没落するナイキと新勢力で分かれた明暗、JALの“スニーカー解禁”で見えたこと…2025年「激変する靴業界」を総括

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2025年12月03日 16:31  日刊SPA!

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GU「ふかふかスニーカー」。1990円。写真は公式HPより
こんにちは、シューフィッター佐藤靖青(旧・こまつ)です。靴の設計、リペア、フィッティングの経験と知識を生かし、革靴からスニーカーまで、知られざる靴のイロハをみなさまにお伝えしていこうと思います。
2025年の靴業界を総括しつつ、2026年度の予測をしていきましょう。昨今の靴業界は単純明快で「超サバイバル時代の到来」でした。象徴的だったのが、2024年10月のナイキのCEOの交代です。オンラインショップが普及し、5年前のコロナ禍で非接触の販売によって一人勝ちしていたナイキですが、新興ブランドの成長とともに経営不振に。現場たたき上げのエリオット・ヒル氏へバトンタッチとなりました。東京でも街中で足元を観察していると、ナイキを履いているのは若い学生ばかり。しかも、古いモデルの復刻版が多く、高いナイキにこだわる理由が見当たりません。そういった流れが顕在化した一年でした。

中年以降の足元のスニーカーは、「オン」「HOKA」といった比較的若い実力派メーカーが目立った一方、とにかく高い。さらに在庫がなく手に入らないといった事情もあり、カウンターとして安さに特化した「ワークマン」が目立っています。オンやHOKAはデザインだけを模倣した粗悪なメーカーも乱立しはじめ、その光景は10年前のナイキの立ち位置そのものです。

しかも、人気メーカーのモデルは、円安と免税の影響で、日本の在庫の大半は外国人観光客に買われてしまい、日本人が慢性的に手に入れられなという事態に陥っています。

◆専門靴が街に出る時代へ。アシックス「ライフウォーカー」が変えた常識

ミズノやアシックスなどの国内メーカーにも頑張ってほしいところですが、マラソンやボクシングなどのガチンコのスポーツには強いものの、原価高騰でなかなか手に入りやすいモデルが少ないのが現状です。しかし、実力は折り紙付きなので、思わぬ専門靴が世に出てくるところが面白い。つい先日ですが、筆者の度肝を抜いたのがアシックスの介護靴「ライフウォーカー」。シニア向け&リハビリ向けのモデルなのですが、普通に履き心地はいいし、マジックテープ一発でアジャスト、脱着できるモデルで、ビリーズとのコラボでは見たこともない靴に昇華しました。

何も知らないとこれが実は「介護靴」とは誰も気づかないでしょう。シニア、リハビリ用に開発されているので、クッション、安定感、すべりづらさは完璧。こういった隠れた実力派シューズが2026年の大きな流れになると個人的には予測しています。

◆履くだけで痩せる? 怪しいインソールの急増と本物の見極め方

そんな日本で売れたもので、かつ外国人観光客にまだ買われていないものが「機能性インソール」です。筆者は長年インソールの世界も観察していますが、外からは見えないモノゆえに、なかなか表立った動きは見えづらいのですが、足の悩みを「靴単体」だけで解決するのではなく、「靴×インソール」という組み合わせで選択肢が何倍にも広がることが認知されたのが、今年だったと思います。まさにインソール元年です。スマホ単体のスペックではなく、どのアプリを入れるかで、スマホの世界が変わるのと同じ図式です。アプリ同様、インソールも玉石混交がここまで激化したのも初めての体験でした。「履くだけでやせるインソール」「履くだけでゴルフの飛距離が伸びるインソール」などなど、普通に考えれば「そんなバカな」とわかりそうな怪しげな商品がネットで飛ぶように売れ、筆者の周りでも後悔している方が続出しています。

釘を刺しておきますが、「履くだけで〇〇系」のインソールにロクなものはありません。インソールはあくまで靴とワンセット。どんなにすぐれたアプリでもスマホがなければ無意味なのと同様に、あくまでサポートに徹する脇役なのです。インソール界もサバイバルが激しいので、来年以降、粗悪品はかなり淘汰されると思います。

国内のメーカーで良心的なのがバネインソール社の「バネライト」(4290円)です。スポーツだけではなく、立ち仕事や電車で踏ん張るときなどにも有効。硬めのプレートの上に骨が乗る構造と日本人向けの小さいヒールカップ。極限までムダとコストをそぎ落とした「いぶし銀」的存在です。2025年に発売されたインソールの中ではこのモデルが最優秀だと思います。価格も品質のうちなので。

◆スニーカーが正解の時代へ。JALが示したビジネス足元の新基準

予想外だったのが「ビジネスカジュアル」靴の思わぬ鈍化でした。「革靴じゃない、でもマナー違反にならないスニーカー」という見えない基準が思った以上にハードルが高いようで、「じゃあ革靴でいいや」となってしまった方がほとんどだったのではないでしょうか。実際サラリーマンの方の足元を見ても、ネクタイはしていないのに革靴という方が圧倒的に多く、しかし「革靴は多少汚れていても履いていればOK」と誤った解釈している方が散見されました。

逆です。革靴である以上、汚れた革靴ほど悪印象を与えるものはありません。革靴を手入れするのが面倒な方は、現実的な策として、ウェットティッシュで拭いて終了、逆に言えば他にメンテのしようがない合皮のミニマムデザインのスニーカーのほうがいいと思います。ぱっと思いついて無難なところだと、GU「ふかふかスニーカー」(1990円)です。

ウェットティッシュでキレイにした合皮スニーカーのほうが、汚い革靴の100倍マシです。男女兼用で中敷きも外せるので、バネインソールなどと機能性インソールを入れて掛け算すれば、歩き心地ははるかにアップします。合皮なので1年程度で劣化、買い替えが目安ですが、キャンバスより悪目立ちしません。ちょうど2025年11月13日より、あのJALがようやくスニーカーを解禁しました。プレスリリースの写真で空港スタッフがスニーカーを履いていたのがおそらくこちら。違和感もなく、グリップも効くので機内で安全に働けて、いざという時のアクシデントにも十分耐えられると思います。

2025年の靴業界を振り返ると、派手さよりも“実力”が問われた一年だったと痛感します。ブランド名や見た目の格好良さだけでは選ばれず、価格・在庫・実用性など、総合力でシビアに評価される時代になりました。2026年はその傾向がさらに強まり、「本当に足にいい靴」「使う人の生活に寄り添う靴」だけが残っていくはずです。あなたの足元にも、きっとまだ見ぬ一足が待っています。流行に振り回されず、ぜひ来年も「あなたの足」を主語にした靴選びをしてみてください。

【シューフィッター佐藤靖青】
イギリスのノーサンプトンで靴を学び、20代で靴の設計、30代からリペアの世界へ。現在「全国どこでもシューフィッター」として活動中。YouTube『足と靴のスペシャリスト』。靴のブログを毎日書いてます『シューフィッター佐藤靖青(旧・こまつ)@毎日靴ブログ』。著書『予約の取れないシューフィッターが教える正しい靴の選びかた』

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