
訪問介護の現場なんですが、85歳の男性を介護しているのは78歳の女性です。深刻な人手不足に陥っている介護事業者ですが、去年、倒産件数が過去最多に達しました。「限界が近い」、そんな声も聞こえてきます。
【データを見る】介護職員数の推移、2023年度に初めて減少に転じた
「やりがいのある仕事」78歳ヘルパーが85歳男性を介護この道の向こうに、待っている人たちがいます。
――きょうは何件?
訪問介護ヘルパー 佐藤はじめさん(78)
「きょうは5件。疲れますよ。でも台所することが好きだからね。苦にならんです」
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人口の4割が65歳以上の島根県・雲南市。この日、78歳の訪問介護ヘルパー・佐藤さんが訪れたのは、85歳の男性の自宅です。
訪問介護ヘルパー 佐藤さん(78)
「魚かお肉ありますか?」
利用者(85)
「あー、魚。ちょっと冷蔵庫開けます」
男性は1人暮らしで、週に2回、訪問介護を利用。主に料理や掃除などをお願いしているそうです。
利用者(85)
「いいですよ。話もできるし。掃除したり食べもの作ってくれたり、助かっています」
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佐藤さんが働く介護サービスの事業所は、ヘルパーが18人いて、そのうち4人が70代。80代の人も働いているといいます。
訪問介護ヘルパー 佐藤さん(78)
「(勤務時間は)午前7時半から午後6時くらい。多い時はね。来てくれるのを待っておられるので、やりがいのある仕事」
【介護職員数】
2022年:215.4万人
2023年:212.6万人
※厚生労働省より
高齢化が進む中、介護職員の数は2023年度、初めて減少に転じました。
チャット・ケアすずらん 板持眞一代表(74)
「(原因は)僕はもう端的に言えば、賃金の低さかなと思っている」
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介護職の2024年の平均賃金は、月約30万円。これは、すべての産業の平均より約8万円低い金額です。
また、主な収入源である介護報酬は、国が原則、3年に1回改定するため、事業者が値上げすることもできず、昨今の物価高に対応できていません。事業者の経営も厳しさを増しています。
例えば、ガソリン代。車で山間部を1日70キロ移動する日もあり、経営の重荷となっています。
――なるべく安い日に入れる?
訪問介護ヘルパー 毛利知子さん(67)
「それは思いますね」
さらに、訪問介護の報酬は、サービスの回数などに応じて支払われるため、移動時間の長い山間部では利益を上げにくいのです。
介護事業者の倒産 過去最多「限界に近づいてくる」チャット・ケアすずらん 板持代表(74)
「事業利益は令和5年(2023)度も、6年度もマイナス。赤字というのが実態。構造的に収益が少ない中で、だんだん限界に近づいてくるかなという感じがする」
【「老人福祉・介護事業」の倒産件数】
2022年:143件
2024年:172件(過去最多)
※東京商工リサーチ調べ
2024年の介護事業者の倒産は172件で過去最多。「ヘルパーを確保できない」のが要因の1つです。
相次ぐ倒産が、サービスを続ける介護事業者をさらに苦しめます。
島根県・江津市の訪問介護事業所では、別の事業者が撤退したため、残された利用者の介護を請け負っています。
ヘルパーステーション 合歓の郷 管理者 花吉俊明さん(56)
「ヘルパーさんたちがどんどん減ってる。閉鎖しますとか、もういないので『来てください』とか」
この日、ヘルパーが向かったのは、撤退した事業者を利用していた女性です。
訪問介護ヘルパー 杉井友子さん(74)
「できたかな?」
利用者(78)
「こうしておけばいい?」
訪問介護ヘルパー 杉井さん(74)
「広げましょう」
利用者にとってヘルパーは、なくてはならない存在です。
――ヘルパーが人手不足で来られないと?
利用者(78)
「困ります、こっちは」
訪問介護ヘルパー 杉井さん(74)
「困る?」
利用者(78)
「そりゃあ困るよ。頭がぼけるよ」
ヘルパーステーション 合歓の郷 管理者 花吉さん(56)
「3年…、5年後。いま働いていただいているヘルパーさんが何人残っているか。なかなか、10年後なんかは想像がしにくい」
藤森祥平キャスター:
悲痛な声の数々が、訪問介護の現場から聞こえてきました。
厚労省は、2025年度の補正予算案に約2.3兆円を計上しています。その中で介護分野などの支援として3281億円。そして介護職員への賃上げということで、月額で最大1万9000円(12月〜2026年5月)を盛り込むことが決められています。
取材をした事業者からは…
訪問介護事業者「チャット・ケアすずらん」板持眞一代表
「ないよりはいいが、他の産業とはまだ大きな格差がある。この金額では結局、人手不足の解消にならないのではないか」
介護職の平均賃金は、他の産業に比べて約8万円低いという現実をしっかり受け止めなければいけません。
