
それは、「教員の孤立は、子どもたちの孤立につながる」ということです。
先日、認定NPO法人D×P(ディーピー)の代表・今井紀明さんとお話しする機会がありました。D×Pは、LINE相談「ユキサキチャット」やユースセンターの運営を通して、家庭にも学校にも居場所のない10代に寄り添う団体です。
今井さんとの対話を通じて、教員の孤立は単なる労働問題ではなく、若者支援の“漏れ”を生む構造的な問題でもあると強く実感しました。なぜ、先生の孤立が子どもを追い詰めるのか。その背景について述べます。
担任制度と業務の「偏り」が生む、ひとりで抱え込む日常
学校には「個で完結する仕組み」が多く存在します。その最たるものが担任制度です。|
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私が主宰するコーチング塾に訪れる先生方からは、よくこんな声が寄せられます。 「辞めたいわけじゃない。でも、続けられるかわからない」。
これは個人の能力不足ではありません。「一人で抱え込みやすいシステム」そのものが大きな課題なのです。また、業務量の多さだけでなく、「誰にどれだけの仕事が偏っているか」という不均衡も先生たちを疲弊させています。責任感の強い教員に次々と仕事が集まり、逆に「ほどほどでいい」と考える教員には回ってこない。この実態が、現場の孤立感を深めています。
SNSで可視化される「辞める先生たち」が不安を加速させる
私が教員を辞めた2020年頃は、SNSで退職報告を見ることは稀でした。しかし今では、年度末になるとタイムラインが「辞めました」という報告であふれかえります。こうした投稿は、現場の先生の心理に大きな影響を与えています。 SNSでは、辞めた後の“自由さ”や“新しい働き方”が輝かしく強調されがちです。今の働き方に悩む先生ほど、それを見て「このまま続けていいのだろうか」「自分もいつか限界が来るのでは」と将来に迷いが生じます。
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さらに、SNSで声が大きくなるのは「辞めた人」や「苦しかった人」であり、現場で静かに頑張る大多数の教員は可視化されません。その結果、SNSを見るほど「現場はもう持たない」「辞めるのが普通なのかもしれない」という錯覚が起きやすくなります。
リアルな同僚とは忙しくて話せず、SNSからは「辞める声」ばかりが強く聞こえてくる。 この“見えない分断”が、先生たちを心理的な孤立へと追い込んでいます。
同じ職場にいても、心の向く方向がバラバラになってしまう──。 SNSがつくる“見えない分断”が、教員の孤立を静かに押し広げているのです。
子どもの背景に寄り添いたくても寄り添えない「現場の限界」
学校の外から若者支援を行う今井さんは、こう指摘します。 「先生は頑張っている。でも余裕がなくて、子どもの背景まで追いきれない現実がある」D×PのユースセンターやLINE相談には、家庭に大人がいない、食事がとれないといった深刻な孤立状態にある生徒が多く訪れます。本来なら学校から支援機関へつながれるはずの子どもたちが、先生の多忙さや孤立によってこぼれ落ちてしまっているのです。
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外とつながれば先生の孤立は減り、子どもを守る網の目は細かくなる
だからこそ、私は「外の世界とつながること」が教員の孤立を減らす鍵だと考えています。学校の外に目を向ければ、先生たちの悩みを理解し、D×Pのように支援しようとする仲間がたくさんいます。外部とのつながりは心の余白を生み、子どもたちに向き合うためのエネルギーを取り戻す大きな助けになります。
現在、D×Pの今井さんが活動を広げるためのクラウドファンディングに挑戦しているのも、10代の孤立を減らす取り組みであると同時に、「若者支援は学校の外にも仲間がいる」というメッセージを先生たちに届ける側面があります。
これを知るだけでも、先生の心には大きな変化が生まれます。「全部自分で抱えなければならない」という錯覚から自由になれますし、外部と自然につながれる環境が広がれば、支援が必要な子どもたちと適切な支援先がさらに結び付きやすくなります。
先生が孤立しない学校は、子どもが安心して過ごせる学校です。
先生同士が支え合い、外部の専門家ともつながり、子どもたちをチームで見守れる環境を作る。そうすることで、若者支援の網の目は確実に細かくなり、救える子どもが増えます。
教員はひとりで頑張りすぎなくていい。相談していいし、外に頼ってもいい。 「先生が孤立しない社会は、若者が孤立しない社会につながる」 これは、学校の外から若者支援を行う今井さんとの対話を通して、私が強く確信した希望です。
坂田 聖一郎プロフィール
教員を13年間経験した後、独立し「株式会社ドラゴン教育革命」を設立。「学校教育にコーチングとやさしさを」コンセプトに、子どもたちがイキイキと学べる教育を実現できる世の中を学校の外から作りたいという想いで活動する教育革命家。(文:坂田 聖一郎(子育て・教育ガイド))
