入場無料で10万人突破の東京デフリンピック。乙武洋匡「これを成功と言えるか?」運営費130億円の資金源とは

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2025年12月04日 09:20  日刊SPA!

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写真/産経新聞社
 日本初開催となる「東京2025デフリンピック」が11月26日、全12日にわたる大会日程を終えて閉幕した。実施された競技数は陸上競技やバドミントンなど計21に上り、日本選手団は全競技に出場を果たし、過去最多となる計51個のメダルを獲得。金メダル数、総数ともに史上最多だった。
作家の乙武洋匡氏は、入場無料の盛況の裏で「大会運営費の多くが“都民や国民の税金”で賄われた現実を見落としてはならない」とする(以下、乙武氏による寄稿)。

◆入場無料を補ったのは都民や国民の税金……。これを成功と言えるか?

「聴覚障害者のためのオリンピック」とも言われるデフリンピックが日本で初開催された。私のタイムラインでは、連日、選手たちの奮闘を伝えるニュースが流れてきたが、これだけアルゴリズムが高度に発達した時代になると、世間の温度感がどの程度のものだったのかは掴みにくい。

 今回のデフリンピックは成功だったと言えるのか。日本勢は16個の金メダルを含め、過去最多となる51個のメダルを獲得した。試合結果という面から論じるなら大成功だったと言えるだろう。日頃から涙ぐましい努力を重ねてきた選手の皆さんはもちろんのこと、コーチングスタッフやこれまでサポートしてきた関係者の方々のご尽力に心から敬意を表したい。

 では、集客面ではどうだろうか。当初は大会全体で10万人の観客数を見込んでいたとのことだが、フタを開けてみれば折り返し地点にも満たない大会5日目で早くも10万人を突破。バレーボールの会場に至っては連日の超満員で、入場規制を敷くほどだったという。他の会場でも連日長蛇の列ができ、大会前の予想を大幅に上回る盛況ぶりだった。だが、これを「成功だった」と結論づけるには、もう少し議論が必要だ。

 今大会、実は入場無料。予約も不要だった。デフリンピックの知名度は決して高いとは言えない。入場料を設定すると観客減が予想されるというジレンマはあっただろう。また、無料にすることで多くの来場者を呼び込み、聴覚障害やデフスポーツに対する理解を深める機会とする狙いもあったに違いない。

◆東京パラリンピックでは?

 では、その分は、誰が負担したのか。今大会の運営費は、130億円だと公表されている。そのうち110億円については「都や国への支援を求める」ことになっている。わかりやすく言い換えれば、都民や国民の税金によって開催された大会ということになる。

 ’21年に開催された東京パラリンピックは、コロナ禍により結果的に無観客となってしまったが、競技の観戦も開閉会式もチケット販売がなされており、あくまで有料化を前提とした開催だった。きちんと「メシが食える大会」として設計されていたのだ。

 デフリンピックも、’05年のメルボルン大会や’09年の台北大会ではチケットの販売実績がある。無料の大会と有料の大会、どちらが正解とたやすく断じることは難しい。しかし、障害者スポーツのさらなる発展を願うからこそ、今後は「メシが食える大会」を果敢に目指してほしい。

<文/乙武洋匡>

【乙武洋匡】
1976年、東京都生まれ。大学在学中に執筆した『五体不満足』が600万部を超すベストセラーに。卒業後はスポーツライターとして活躍。その後、小学校教諭、東京都教育委員などを歴任。ニュース番組でMCを務めるなど、日本のダイバーシティ分野におけるオピニオンリーダーとして活動している

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