現在住んでいる部屋と、ミニマリストしぶさん 家具はなく、大型家電は洗濯乾燥機のみ。冷蔵庫もテレビもない、寝るのは寝袋。極限まで物を減らした先にあったのは<最大限の自由>。
『新版 手ぶらで生きる。見栄と財布を捨てて、自由になる50の方法』(ミニマリストしぶ著、サンクチュアリ出版、2025年10月)は、2018年に出版され7万部を記録した書籍の新版です。
◆私達は物に支配されている
2017年に開始した「ミニマリストしぶのブログ」は開設1年で月間100万PVを超過。現在はミニマルな機能美を追求するアパレルブランド「less is_jp」も監修しています。
1995年生まれのしぶさんは、いわゆる「もったいない」世代ではありません。かつて<マキシマリストの家で育った>しぶさんを変えたのは<ミニマリズムという考え方>でした。
物や情報があふれる世の中で、いつしか私達はそれらに圧迫されて生きていないでしょうか。「私って何者?」という疑問がふとわいたら、しぶさんの考え方が参考になるかもしれません。
◆ミニマリズムとは何か?
本書によるミニマリズムとは<より少なく、しかしよりよく生きる>こと。ただやみくもに物を減らすのではなく、自分にとって何が必要で何が不必要なのかを見極めることです。
裕福で何でも手に入る家庭で育ったしぶさんですが、父親が自己破産し、両親の離婚で生活が一転。シングルマザーとなった母との暮らしは貧しく、逆に物が増えてゴミ屋敷になってしまったといいます。
<お金がある>状況から<お金がない>状況の落差によって、<幸せな人生に必要なのは金。そのためにはいい大学、いい企業に入るしかない>という執念が発火、進学校の高校に入学するも大学受験には失敗、挫折を経験しました。
<人生あきらめモード>になったのちに、少ない持ち物で幸せそうに生活する人のブログにたどり着き、衝撃を受けます。それが<物では幸せになれない>と気づいた瞬間だったのです。
◆自分の身の丈を知る
老後2000万円問題、医療費破綻問題など、私達の不安をあおるニュースが蔓延していますが、個人が1カ月暮らせる金額はいくらなのでしょうか。これって案外把握していないと思いませんか。
しぶさんいわく<毎月かかる必要最小限のコストを把握する>のが不安解消の第一段階。毎月これだけあれば生きていける、というラインを知っておけば、不確かな未来に惑わされることは少なくなります。しぶさんの必要最小限のコストは、は家賃込みで月7万円。もちろん、ライフスタイルの変化によって金額も変動しますが、都度、最低ラインを知っておくことで、「××円があれば生きていける」という安心材料になりませんか。
ワークライフバランスも自然に整い、身の丈に合った生活を構築できるはずです。
◆なんとなく、で買わない、持たない
白で統一されたしぶさんの部屋は、まさに清潔そのもの。大型家電は洗濯乾燥機のみで、家具は折り畳みベッドとデスクがふたつ。衣類や靴は黒、食器も最小限で食事は<1日1食>。私はこの光景を見て、無限の広がりを感じました。何もない、というのは、自分の可能性を再認識することだと思ったのです。
しぶさんの買い物のルールは<「好き」ではなく、「大大大好き」な物を選ぶ>。流行っているから、便利だから、バズったから…、という外側からの刺激ではなく、自分が心の底から求めているかどうかが最優先なのです。
しかし、何が大大大好きなのかわからない、という方もいますよね。そんな時に試してほしいのが<100の大好きリスト>。これは<固有名詞から抽象的なものまで全部、頭にパッと浮かんだ「自分の好きなもの・こと」を書き出していく>方法。こうすることで、自分の<好き>が可視化されていくのです。
◆美容は投資、健康は資産
持たない暮らし、というと世捨て人のようなイメージもつきまといますが、一番大切なのは自分自身です。しぶさんがお金をかけるのが健康と美容。といっても、やりかたはいたってシンプルです。
<毎日意図的に1万歩以上(1時間〜1時間半)のウォーキングと<7時間以上睡眠を毎日死守>すること。グッズを買わなければ健康になれない、という考え方がそもそも違うのかもしれません。しぶさんの<街を私物化し、カフェやコワーキングスペースを仕事場に、スーパーを冷蔵庫に、ジムを銭湯に、コンビニを宅配ボックスに>という風に、出かける機会を生み出せば、否応なく運動してしまう仕組みになります。
ミニマリストの印象からは意外かもしれませんが、美容も<コスパがいい投資>なのだとか。しぶさんがやっているのが肉体改造。筋トレにヒゲ脱毛、歯列矯正にアートメイクにICL(眼内コンタクトレンズ)。筋トレやヒゲ脱毛でコンプレックスを解消し、歯列矯正やアートメイクで身支度の時間をカットできたそうです。
長い目で見れば、ストレス解消や時短、自信アップにつながるので、物にお金を使うよりはるかにメリットが大きいのでしょう。
◆貯金は上限60万円、余ったお金は人に回す
生活費がかからなくなり、必然的にお金が余るようになった、としぶさん。ここで際限なく貯金を殖やしていく、という思考になりそうですが、しぶさんは違いました。
<貯金して手元に眠らせていても仕方がない。人にお金を「まわす」ことにした>なぜなら、<自分にお金を使っても、満たされなくなった>からです。お金を使ってほしいと願う人にお金を回すと、しぶさん自身も満たされる、そんな境地に至ったのです。
しぶさんは<60万円以上は貯金しない>というルールを設けました。60万円というのは、<必要最小限かかる生活費の1年分>だからです。家賃を入れても、生活費は月7万円ですむそうです。自身のライフスタイルが確立されているからこそ、世の中の雑音に惑わされず、しなやかに生きていけるのでしょう。
より自由に、より自分らしく、幸せに生きるためにはどうしたらいいのか。何を手放し、何を選べばいいのか。本書が参考になるはずです。
<文/森美樹>
【森美樹】
小説家、タロット占い師。第12回「R-18文学賞」読者賞受賞。同作を含む『主婦病』(新潮社)、『私の裸』、『母親病』(新潮社)、『神様たち』(光文社)、『わたしのいけない世界』(祥伝社)を上梓。東京タワーにてタロット占い鑑定を行っている。X:@morimikixxx