にできるものではないと思っています」
メーカー側の利益を確保しながら、満足のいく味や消費者の手頃感も両立させる。各社と議論を重ねてバランスを探り続けることで、沖縄ならではの商品群が生み出してきたのだ。
●自治体コラボにも注力「互いにメリットがある」
「心理的距離」を縮小する上では、県内企業とのコラボレーション企画や地域貢献活動も効果が大きい。協賛する男子プロバスケットボール「Bリーグ」の琉球ゴールデンキングスとのコラボ店を2カ所展開したり、県民のソウルフードとも言える「沖縄天ぷら」が人気の上間沖縄天ぷら店の商品を販売したりと、取り組みは多彩だ。
中でも近年注力するのは、2023年の那覇市を皮切りにスタートさせた自治体やその地域の地場企業と連携したコラボ企画である。2024年には沖縄市、2025年にはうるま市と立て続けにタイアップしている。各自治体にある名店、名産品を活用した商品を多数開発し、県内全店舗で一斉販売する。うるま市編では、もずくや闘牛モチーフの商品など20アイテム以上を開発した。
自治体側にとっては、その市町村に行かなければ出合えない味や店を県内全域で発信できるメリットがある。さらに収益の一部は子ども支援活動の費用として自治体に寄付され、期間中は元トップアスリートを招いた授業「夢の教室」を市内小学校で開催するなど関連企画は多い。
地域貢献の色合いが強い企業活動は赤字覚悟なことも少なくないが、沖縄ファミマ側もプロジェクトを通じて毎回利益が確保できているという。岸本氏は「私たちには『沖縄を元気にする』というミッションがあるので、自治体を盛り上げる企画には力を入れています。お互いにメリットがあるからこそ続けられるプロジェクトだと思います」と評価する。
沖縄ファミマは、さまざまな角度から「地域ド密着」を深掘りしている。地元の自治体やプロスポーツチームを応援したい、ファミリーマートに行けば慣れ親しんだ味がある、入りやすい場所に店舗がある……。心理的、物理的距離を縮めることで、「ホッとする」「ワクワクする」といった情緒的価値を積み重ね、結果的にファミンチュが増えていくという循環を作り出しているのだ。
本記事では、全国3位のコンビニ激戦区で躍進を続ける沖縄ファミマの強さの源泉を紹介した。後編では、同社の成長を支える上で欠かせない要素の一つである「人材と組織のあり方」を深堀りしていく。
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