画像提供:マイナビニュース 吉田カバンは11月14日〜16日の3日間限定・事前予約制にて、創業90周年を記念した展覧会「Every day is a new beginning」を開催した。創業者の吉田吉蔵にゆかりのある貴重なアイテムや道具が並んだ本展覧会。残念ながら会場に足を運べなかった吉田カバンファンのために、イベントの模様をレポートしたい。
映画の小道具や非売品モデルも展示
会場となったのは、登録有形文化財にも指定される九段ハウス(東京都千代田区九段北1-15-9)だ。
1927年に建築された館内は、スパニッシュ様式のデザインをベースに、畳や障子など日本的な要素が巧みに取り入れられ、和と洋が高次元で共存。また、庭と館を立体的につなぐことで、四季を肌で感じられる独特の空間を作り出している。
「Every day is a new beginning」では、そんな九段ハウスの特色を生かしながら、館内全体で吉田カバンを体験できるインスタレーション空間を構築した。
1階フロアは、創業者である吉田吉蔵(以下、吉蔵)にまつわるアイテムや道具が多く展示され、吉田カバンの歴史の重みが感じられる構成となる。
最初の1室には、展覧会のコンセプトを示した特大パネルが登場。パネル横では1993年に撮影された吉蔵がトランクケースやコインケースなどを手縫いする様子を収めた映像「一針入魂」が放映された。
吉蔵の動画はほとんど残っていないため、本展覧会でカバン作りを行う吉蔵の姿をはじめて見たという人も多かったのではないだろうか。
続く廊下には、ファン垂涎の吉蔵ゆかりのアイテムや道具を展示。そのひとつが「針山と馬蹄形コインケース」だ。
針山は吉蔵が晩年まで使っていたもの。また、2本の針と糸で縫いあげる馬蹄形コインケースは吉蔵が最も得意にしたアイテムであることから、吉田カバンのものづくりの原点と言えるコレクションだ。
他にも「赤屋根の鞄」「イタリア留学のための鞄」「天国と地獄」のタイトルで、3つのカバンが展示されていた。
廊下を抜けた1室にも、吉蔵愛用の道具類や製作したアイテムなどが壁面にずらりと並ぶ。
吉蔵愛用の道具類をよく見ると、カバンづくりで使用される金具類の保管に、食卓から出る空き瓶が使われていることが確認できる。カバン職人としての意外な一面が垣間見えた瞬間だった。
1階フロアの最後に登場したのがリヤカーだ。
吉蔵は戦後、製作したカバンをこのリヤカーに積んで、自ら手売りして歩いたという。
○最新タンカーのこだわりポイントを解説するエリアも
2階フロアは、吉田カバンのものづくりの真髄が体験できる構成だ。
最初の1室は、かつて吉田カバンが製作したアーカイブを中心にディスプレイ。このうちの一つ、後期高度経済成長期に普及した"団地"という居住スタイルに合わせてデザインされた「エレガントバッグ」は、ファスナーの開閉によってカバンのマチ幅を自在に拡張できるカバン。限られたスペースの中でコンパクトに収納できると、当時大ヒットとなった。現在では一般的に用いられるこの機能だが、最初に開発したのは吉蔵だった。
異例のロングセラーアイテムであるタンカーにまつわる展示も2つ用意された。ひとつは普遍的な素材や佇まいはそのままに、アップデートされた新たな40型の紹介エリアだ。
例えば、新40型のスライダーは、先端を隆起させてつまみやすくするとともに、ファスナーの開閉がスムーズになるように設計。また、塗装も色が剥がれ落ちないように6度も塗り重ねられている。
随所に散りばめられた吉田カバンのこだわりがまじまじと確認できるとあって、このエリアを見終える頃には誰もがタンカー博士気分になっていたはずだ。
もうひとつが、タンカーに使用されるバイオベースナイロンに関わる展示だ。
TANKERに使われるナイロンはトウモロコシとヒマから誕生した100%植物由来のナイロンで、細くてしなやかな素材でありながら、十分な強度と耐久性を兼ね備えていることが特徴。量産化が困難とされる夢の素材だったが、「ALL NEW TANKER」プロジェクトで世界初の量産化を実現した。
トウモロコシとヒマがナイロン素材に生まれ変わることはなかなか想像しづらいだけに、興味深い展示だったといえる。
他にも会場には、未公開の90周年アイテムや2026年春夏アイテムの展示など、見どころ満載。吉田カバンファンにとっては大満足の展覧会となったに違いない。
フォトギャラリー(吉田カバン提供)(安藤康之)