海外拠点、成功のカギは? 「本当に使える物流会社」を見抜く方法

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2025年12月05日 07:40  ITmedia ビジネスオンライン

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前回に続き、物流パーソンが海外支援に出かけていく際にぜひ持って行ってほしい「物流会社選定ツール」を紹介する

●連載:仙石惠一の物流改革論


【成功のカギは?】海外拠点で「本当に使える物流会社」を見抜く方法


物流業界における「2024年問題」が顕在化している。この問題を克服するためには物流業の生産性向上以外の道はない。ロジスティクス・コンサルタントの仙石惠一が、運送業はもちろん、間接的に物流に携わる読者に向けて基本からノウハウを解説する。


 国内で工場を展開している会社であれば、大抵の会社で物流業務をアウトソース(外注化)しているだろう。自家物流で運ぶケースもあるかもしれないが、今のトレンドはアウトソースにあると言える。そこで、皆さんには現在使っている物流会社に対する満足度を改めて考えてほしい。


 企業が海外進出において物流を成功させるためのポイントは何か――。こうしたテーマで、前回は、海外に新たに拠点を設けるに当たって、事業の発注先となる物流会社の「選定の初歩ステップ」を紹介した。選定候補となる会社への情報提供依頼(RFI)や現場確認、経営者面談を通じて候補会社を評価する方法だ。


 今回は、その評価結果をもとに最終候補を絞り込み、仕様書作成や説明会の実施、さらには物流会社の改善力を見極めるステップを解説する。


 ここを怠ると、海外ではコスト増や納期遅延といったトラブルにつながる。この記事では、失敗を防ぐための具体的な手順を示す。


●著者プロフィール:仙石 惠一(せんごく・けいいち) 


合同会社Kein物流改善研究所代表社員。物流改革請負人。ロジスティクス・コンサルタント。物流専門の社会保険労務士。


1982年大手自動車会社入社。生産管理、物流管理、購買管理を担当。物流Ierの経験を生かし荷主企業や8物流企業の改善支援、各種セミナー、執筆活動を実施。


著書『みるみる効果が上がる!製造業の輸送改善 物流コストを30%削減』(日刊工業新聞社)『業界別 物流管理とSCMの実践(共著)』(ミネルバ書房)


その他連載多数。


●選定ステップ3:候補会社評価表の作成


 前回説明したRFI、物流現場確認、経営者面談を実施した結果をまとめ、自社の要求に合致しているかどうかについて図1のような採点表(候補会社評価表)を作成して最終候補になり得るかどうかをチェックしていく。最終候補会社への絞り込みができたところで、その結果を候補会社一覧リストにまとめよう。


 このリストが今後、自社としてつきあっていく物流会社(3PL(※)含む)を示していることになる。またこのリストは定期的に見直しをかけ、常に候補会社について最新の情報にアップデートしておくことを忘れてはならない。ここまで出来たら次のステップである物流会社選定プロセスへ移行することになる。


※3PL:サードパーティ・ロジスティクス。荷主企業の物流機能である輸送、保管、在庫、顧客サービス、荷役、情報サービスなどを、荷主企業に代わって一括して提供するか、もしくは、これらの機能を個別にまたはいくつかを組み合わせて、一定期間契約に基づいて提供する事業者のこと。


●選定ステップ4:仕様書の作成


 いよいよ物流会社の選定プロセスに入るが、海外では特に相手との契約内容が重視されるのでしっかりとした仕様書を作成し、見積をもらうことがポイントだ。日本のように契約内容を曖昧(あいまい)にしたまま業務をスタートすることは危険である。足をすくわれないようにこのプロセスはきちんとやっておこう。


 図2をご覧いただきたい。これらの項目を仕様書に織り込む必要がある。


 物流仕様を提示する際には以下の2つのパターンがある。


(1)物流条件を荷主(工場含む)側で全て決定する方式


(2)キー項目は指定するが、物流会社に提案の余地を残す方式


 前者では物流ルートから荷の積み方まで厳格に荷主が指示するパターンであり、その変更も荷主が決めることになる。


 一方、後者ではキー項目だけ指定し、後は物流会社に判断の余地を残しているため、ある程度物流会社の提案で仕事を組み立てられることになる。ただし荷主が全ての項目を決めるには相当その地の物流について熟知していなければならないため、ほとんどのケースでキー項目だけの提示になると思われる。


●選定ステップ5:仕様説明会兼入札説明会の実施


 仕様書の作成が出来たところで仕様説明会を実施しよう。公平を期すためにも、全ての候補会社に一堂に集まってもらい、その場で物流仕様について説明を行う。この説明会は仕様説明会であるとともに入札説明会も兼ねることになる。この説明会でのポイントは委託する物流契約の条件を明確に伝えることである。図3をご覧いただきたい。


 これは輸送を業務委託するケースである。このように基本的な物流条件を見積依頼書として各社に提示し、それに対する回答をもらうようにするのだ。この例では11番以降(図4)に相手からの提案を要請することにしている。


 3PLから回答をもらうに当たり、特に改善提案は重要である。コスト面や品質面などで相手から提案をしてもらいたいことがあればその旨を要請しておこう。さらに正確な見積もりをもらうために、図5のように発着地、輸送物量と荷姿条件などのデータを示す。


 さらに燃料が変動した場合に価格は変更するのか、当初予定していた荷量に変動があった場合に価格は変更するのか、改善提案にはどのようなことを記載したらよいのか、遅延があった場合の賠償は要請するのかなど、想定される質問に関してはあらかじめ回答を準備して臨みたい。


●改善力見定めの重要性


 特に改善提案は重要だ。荷主会社から物流会社に発注後、改善提案がないという不満を耳にすることがある。荷主は物流会社を本当の物流のプロだと思っているのだ。だからこそいろいろな視点から物流を良くするアイデアを提案してほしいと期待している。


 しかし多くの場合、その期待が裏切られているようだ。そこで、あらかじめ物流会社選定時にその期待値を相手に伝え、明確に改善提案をコミットしてくれる会社を採用するように心がけたい。


 可能であれば自社の困りごとをまとめておくこともお勧めしたい。物流品質がなかなか向上しないことや在庫が減らなくて困っていることなど、いくつか物流関係での課題をお持ちではないだろうか。それに対する処方箋をプレゼンテーションしてもらう方法が考えられる。これは効果的だ。なぜならこれを実施するとその物流会社の技術力が判断できるからだ。


 もう一つは、その物流会社を工場や倉庫などの現場に連れて行って、その場で質問してみることだ。困りごとに対して何かしらの助言をもらえるような会社であれば、将来的に付き合うメリットもあるはずだ。


 大事なことは物流オペレーションの水準が高いことは当然として、改善力や管理力といった技術と管理技術を持っている会社かどうかを見定めることだ。これができるのは物流会社選定時であることはご理解いただけるだろう。



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