「中山美穂は映画女優です」「本当に独特な雰囲気を持つ」『Love Letter』岩井俊二監督×『東京日和』竹中直人監督が初対談

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2025年12月02日 13:30  cinemacafe.net

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史上初対談!岩井俊二監督『Love Letter』×竹中直人監督『東京日和』
岩井俊二監督の長編映画デビュー作『Love Letter』(97)の4Kリマスター版と、竹中直人が主演・監督を務めた『東京日和』(97)のデジタルリマスター版という故・中山美穂さん主演の代表作2本が12月3日(水)にBlu-ray&DVDで同時発売。これを記念し、岩井監督と竹中監督の史上初となる対談が行われた。

『Love Letter』は亡きフィアンセに送った、届くはずのない1通のラヴレターが、2つの恋を浮き彫りにしていくというピュアなラブストーリー。中山さんが一人二役を演じ、ブルーリボン賞、報知映画賞ほか数多くの主演女優賞を受賞した。

第19回日本アカデミー賞でも優秀作品賞などを受賞した本作は、20か国以上の国と地域で公開され、1999年に韓国で初公開された際には140万人を超える動員を記録。韓国では公開当時「お元気ですか?」が流行語となり、現在も絶大な支持を獲得している。

また、『東京日和』は写真集出版の準備を進める写真家が回想する、亡き妻との日々を綴った純愛ドラマで、写真家の荒木経惟と彼の亡き妻・陽子の写真&エッセイ集をベースにした物語。

主演も兼ねた竹中監督が、主人公の島津巳喜男役を演じ、中山さんが妻のヨーコ役を演じた。本作では、夫婦の悲喜こもごもが、東京の様々な風景をバックに生き生きと描かれる。

岩井俊二×竹中直人、お互いの映画を観た感想は?
――まずは、お互いの映画を観られた感想から聞かせてください。

竹中:『Love Letter』は公開当時に観て、本当に感動しました。今日、岩井監督と初めて対談させていただくことになり、改めて観直してみて、もう1つ思い出したことがあります。当時、日本映画はほとんどビスタサイズで撮られていたけど、『Love Letter』はシネマスコープで撮っていた!と、30年前にも感動したことを思い出しました!

本当に素敵な映画で、中山美穂さんがあまりにも美しかったし、酒井美紀さんもとても素敵でした。『Love Letter』を観た後、酒井さんと何かのお仕事で一緒になって、『Love Letter』の美樹さん、すごく良かったです!と話したことも覚えています。ただ、『東京日和』に美穂ちゃんをキャスティングした時に『Love Letter』が良かったとは言えなかった気がします。あまりにも素晴らしい映画でしたから…。

――岩井監督からも『東京日和』についての感想をいただけますか?

岩井:本当に素晴らしい映画でした。美穂ちゃんを公私ともに知っている側からすると、彼女にとてもふさわしいキャスティングだったかと。あのヨーコの一風変わったところや、意表を突くところなど、美穂ちゃんに一番演じてほしい役柄でした。また、夫婦の純愛物語をあんなふうにのっぴきならないところまでを描き、純愛を貫くなんて。2人の関係性が非常にピュアなところまでたどり着いているところがすごいと思いました。

最後は、柳川を2人で散歩するだけで、映画が進行していきますが、そういう境地にまでたどりつけるなんて非常に稀有なことです。夫婦の純愛ラブストーリーを実現した、奇跡のような映画だなと思いました。僕は大好きな映画です。

映画女優・中山美穂の魅力とは?
――では、中山さんの映画女優としての一番の魅力についてもお2人にお聞きしたいです。

竹中:美穂ちゃんは、何とも言えない危うさがあります。でもそれはご本人が発しているエネルギーなんだとも思います。美穂ちゃんご自身の魅力がスクリーンに反映される、反射するという感じかですね。だから撮る側もちょっと危なっかしい気持ちになりながら見守る感じです。『東京日和』の役がそうだったという訳ではなく、美穂ちゃん自身がどこ揺らいでいるような空気感があって、それがたまらないのです。安定を望まず揺らぐ美しさとでも言うのでしょうか…。35ミリフィルムの世界に合うようなイメージです。撮影初日からそう感じた印象があります。

だから、「ここで泣いてほしい」なんて、余計なこと言っちゃダメなんです。ぼくはあるシーンでそんな事を言ってしまった。最低な演出家だなと、深く後悔しました。それでも美穂ちゃんは、想像していた以上に応えてくれました。とてつもない魅力のある人です。当たり前のことですが、ただただ見つめているだけでそのシーンが持ってしまう。「はい、カット」と言いたくない。ずっと長回しでいいのです。彼女は映画女優です。とてつもなく深く淡いエネルギーを持っていらっしゃった。

――確かに映画女優という言葉がしっくり来ます。

竹中:そういえば、こんなこともありました。ある日、日活の撮影所でセット撮影をしていたとき、ライティングの準備でかなり時間がかかってしまって。美穂ちゃんを3時間以上待たせてしまったんです。あまりに申し訳なくて美穂ちゃんの楽屋を訪ねたんです。「時間がかかってごめんね」って。すると美穂ちゃんが「全然大丈夫です」と言ってくれて。

でもね、美穂ちゃんの楽屋に…なんと!壁いっぱいにクリスチャン・スレーターの写真をたくさんコラージュしてあったんです。待っている時間に作業したんでしょうね。日活撮影所のひとつの楽屋は2週間くらい美穂ちゃん専用の楽屋でしたからね。ぼくはびっくりして、「うわ!クリスチャン・スレーターだ!」と言ったら「はい!大好きなんです!」ってすごくうれしそうにこたえてくれて。本当に可愛かったです。

『東京日和』では、美穂ちゃんの少女の部分と、すごく大人の部分…そして、さらに変わっていく何かにつながっていくようなギリギリのところにいたんじゃないでしょうか…分かりにくい表現でごめんなさい。でもそれが、柳川という場所に行ったとき、美穂ちゃんが圧倒的に違う空気を見せてくれたんです。極端に言ってしまえば脱皮したというか、また新たな中山美穂が現れたというのかな…それはぼくにとってすごい体験でした。

監督を務めたときにしか観ることの出来ない表情の変化を僕は見ることができました。今は“女優”という言葉を使っちゃいけないんだけれど、やはり“映画女優”という言葉だけは活かしてほしいと思います。女優です。女優と言う言葉はとってもロマンチックです。

――岩井監督からも中山さんの魅力をいただけますか?

岩井:『東京日和』を拝見したとき、きっと本番中と、カットがかかった後の素の本人とのギャップが少なかったんじゃないのかなと勝手に思いました。美穂ちゃんって、本当にあそこに出てくるヨーコみたいな雰囲気の人だったので。ヨーコの奇行とはまた別の話ですが、雰囲気や竹中さん演じる旦那さんとの距離感、職場での居場所を見ても、ああ、美穂ちゃん本人も本当にこうだったよなと、自然に思えました。

日常的にも、本当に独特な雰囲気を持つ人で、人との距離感の取り方もああいうふうでした。芸能活動自体についても、おそらく本人の中でも噛み合っているような、噛み合ってないようなところがあり、どこかこうしっくりきてなかった面もあったのではないかと。でも逆に、そこがまた彼女の独自の魅力になっていたんです。

彼女は、すごくなりたくて芸能人になって「今すごく幸せです!」とは言い難いところにいた気がします。実際に、自己同一性みたいなところで逡巡されているようなところも、僕はお見かけしていました。女優や、タレント、歌手だったりする人生を目指す多くの人にとっての彼女は、ある種、人生の夢を手に入れた人だと思いますが、かなり早い段階でそこに行ってしまった彼女は、そのこと自体が人生となり、じゃあこれからどう生きたらいいんだろうということに直結していったんじゃないかなと、僕は思っていました。

2人がいま明かす、それぞれのオープニング秘話
――2作品ともオープニングがとても素敵ですが、オープニングについてのこだわりがありましたか。

竹中:オープニングの映像はすでに頭の中にありました。誰もいないベランダに洗濯物を干している美穂ちゃんが現れて、カメラに近づきながらその姿が消えて洗濯物の白いシーツだけが揺れている。そこに『東京日和』とタイトルが縦に入る。最初から決めていました。

僕は自分で映画を撮るとき、いつもオープニングとエンディングのイメージは最初から浮かびます。今回もオープニングは、美穂ちゃんが洗濯物を干しているところから始めて、エンディングは美穂ちゃんが古い駅舎のホームを走る。それだけは決まっていました。あとはもう、ただただ美穂ちゃんを見つめるということしか考えてなかった。35ミリカメラの横で美穂ちゃんを見つめて「本番、ヨーイ、ハイ!」と言うだけでした。美穂ちゃんを見つめているだけで充分でした。

――岩井監督はいかがでしょうか?

岩井:『Love Letter』のタイトルで思い出されるのは、あの頃、洋画では小さいタイトルがすごく流行っていたことです。僕はデヴィット・フィンチャー監督が大好きですが、『セブン』(95)や『ゾディアック』(07)がめちゃくちゃ小さく入っていたんです。それがかっこいいと思ったので、僕も真似た記憶があります。日本では、まだあまり小さいタイトルの映画はないなと思い、そこを目指してみたというか、そのぐらいのアイディアでやっていました。

――最初に登場する、中山美穂さんの横顔の表情がとても美しいです。

岩井:そういえば、この間、自分の絵コンテを改めて見てみたら、オープニングで手を当てて、泣いているような仕草が入っていたんです。おそらく、美穂ちゃんもそれを見て、やっていると思いますが、結果的にああいう感じになりました。僕はそのとき、クレーンの上に乗っかっていたのですが、実は高所恐怖症で、集中できていなかったと思うんです。もしも集中していたら、竹中さんと一緒で「そこ、泣いてみようか」と言っていたかもしれない(笑)。

出来上がりを見たら、綺麗に仕上がっていたので、本当に良かったなと思いました。でも、全部、美穂ちゃんに委ねてやっていたようなところがあったので、僕もあまり細かいことは言ってなかったです。

撮影:近藤誠司

竹中直人監督
ヘアメイク:和田しづか

岩井俊二監督
ヘアメイク:林摩規子


『Love Letter 4Kリマスター』は12月3日(水)より4KリマスターBlu-ray&DVD発売
発売元:フジテレビジョン 販売元:キングレコード

●オリジナル・サウンドトラックCD同時発売 2,750円(税抜価格2,500円)




『東京日和 デジタルリマスター』は12月3日(水)よりBlu-ray&DVD発売 

発売元:フジテレビジョン/バーニングプロダクション 販売元:キングレコード



●Blu-ray&DVD発売記念トークショー付き特別上映開催
日時:12月3日(水)19時〜
会場:池袋HUMAXシネマズ
ゲスト:竹中直人、大貫妙子 ※入場者プレゼントあり



(シネマカフェ編集部)

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