荒天の赤旗クラッシュやエンジン故障の波乱を経て、チャズ・モスタートが大逆転の初王者に/RSC最終戦

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2025年12月02日 18:50  AUTOSPORT web

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今季最終ヒートで勝利を飾ったチャズ・モスタート(WAU/フォード・マスタング)が、大逆転でシリーズ初制覇を飾っている
 豪州最高峰RSCレプコ・スーパーカー・チャンピオンシップの最終決戦『Adelaide Grand Final(アデレード・グランドファイナル)』が11月27〜30日に開催され、タイトル挑戦権を確保した4名が対照的な運命を辿ることに。

 週末の3ヒートに向け3戦連続でポールポジションを獲得したブロック・フィーニー(レッドブル・アンポル・レーシング/シボレー・カマロ)は、エンジン失火を抱えながらの奮闘も実らず。最終ヒートでまさかの接触スピンに見舞われることに。ここで勝利を飾ったチャズ・モスタート(WAU/フォード・マスタング)が、大逆転でシリーズ初制覇を飾っている。

 名門トリプルエイト・レースエンジニアリング(T8)の新世代エースとして、レギュラーシーズンチャンピオンを獲得。前年度チャンピオンの僚友ウィル・ブラウン(レッドブル・アンポル・レーシング/シボレー・カマロ)とともにタイトル筆頭候補としてアデレード市街地に到着したフィーニーは、この時点ですでに年間13勝と、シリーズ3連覇の元王者スコット・マクラフランに並ぶ最多タイ、16回のポールポジションを獲得していた。

 スタンディング上では20点のリードながら、最大の宿敵と言えるフォード陣営モスタートや、前戦で最後のひと枠を奪取したカイ・アレン(グローブ・レーシング/フォード・マスタング)ら候補者に対し、フィーニーが圧倒的な優位性を持って最終戦に乗り込んできた。

 そんな週末はビッグニュース続きとなり、日本のレースシーンでも活躍を演じた2010年チャンピオン、ジェームス・コートニー(ブランシャード・レーシング/フォード・マスタング)が、通算269戦、608レースを戦ったフルタイムのキャリアに終止符を打つことに。そして今季2025年の聖典『バサースト1000』を制覇していたガース・タンダーは、それを最後に自身のスーパーカーでのキャリアに終止符を打つと発表した。

「正直に言うと、今日ここへ来て初めて、すべてが終わるんだと実感した」と、週末に向けスペシャル・リバリーのマスタングを披露したコートニー。

「いつも次のレース、次のイベントに向け準備する……と思っていたが、これが終わったらもう次はない。今朝、マシンのカラーリングが(サプライズで)発表されたときは本当に感動した。姉妹、両親、子供たち全員、大勢の仲間が来てくれている。本当に特別な週末になりそうだ」

 同じく、そのキャリアを通じて聖地マウントパノラマを6回も制覇したタンダーは、1998年に古豪ギャリー・ロジャース・モータースポーツ(GRM)からデビューし、2018年に同チームを去るまでHSVディーラーチームとしてフルタイムで参戦。2007年にはスーパーカーのタイトルも獲得し、その後はエンデューロ・カップ登録のコドライバーとしてT8とグローブ・レーシングでバサースト3勝を挙げている。

「本当に、本当に幸運だった」と前戦サンダウンの土曜に、テレビ中継チームの一員としてこの決断を表明した48歳のタンダー。「21歳のとき、フィリップアイランドでディック・ジョンソンの隣で予選16番手に入ったときのことを今でも覚えている。グリッド上でエンストしてしまい、1コーナーで最後尾に落ちたんだ。スーパーカーのキャリアにとって決して良いスタートではなかったが、グローブ・レーシングとともに今年のバサーストで優勝できたこと以上に、最高のかたちで終えられるフィナーレは想像がつかない」

「子供たちは、私がバサーストで優勝したレースを一度も見たことがなかったから、彼らをそこに連れてきて、その経験をさせてあげられたことは本当に本当に素晴らしく、特別なことだった。それ以上良いことがあるかどうか……始まりよりもずっと良い形で終えられたと思うよ!」

 そしてシリーズの未来に向けては、2023年王者ブロディ・コステッキ(シェルVパワー・レーシング/フォード・マスタング)が「このチームの方向性は見えているし、契約延長は簡単な決断だった」と、所属先のディック・ジョンソン・レーシング(DJR)と2030年末までの長期に渡る延長契約を結んだ。

「僕らは適切な人材、適切なインフラ、そして特別な何かを築くための適切なタイムラインを備えている。今後5年間はチャンピオンシップ制覇に注力し、ディック、ドク(ライアン・ストーリー代表)、そしてシェルVパワー・レーシングチーム全員のために、栄冠を勝ち獲りたいと思っている」

 さらに、この週末には北米からのビッグゲストも名を連ね、NASCARカップシリーズ通算3勝を誇る27歳のオースティン・シンドリックが、ワイルドカード枠でティックフォード・レーシングの整備したフォード・マスタングをドライブする。

「子供の頃からスーパーカーのファンだった。言うまでもなく、このアデレード・グランドファイナルで、素晴らしい週末になるはずのレースの雰囲気を味わいながら、トップドライバーたちと競い合う機会に強い関心を抱いていたんだ」と、2019年のアレクサンダー・ロッシ/ジェームズ・ヒンチクリフ組以来となるアメリカ大陸出身ドライバーとなったシンドリック。

「カム(キャメロン・ウォーターズの愛称)やトーマス(・ランドル)、そして他の多くのドライバーと話した。事前テストの週末を通してフロスティ(マーク・ウインターボトムの愛称)と過ごし、いろいろと意見を聞くこともできた。でも実際に体験し、感じ、リアルタイムで適応する必要があるんだ」

 この契約が発表された後、シリーズ“3冠”王者として現在はNASCARカップの競合にもなった“SVG”ことシェーン-ヴァン・ギスバーゲンは、シンドリックに率直なメッセージを送り「なあ、あそこでうまくやりたかったら、右足ブレーキを使え」とアドバイス。さらにNTTインディカー・シリーズで活躍中の前出マクラフランは、シンドリックがオーストラリアに到着して以来、毎日SNSなどを通じて彼の耳元に声を掛け続け、アデレードでの週末を通して彼を指導するために「データを見せてほしい」と頼むほどだった。

「シェーンは今回の経験についてとても寛容だった。スコッティ・マックはそれと違って、僕がここに来てから毎日メッセージを送ってきているんだ(笑)」と続けたシンドリック。

「シェーンは本来なら(NASCARではライバルになる)コンペティターだけど、僕が楽しんで良い経験を積むのを見たいと思っているから、それはそれでいいことだよ。正直に言って、ここにいるみんなはすごく歓迎してくれて、僕がグリッドに並ぶことを楽しみにしてくれている。マシンに慣れるのは最初の段階だけど、本当に大変なのは30分のセッションを終えて、金曜の予選に直行すること。だからサーキットに慣れ、自分が望むほどの競争力を発揮できるかどうかの最大の課題になると思う」

 そして、シリーズを含め同国のモータースポーツで3種の殿堂入りを果たすアラン・モファットの訃報により、この86歳の先駆者を称えるフェアウェルが催されるなか、走り出しのフリープラクティス(FP)では2回のセッションともキャメロン・ウォーターズ(ティックフォード・レーシング/フォード・マスタング)が先行する。

 しかし予選に入るとアンドレ・ハイムガートナー(ブラッド・ジョーンズ・レーシング/シボレー・カマロ)がトラブルで残したデブリにより、コステッキがバリアに激突しウォーターズもコースオフ。代わって予選トップ10シュートアウトでは、フィーニーがチャンピオンシップの最大のライバルであるモスタートとフロントロウを占拠。自身が樹立した年間記録を更新し、これ以降は週末の予選を全制覇して年間19回のポールを奪ってみせた。

「アデレードに戻ってこられて本当にうれしい。僕にとって本当に特別な週末で、17回もポールポジションを獲得できたのは本当に特別なことだ」と、まずは初日でマクラフランの最多ポール記録を破ったフィーニー。「ただし皆の注目はこれからだ。午後には重要なレースがあるが、その後は大きな週末に向けて準備を進めていくよ」

 そんなポールシッターの言葉はネガティブな方向で現実となり、フィーニーはレース1の3周目にターン4でブレーキングが遅れ、モスタートとコステッキの2台に先行を許す。さらにコステッキは数コーナー後にモスタートをパスし、ここでトップに躍り出る。

 ここからレース前半でやや乾き始めていたレーシングラインは、終盤に向け雨脚が再び強まったことでランドルのマスタングが高速ターン8でウォールに激しく衝突してコース上に停止。このためセーフティカー(SC)が出動し、最終的にはバリアの損傷により赤旗が掲示される。

 これによりレース距離4分の3を消化し、コステッキはモスタートとその僚友ライアン・ウッド(WAU/フォード・マスタング)、そしてフィーニーを抑え、赤旗絡みの短縮レースで勝利を手にした。

「まずは、最後まで頑張ってくれた皆に感謝する。しばらくは厳しい状況だったが、レースの4分の3を走ることができてうれしいよ」とコステッキ。

「スティントの終盤、トーマス(・ランドル)がクラッシュする直前は、かなり危険な状況になっていた。僕自身ももう少しで壁の餌食になり掛けた。背後からはチャズ(・モスタート)の姿も見えて重圧が掛かったが、彼らに一歩近づいた。地元にも感謝したいし、5万ドルももらえるなんて最高の週末の始まりだね」

 明けたレース2は、最前列からのリベンジを期したフィーニーが反撃に転じ、タイトル獲得に近づくポール・トゥ・ウインを達成。フィーニーはレース序盤、エンジントラブルに悩まされたが、レース中盤に差し掛かる頃には「問題は解消した」と報告していた。

「厳しいレースだった。多くの逆境を乗り越えなければならなかった」とアデレード通算3勝目を挙げたフィーニー。「スタートは素晴らしかったが、その後にコーナーを完全にミスしてしまい、その際に少しダメージを受けてしまった。エンジンに不安のあった状態でもまた勝ててうれしいよ」

 一方、背後のウッドは最後の数周までフィーニーに迫ったが、ここでペースを落として12番手から猛追の先輩モスタートにパスを許し、選手権争いをアシストする2位を献上。今季14勝目を挙げたフィーニーに13ポイント差で食い下がった。

 迎えた今季最終決戦。タイトル決定のレース3スタートは、オープニングラップからあってはならないアクシデントが発生。ポール発進のフィーニーがターン1でポジションを落とした後、ターン4でディフェンスに動いたことでウッドが急接近。ターン5までプレッシャーをかけ続けたモスタートの僚友は、ターン6でフィーニーのカマロZL1と交錯し、選手権リーダーはスピンに陥って一気に21番手まで順位を落としてしまう。

 スチュワードはすぐさまウッドに15秒のペナルティを科したが、フィーニーにとって悪夢は続き、レース中盤には断続的なエンジントラブルが再発。自身初タイトル獲得の望みは大きく薄れ始める。

 その一方で、もうひとりのタイトル候補モスタートは、4番グリッドから堅実なレースを展開し2位でフィニッシュ。スタートで優位を奪っていたマット・ペイン(グローブ・レーシング/フォード・マスタング)が勝利を飾り、長らくポイントリーダーを務めてきたフィーニーを大逆転したモスタートが、参戦13シーズン目にして初のチャンピオンシップ制覇を成し遂げた。

「信じられない。長年レースを続けていると、年々疑念を抱くようになる」と感極まった新チャンピオン。「ティックフォードやここウォーキンショー・アンドレッティ・ユナイテッドなど、僕は素晴らしいチームでレースをしてきた。だから自分もできると確信していた」

「このファイナル・シリーズに参加できて本当に良かった。チームは本当によくやってくれたし、情報を取捨選択して集中力を維持させてくれた。正直言って、最後の38周は目が回るような感覚だった。本当に奇妙で(アイルトン・)セナが“トンネルビジョン”に陥ったという話をよく聞いたが、まさにそんな感じだったよ!」

 その一方、今季14勝と19回のポールポジションを獲得したフィーニーは、レース後に声を絞り出し「レッドブル・アンポル・レーシングの皆に感謝したい」と惜敗の弁を述べた。

「今年は素晴らしい1年だった。一生誇りに思うだろう。でも……仕方がないね。新しいシステムだから。最終戦でショッキングな出来事が起きて、全てが崩れ去ってしまうこともある。チャズ、おめでとう。ファイナルシリーズは素晴らしいものだったのは間違いない。最初からあんな風になって、その後に問題が起きたのは少し残念だ。今日何が起ころうとも、残念ながら全ては崩壊する運命だった。チーム、家族、友人、そして支えてくれたすべての人に感謝してもしきれない。しばらくは連絡が取れないと思うけど、目立たないように過ごすよ……」

[オートスポーツweb 2025年12月02日]

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