岩橋代表の犬への思いは深い
楽しく生産性を高められる職場があれば、それがなによりでしょう。そんな環境で働きたい!
ありました、そういう職場が。株式会社バイオフィリアが手掛ける獣医師監修の手づくりドッグフード「ココグルメ」のXアカウント(@CoCoGourmet_dog)は、2025年5月にある画像を投稿。これが見事にバズりました。
オフィスで他の社員が真面目な会話をしているのに、その横でひざまずきながらワンちゃんにかぶさり“犬吸い”(犬のもふもふした体に顔をうずめながら、思い切りにおいを吸う行為)している一人の男性。実は彼、同社代表の岩橋洸太さんなんです。
つまり、こういうことをしてもいい会社ということ。業務中に犬吸いしてもいいし、それ以前に「愛犬との同伴出社OK」という社内ルールが設けられているのです。
なぜ、そのようなルールになったのか? 犬とともに仕事することで生まれるメリットは? 犬にかまけて仕事できなくならないか? ……などなど、気になることについて広報の松村すばるさんから話を聞きました。
◆「人と犬が一緒に暮らしやすい社会」をオフィスで体現している
――なぜ、ワンちゃんとの同伴出社が認められるようになったのでしょうか?
松村:そもそもは、代表の岩橋がめちゃくちゃ動物が好きで。Xはご覧になりましたか?
――柴犬に犬吸いしている岩橋代表のポストですね(笑)。
松村:はい。ずっとあんな感じなので、周りの社員はもう誰も気にしていないんですけど(笑)。あそこで犬吸いしていた岩橋が「動物のために」という思いで、この会社を立ち上げました。
岩橋が一緒に暮らしていたワンちゃんはもう亡くなってしまったのですが、まだ彼が会社に務めていたサラリーマン時代、自分が出社すると家でお留守番するわんこがすごく寂しがったり、本当はもっと一緒にいたいものの仕事に行かなければならなかったり、彼の実体験として「もっと一緒にいたいのに」という思いがあったんです。だから、「自分が会社を立ち上げたら一緒に犬を連れてこれて、一緒に働けて、ずっと飼い主さんと一緒にいられる環境をつくりたい」といういち飼い主としての想いを持っていました。
もう一つは、ワンちゃんも一緒に出社できるようなオフィスって少ないですよね? 今、人間がワンちゃんと一緒にお出かけできる機会は増えてきているのですが、かといって海外みたいに電車やバスへケージなしで乗ったり、ショッピングモールで一緒にお買い物はできない現状があります。ですが、当社は「人と動物がともに幸せに生きる社会」を目指して事業に取り組んでいるので、まずは自分たちがその環境をオフィス内で実践し、ロールモデルになっていきたいという目標のもとでやっています。
――御社のオフィスのような光景を広く一般的なものにしたいということですね。
松村:はい、こういう働き方をする企業さんが増えてほしいんです。実際、資生堂グローバルイノベーションセンターといった企業さん、さらには老人ホームのスタッフさんがオフィス見学にいらっしゃったこともあります。
こんなふうにちょっとずつ広がっていけば、社会はちょっとずつ変わっていくかなと思っています。
◆同伴出社した「社員犬」に任せている仕事とは?
――オフィスでは一日に何匹くらいのワンちゃんがいますか?
松村:多いときは8匹くらい来る日もありますが、平均すると2〜3匹くらいです。今は夏で暑いため……愛犬の健康を考えて連れてこない社員もいるので、少なめですね(笑)。こんなふうに同伴出社してくるワンちゃんたちのことを、私たちは「社員犬」と呼んでいます。
――「社員犬」ということは、実際に社員として仕事もしているんですか?
松村:とても活躍してくれています。まず、新商品や改良した商品を私たちと一緒に試食してもらって「食べっぷりはどうか?」「A、B、C、Dのどれが1番好きそうか?」など、おいしさのチェックをしてもらいます。
――そうか、人間とワンちゃんだと好みが違いますもんね。
松村:そうなんです。結局、私たちではなくわんこがおいしく食べてくれるごはんをつくっているので、そういった試食に協力してもらったり。
あとは、チラシやポスターなどの広告、ホームページ、いろいろな媒体でモデルになってもらっています。
――モデル事務所のワンちゃんではなく、社員犬が出演しているんですね。
松村:たとえば、2023年の「いぬの日」(11月1日)の時期、渋谷ハチ公前の改札を出たすぐの場所に大型広告を掲載しました。
――ああ、これ見たことあるかも!
松村:この広告は結構話題になりました。ごはんに駆け寄る、ほとんどぶれてて姿が見えないワンちゃんは弊社の社員犬です(笑)。
――ぶれてるということは、ごはんが待ち遠しいから駆け寄ってきているんですね(笑)。
松村:はい、ごはんを前にすると全然待てない子です(笑)。“お座りしたままごはんに前進してくるワンちゃん”の映像って見たことありますか? 一時期、話題になって『月曜から夜ふかし』(日本テレビ)に出たり、SNSでバズったこともあったのですが、実はウチの社員犬です。こんな感じでモデルをやってもらったり、いろんな仕事をしてもらっています。
◆オフィスのなかにドッグランがある
――オフィス内の様子をXにアップするようになったきっかけを教えてください。
松村:「会社としてこういうことをやってます」とアピールしたかったというより、シンプルにウチのわんこたちが可愛すぎたので自然に投稿を始めていました(笑)。
もともとは、社内のSlackに「社員犬チャンネル」「社員猫チャンネル」というのがあったんです。自分の家で撮った可愛い写真を上げたり、オフィスに出社した際にみんなで撮った写真や動画をただ共有するだけのチャンネルなんですが(笑)。そんなふうに常日頃から社内でシェアしているものをXでも発信するようになったという流れです。
――Xを見るとよくわかりますが、オフィス内にワンちゃん用の設備がいろいろありますね。
松村:はい。まず、その日出社したワンちゃんの体格に合わせて調整できる可動式ドッグランを設置しています。社員犬の飼い主は、ドッグラン横のデスクで仕事ができます。
◆会議室の名前は動物の名前をモチーフに
オフィス内には基本的にわんこがNGなスペースはないです。だから、会議室に一緒に連れていくのもOK。会議室の名前は「CAMEL(ラクダ)」「SHEEP(羊)」など、人とともに暮らす動物の名前をモチーフにしました。
――膝にワンちゃんを乗せたり、抱っこしながら会議ができるんですか?
松村:はい、そういうのもOKになっています。
で、弊社のオフィスはビルの2階に位置しているのですが、この2階だけ「ペットフレンドリーフロア」といって動物がOKな物件なんです。ただ、動線は分かれていて、わんこ連れだけ使用できる専用階段がビルにはあります。
もちろんエレベーターを使ってもいいですが、その場合はちゃんとキャリーに入れないといけない。抱っこできないほど大きいわんこを運ぶためのキャリーもビルのほうで用意してくださったのですが、ほとんどの社員は専用階段を使っています。
◆犬と仕事することで生じるメリットは大きい
――ワンちゃんと共に仕事することで生じるメリットを教えてください。
松村:まず、社員犬がいてくれることで社内がすごく明るくなります。これは、結構大事なことかなと思っています。
――そうですよね、仕事をしているとギスギスすることもありますし。
松村:はい、そういうこともなくすごく和みます。あと、わんこを介して社員同士の会話が自然に生まれます。
――ワンちゃんの散歩をしていると知らない人同士で会話が生まれることがありますが、そういうことですか?
松村:そんな感じです。たとえば、おやつをあげたり、わんこと遊んでいたら自然と人が寄ってきてみんなでワイワイし始めたり。コミュニケーションのきっかけになってくれるので、すごく助かっています。それもあって、社内の雰囲気はすごく明るいです。
普段から仕事で接しない人とは、なかなか会話がなかったりするじゃないですか? でも、わんこを介してだと、業務で関わらない人とも自然と会話できたり仲良くなれたりします。基本的にみんな動物が好きなので、社員全員とコミュニケーションする機会が自然と生まれるのはすごくいいことじゃないかなって。
――それ、大きいですよね。正直、出社したくなくなる会社とかもあるけど、そうならないのは本当に大きいです。
松村:はい。「今日はどのわんこがいるかな?」と思いながら出社すると、すごく楽しいです。
あと、飼い主にとって「連れてこられる」というだけで安心感は大きいです。家でわんこにだけお留守番をさせ、そんな日に地震が起きたり津波警報が出るのはやっぱり心配なので。
加えて、Xを見てくださるとわかると思うのですが、出社するわんこはいつも楽しそうです。人間との触れ合いが好きなワンちゃんは多いし、会社に来れば誰かと触れ合えたり、なんならごはんやおやつもいっぱいもらえるので(笑)。かまってくれる人はたくさんいるから家で退屈しているより刺激もあるし、わんこにとってもいいんじゃないかなと思っています。
――あと、社員犬にしかできない仕事もあるから、会社とワンちゃんはウィンウィンですよね。ちなみに、ワンちゃんと仕事することでデメリットはありますか? たとえば、社員犬にかまけて仕事ができなくなるとか……。
松村:それは、厳密に言うとあると思います。
――ハハハハ!
松村:普通にあると思いますね(笑)。もちろん、「オン・オフを切り替えて仕事してください」とは言っていて、社員もそうはしているのですが、やっぱりわんこがいるとついついかまっちゃう。
――それは止められなさそうです(笑)。でも、そういうのも含めてもいいことのほうが多い?
松村:はい、それで生産性が下がることはないと思っていて。逆に、「ちょっと集中力が下がったな」というときにわんこと遊んだら回復することもあるので、そこはみんなうまくやっているんじゃないかなと思います。
◆手当、休暇など動物関連の福利厚生が充実しまくり
――「うちの社員犬、可愛いですよ」とシェアする目的でXの発信を始めたとのことですが、ワンちゃん好きからの入社希望は絶えないのでは?
松村:入社の応募は多くて、採用面でもわんこはすごく活躍してくれています(笑)。岩橋が犬吸いをするポストがXでバズった時期は、求人応募数が10倍ぐらいに跳ね上がりました。「犬と同伴出社できる」といった働き方に関心を持ち、応募してくださる方はすごく多いです。
そんな弊社の働き方として、いろいろな福利厚生を導入している点も特徴の一つです。ウチは動物関連の福利厚生を「わんダフル・ワーキング制度」と呼んでいるのですが、具体的には「うちの子手当」として動物と一緒に暮らしている人には毎月の手当てが1匹につき2000円出ます。また、保護動物をお迎えした場合は手当に1000円上乗せされて3000円が支給されます。それは犬だけじゃなく、私は家にウサギが2頭いるのですが同じように手当をもらっています。
――なるほど、ペット全般に適用されるということですね。
松村:はい、トカゲなども対象になっていて。「じゃあ、カブトムシも対象なの?」と言われると要検討ですが、動物でそれなりに飼育費用がかかる場合は種別に関わらずみんな支給されています。
あと、「動物ボランティア休暇」というものもあります。保護動物の譲渡会のスタッフになったり、シェルターで保護猫のお世話をしたり、社内には動物関連のボランティアをやっている人間が何人かいます。そのボランティア活動を平日に行う場合、年に2日までは有給と同じ扱いになります。つまり、会社から給料を受け取りながら、ボランティア活動に従事することができる。「平日にやっていいですよ」という形で、動物関連のボランティア活動を推進しています。
そして、忌引については実際の家族と同じ扱いになっています。実際の親族が亡くなった場合と同様に、自分のペットが亡くなった場合もお休みを取得できる。これは、岩橋本人がわんこを亡くしたときに感じた後悔が導入のきっかけです。亡くなるときはちゃんと看取ってあげてほしいし、ちゃんとお世話して送ってあげたほうが飼い主の心の負担も減る。後悔や心残りを緩和するための制度でもあります。だから、通常の忌引は亡くなった後に取りますが、弊社では亡くなる前にも取得できます。
――ああ、そうか。「この子、もう長くないかも……」というときから休めるんですね。
松村:あと、明確に会社のルールになっているわけではないのですが、ずっと一緒に暮らしていた実家のわんこが「もう、そろそろ……」というときは、実家に戻ってフルリモートで働きつつ、実家で最期を看取ってあげる……という働き方をした事例もあります。
基本的には、子どもと同じ考え方なんです。子どもが病気になったので、お医者さんに連れてかなきゃいけないということはよくあると思うんですね。動物も同じように「今朝、調子が良くなかったから病院に連れて行きたい」と、始業を少し遅くして融通を利かせてもらったり。そういうことは、フレキシブルに対応してもらえます。
私個人としても、それはすごくありがたくて。うちにいるウサギはしょっちゅう体調を崩すので、病院に連れてかなきゃいけないことが頻繁にあるんですね。でも、以前務めていた会社では「うちのウサギの体調が悪いので、今日の出社は午後からでもいいでしょうか?」ってすごく言いづらかったんです。
――かもしれないですね……。
松村:今の会社はそういうことへの理解もあるし、すごく助かってます。
――この考え方がほかの会社にも浸透していけばいいな、と思いますよね。
松村:はい、本当に家族になっているので。
◆実際に働いた感想「犬のパワーは侮れない!」
――このような福利厚生があったり、ワンちゃんと同伴出社して一緒に仕事できる会社について、実際に働いている松村さんご自身はどう感じていますか?
松村:私に関して言えば以前から家にウサギはお迎えしていましたが、わんこはほとんど触れ合ったことがなかったんです。正直、そこまで好きなわけではなかったのですが、今では本当に大好きになりました。
もし、この会社にわんこがいなかったら、オフィス内はたぶんすごい静かです(笑)。みんな出社はしてくるけれど、黙々と仕事をして……みたいな。
――それぞれが1人の世界に入って、パソコンに向き合いながら黙々と仕事しているかもしれない。
松村:わんこが会社にいるという状況はあまり想像できないと思うのですが、ただ可愛い子がいるというだけじゃなくいろんな効果をもたらしてくれるから、「本当に犬のパワーは侮れない!」と日々思っています。
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「出社するのが楽しみ」「社長が犬吸いするのはいつものこと」「犬と仕事することでデメリットはある」「わんこがいなかったら社内は静かになるはず」「ペットは家族だ」……松村さんのお話を聞いていたら、力強い言葉がこれでもかと頻出しました。そして、その背景には同社が目指す新しい社会像があったようです。
人と犬が一緒に暮らしやすい社会にしていきたい……そんな思いを全力で体現する、オフィス内の風景がうらやましすぎました!
<取材・文/寺西ジャジューカ>