飼いネコはどこで生まれ、いつ世界各地に広まったのか? “家猫”のルーツをゲノム解析、最新研究が定説を覆す

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2025年12月03日 08:10  ITmedia NEWS

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 イエネコ(家猫)はいつ、どこから世界に広がったのか。この問いに対する答えが、最新の2つの研究によって塗り替えられようとしている。


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●ヨーロッパにいつ、どのように家猫が広まったのか


 イエネコの祖先はアフリカヤマネコとされている。従来の起源は、新石器時代のレバント(約9500年前)とファラオ時代のエジプト(約3500年前)の2つの可能性が示されている。約6400年前に新石器時代の農民がアナトリア(現在のトルコ)からヨーロッパへネコを持ち込み、その後約2000年前にエジプトから第2の波が到来したとされてきた。


 しかし、Science誌に発表された研究は、この定説を覆す。


 研究チームは、ヨーロッパとアナトリア各地の遺跡から出土した古代ネコ70頭と、現生ヤマネコ17頭のゲノムを解析。結果、新石器時代のヨーロッパで見つかったネコは、実はイエネコではなくヨーロッパヤマネコだったことが判明した。これらのヤマネコは過去にアフリカヤマネコと交雑した痕跡を持っていたため、これまでイエネコと誤認されていた。


 本物のイエネコはいつヨーロッパに現れたのか。ヨーロッパで確認された最古のイエネコは、イタリア・サルデーニャ島から出土した約2200年前の個体だ。他のヨーロッパの遺跡から見つかったイエネコも全て約2000年前以降のものだった。つまり、イエネコのヨーロッパ到来は従来考えられていたより数千年も遅かったことになる。


●東アジアにいつ、どのように家猫が広まったのか


 一方、東アジアへの拡散についても発見があった。Cell Genomics誌で発表された研究では、中国各地の遺跡から出土した約5000年にわたるネコ科動物の骨を分析した。


 従来、中国では新石器時代や漢の時代(紀元前206年〜紀元220年)にはすでにイエネコがいたと考えられてきた。しかしゲノム解析の結果、漢代以前の遺跡から見つかった小型ネコ科動物の遺骸は全て、イエネコではなくベンガルヤマネコであることが判明した。


 中国で確認された最古のイエネコは、唐代の紀元730年ごろのものだった。この個体は陝西省のシルクロード沿いの拠点で発見された。遺伝学的解析からは、全身または部分的に白い毛色だったと推定されている。


 イエネコが来る前の中国ではどうだったのか。これまでイエネコとされていたベンガルヤマネコが少なくとも5400年前から人間の居住地に出入りし、ネズミなどを捕食する共生関係を築いていた。この関係は3500年以上続いたが、漢王朝が崩壊した紀元200年ごろを境にベンガルヤマネコは姿を消した。


 約600年の空白期間を経て、唐代になってようやくイエネコが姿を現した。中国でイエネコを描いた最古の絵画も、最古の文献記録も、全て唐代のものだ。唐代の物語には、皇后が大臣たちにペットのネコを贈る場面が描かれている。イエネコは当時、上流階級には珍しいものとして大切にされていた。


 中国のイエネコはどこから来たのか。ゲノム解析によると、中国の古代イエネコは全てレヴァント(現在の中東)からシルクロードを通じて商人の手で運ばれてきた可能性を示唆した。カザフスタンで見つかった中央アジア最古のイエネコも同時期のものであり、東西交易が最盛期を迎えた時代と重なる。


 イエネコは中国に導入された家畜の中で最も遅いものの一つだった。ウシ、ヒツジ、ヤギは紀元前3000〜2000年ごろ、ウマは紀元前1200年ごろに導入されたが、イエネコの到来はそれよりはるかに遅い約1400年前のことだった。


 これら2つの研究は、イエネコの歴史が従来の想定よりずっと遅かったことを明らかにしている。ヨーロッパへは約2000年前に北アフリカから、中国へは約1400年前にシルクロード経由で中東から伝わった。


 Source and Image Credits: M. De Martino et al. ,The dispersal of domestic cats from North Africa to Europe around 2000 years ago.Science390,eadt2642(2025).DOI:10.1126/science.adt2642


 Han et al., The late arrival of domestic cats in China via the Silk Road after 3,500 years of human-leopard cat commensalism, Cell Genomics(2025), https://doi.org/10.1016/j.xgen.2025.101099


 ※Innovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。X: @shiropen2



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