長濱ねる×山口周『未来を照らすコトバ』刊行記念対談【前編】「人生を豊かにするキーワード」を巡る対話で生まれた変化と気づき

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2025年12月02日 17:50  週プレNEWS

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ラジオ番組のパーソナリティを務める長濱ねる(左)と山口周(右)


ラジオ番組のパーソナリティを務める長濱ねる(左)と山口周(右)


独立研究家・著作家の山口周と俳優の長濱ねるの共著『未来を照らすコトバ ビジネスと人生、さらには社会を変える51のキーワード』が10月2日に刊行。本書は放送開始から4年を迎えたJ-WAVE(81.3FM)のラジオプログラム『NTT Group BIBLIOTHECA -THE WEEKEND LIBRARY-』を初めて書籍化したもの。「週末にオープンする図書館」をコンセプトに、図書館長役の山口と図書館司書役の長濱がビジネス、人生、さらには社会をより豊かにするキーワードと参考図書について語り合った一冊となっている。

【写真】図書館司書役の長濱ねる

*  *  *

──『NTT Group BIBLIOTHECA -THE WEEKEND LIBRARY-』は、どのような経緯で始まったのでしょうか?

山口 メディアでは、社会の課題やネガティブな出来事が取り上げられやすい。そんな中、前向きなことを届けられる番組を作れないか──そんな思いから始まったのがこの『BIBLIOTHECA』です。「週末にオープンする図書館」をコンセプトにしたのは、私自身が大の本好きというのもありますが、それ以上に大きかったのは、ねるさんの長年の夢が「図書館司書になること」だった、ということです。長年ビジネスの世界で仕事をしてきた私にとって、世代はもちろん、積み上げてきたキャリアも異なるねるさんとの対話は、毎回とても新鮮で発見があります。

長濱 私自身はビジネス書にそこまで馴染みがなかったので、出演のオファーをいただいた時は、どういった形でお役に立てるのだろうかと不安がありました。でも、番組のコンセプトに強く共感したので「等身大の自分でよければ出演したいです」とお受けしました。

──番組内の人気コーナー「KEY TO TOMORROW」で繰り広げた、お二人の対話をまとめた書籍『未来を照らすコトバ ビジネスと人生、さらには社会を変える51のキーワード』が刊行されました。これまで番組の放送作家による選りすぐりの150個にもおよぶキーワードを取り上げた中、本書では51個のキーワードが紹介されています。このラインナップを見て、どう感じましたか?

長濱 改めてありとあらゆるキーワードを取り上げてきたんだな、と感じました。実践的なビジネスの「思考法」から「哲学」「心理」「アート」「人間関係」まで、扱うテーマが本当に幅広い。私と同じくビジネス書に馴染みがない20代の方でも親しみやすい内容でありながら、ここまで広範囲に網羅している本は他にないと思います。

山口 流石のチョイスですよね。その時の取り上げる内容によって、テーマも対話の雰囲気も違っていて、全体通して非常にバランスがいい。本の内容に沿って話が進んでいく回もあれば、「そういえば...‥」と話題が横に飛ぶ話も入っているので、私も改めて読んでいて楽しかったです。


──本書はAmazonのカテゴリーベストセラーランキングで1位を獲得し、大きな反響を呼んでいます。

山口 この本は読み手も含めて、3人で雑談している感覚になれるのが面白いですよね。基本的に本は、情報を発信する"書き手"と、それを受け取る"読者"という一方向の関係になります。しかし『未来を照らすコトバ』は、毎回取り上げる参考図書について私とねるさんが話し合う内容なので、読み手も一緒になって対話に参加している心地よさを得られる。そこが魅力の一つだと思います。

長濱 私が周さんとお会いしたのは23歳の時でした。周囲の状況や自分の気持ちが大きく揺れ動く20代中盤の時期に、この番組を通していろんな知識、新しい考えや価値観を教えてもらえたことで、自分の人生に大きな影響を与えていただきました。改めて本書を読んでみて、社会人としても人間としてもプラスの変化に繋がっていると感じました。

山口 ねるさんが新しい考えも持った話で言うと、他人に何かを与える「ギバー」の回が大きいように思います。アダム・グラントの『GIVE&TAKE  「与える人」こそ成功する時代』を取り上げたら、ねるさんは「ギバーはダメですよ」と仰っていましたよね。

長濱 はい。「人に与えるだけで、本当に自分が幸せになれるのかな?」と疑問に思いました。

山口 ねるさんの話を聞くと、これまで周りの方にギブをして損をされてきたみたいで。「ギバー」の話に最初は違和感を覚えていましたが、徐々に「なるほど。与え続けていれば、いつかは自分に返ってくるのかもしれない」と受け入れていましたよね。

長濱 そうですね。あとは「後悔の力」も印象深いです。「自分の心の持ちようで、いくらでも過去の後悔は変えられる」というお話を聞いて、その考え方が生活の指針になりました。

山口 ダニエル・ピンクの『THE POWER OF REGRET  振り返るからこそ、前に進める』に書かれている、「後悔はむしろ人がより良い人生を歩むために必要なんだ」の一節ですね。

長濱 他には「美意識」と「アート思考」の回も刺激を受けました。これまで私は「初志貫徹」とか「苦しくてもやり続ける美学」といった価値観で仕事をしていて。「自分にとって、本当により良い生活や仕事とは何か?」を考え直すきっかけになりました。

周さんは、とても柔和な考えをお持ちなんです。話を聞いていると「そんなに軽やかな生き方をしてもいいんですか?」と驚くことが多いです。でも、よく考えてみたら、なんとなく世の中の同調圧力によって培われた価値観を自分は持っていたんだな、と気づくきっかけになりました。周さんのおかげで、何度も人生の尺度が上書きされた感覚があります。あとは「ゲーム理論」のお話も好きでした。

山口 複数の選択肢の中から最適解を考える「ゲーム理論」ですね。

長濱 絶対優位の選択(どんな状況でも自分に得になる選択肢)は、何か迷った時に自分の中で取捨選択の軸となっています。

山口 そう、迷いがなくなりますよね。

長濱 ビジネスだけでなく、日々の生活や人間関係で悩んでいる人にとっても、新しい扉が開くのではないかと思います。

山口 確かに「何をすれば自分の得になるのか」という考えは、知っておくと便利ですよね。

長濱 「ブルーオーシャン戦略」も私の人生に大きく関係するお話でした。自分の"好き"を突き詰めることで、他者と競争しない生き方を選ぶというのは、とても腑に落ちる考えでしたね。

山口 今の若い方は「人は人」と思えないみたいですね。「みんなと違っていたらどうしよう?」という目線で物事を判断してしまう。それよりも、自分が好きか嫌いかの判断基準でいいと思うんです。この「ブルーオーシャン戦略」とか、やめることをネガティブに捉えない「クイッティング」は、知っておくと楽に生きるためのヒントになるはず。このように本書は「こう考えてみたら、人生が違って見えてきますよ」という提案が多分に入っているかもしれないですね。


──対話を通してお互いに影響を受けたことや、印象に残った発言はありますか?

長濱 たくさんあります! 私は周さんのような、物事に執着しない柔軟な生き方にとても憧れます。中でも一番印象的だったのが「今の選択方法を変えることで、失敗したと思っていた過去の意味合いを変えられる」というお話です。「過去は変えられない」と思い込んでいた自分の考え方が刷新されました。今からの行動で過去や未来をいかようにも好転させられるんだ、と心が楽になりました。

山口 私はねるさんの「興味がないものはない」とハッキリと示す姿が印象的です(笑)。あとは、年齢差が30歳近くあるのでお互いの感覚が違うことがあって。一番驚いたのは「アンドロイド」の捉え方です。僕の中でアンドロイドと言えば、人造人間が思い浮かぶわけです。番組内でアンドロイドの話が出た時に、ねるさんが「アンドロイドって"そういう意味"もあるんですか?」と言ったんです。逆に、それ以外にどんな意味があるんだろうと不思議に思って「ねるさんの中でアンドロイドと言えば?」と聞いたら「GoogleのOSだと思っていました」と。これにはビックリしましたね。僕自身も「なるほど、そうきましたか!」と毎回発見の連続です。

──10月12日には本書の出版を記念して、番組初となる公開収録が開催されました。

長濱 リスナーの皆さんがとても優しくて、温かい雰囲気の中で収録できました。何より、周さんは人前でのトークに慣れているので、丁寧にリードしていただきながら楽しい時間を過ごせました。

山口 『BIBLIOTHECA』のリスナーだからこそ、心理的安全性が高い空間でしたね。

──私も現場に伺いましたが、20代ぐらいの女性がいたり、ご夫婦らしき方もいれば、スーツを着た男性など本当にさまざまでしたね。

山口 そうですね。それだけ幅広い人に聴いてもらえているのだと感じました。

──何と言っても、お二人の会話がとてもテンポよく軽やかで驚きました。少しの沈黙もなく、阿吽の呼吸で言葉のラリーをされていて。

長濱 ハハハ、嬉しいです。

山口 伊達に4年もやっていない、ということですかね。お互いに「ラリーを続けなくちゃ」とプレッシャーを感じながら話していないのが大きいと思います。ポーンと打ちやすい球を返したつもりが、時には予想外の方向から球が返ってくることもあって。

長濱 周さんがどんな球でも返してくださるので、私は助けられています。

山口 昔の方が緊張していましたよね?

長濱 そうかもしれないです。

山口 番組が始まって最初の半年くらいは「ちゃんと投げ返さなきゃ」とお互いに緊張していたと思うんです。あとで放送を聴いてみて、思わぬ方向に飛んでしまってもそれはそれで番組の魅力になると思ってからは、気にせず話せるようになりました。だからこそ、テンポよく軽やかに聞こえるのかもしれないですね。

長濱 初めて聞く言葉とか概念の話が多いので、そういう時は素直に「知らないです」「分かりません」と言うようにしているんです。始めはできるだけ上手にキャッチボールをしなきゃ、という思いがありましたが、最近は「初めて聞きます、教えてください」と。周さんの話をお聞きしながら、自分の生活と紐付けて解釈していくスタンスに変わりました。

──自身の生活に紐づけると言えば、公開収録の中で長濱さんは「放送開始から現在までに、いくつか人生の大きな選択をする場面がありました。そんな時に、周さんと一緒に読んだ本や、その本を通して周さんからいただいた言葉によって、今考えうるよりよい選択ができた気がします」と話されていましたね。

長濱 今年、芸能活動を始めて丸10年になったのを機に「新しい扉を開けて、何か一つのことを極めていきたい」という心境の変化から、事務所を移籍したんです。ただ、これまでの環境を変えることに対して、どこか怖くなっていたり、不安になったりもして。そんな時、この番組で学んだことがヒントになりました。「自分自身の人生を良くするために、何を軸にするべきか」と考えて、後悔しない選択を選べたんです。

──自分自身を認識する「セルフアウェアネス」の回も「人生を豊かにするヒントになった」と話していましたね。

長濱 はい。ノートに悩みを書き出すことで「これはすぐに解決できる」「これは自分の力ではどうにもできない」と分かるようになりました。例えば「今、しんどいな」と思ったらしんどい理由を並べてみる。「寝る時間が少ない」「家でゆっくりできないのは宿題があるから」とか、そういうことを細かく羅列してみることで視界がクリアになったんです。「セルフアウェアネス」によって、自分自身を知ることができました。

山口 「『かわる』から『わかる』」という著述家の松岡正剛さんの言葉がありまして。何かを理解するために、自分自身が持つ既存の認識や視点、物事の捉え方を変えてみる。それによって、新しい人生の気づきが得られるんですよね。

【番組情報】 
放送局: J-WAVE(81.3FM) 
番組名: NTT Group BIBLIOTHECA -THE WEEKEND LIBRARY- 
放送日時: 毎週土曜15:00〜15:54 
ナビゲーター: 山口周・長濱ねる 
番組サイト: https://www.j-wave.co.jp/original/bibliotheca/ 
番組X(旧Twitter): https://x.com/BIBLIOTHECA813 
番組Instagram: https://www.instagram.com/bibliotheca813

取材・文/真貝聡 撮影/佐々木里菜

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